大谷翔平が念願のWS優勝を果たしたウラで

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日本シリーズの価値低下が浮き彫りに

 米大リーグ、ドジャースの大谷翔平の“世界一”に沸いたワールドシリーズ(WS)に対し、同じ日程での開催で注目度をそがれていた今年の日本シリーズを象徴するようないざこざが発覚した。日本シリーズを主催する日本プロ野球機構(NPB)が同時間帯にWSを再放送したフジテレビに対し、取材証没収のペナルティーを科していたことが毎日新聞の10月30日付の記事により明らかになったのだ。

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 日本シリーズはその年の日本球界最大のイベント。それでも、裏番組でWSを再放送することは規則や契約に抵触するものではない。NPBの対応には「行き過ぎ」との批判が出ている一方で、国内最高峰の舞台に水を差すようなフジテレビの視聴率至上主義には疑問の声も上がっている。複数の球界関係者によると、NPBは日本シリーズの特別協賛社であるSMBCなどスポンサーに対する配慮からフジテレビに強硬的な措置を取らざるを得ないというのだが……。

大谷翔平が念願のWS優勝を果たしたウラで

 今回の一件は図らずも日本シリーズの価値低下という事実を浮き彫りにしてしまった。

 そもそも日本シリーズの中継は球団がテレビ局を推薦した上で、NPBが承認するという手順を踏む。球団はレギュラーシーズンでの放送実績を加味するなどして推薦する局を決定するのだが、キー局と関係が深い在京セ・リーグ球団の本拠地での日本シリーズに限っては棲み分けが決まっている。巨人なら日本テレビ、DeNAならTBS、ヤクルトならフジテレビという具合だ。

 今年の日本シリーズでセ球団のホームゲームをフジテレビが中継することは、ヤクルトのクライマックスシリーズ(CS)進出が絶望的になった9月21日の敗戦で、可能性が消滅したと言えた。そして3位のDeNAがCSで2位の阪神や1位の巨人を破る下克上で日本シリーズへと勝ち上がったため、本拠地横浜スタジアムでの第1、第2戦をTBSが中継することになった。

「CX(フジ)もヤクルトが出場していれば、同時間帯にWSを再放送することはなかった。ヤクルトがソフトバンクの本拠地で試合をした時の中継が他局であっても、盛り上がりに支障がないように再放送は自重したのではないでしょうか。今年は大谷の注目度が別格なことを差し引いても、そうした忖度が働かないほど今の日本シリーズの価値は下がっているということでしょう」(在京キー局関係者)

ヤクルトは来季も苦戦必至

 さらに、同関係者はヤクルトの現在のチーム状況も遠因に挙げる。ヤクルトは今季まで2年連続5位と不振だ。去就が微妙だった高津臣吾監督は契約を1年だけ延長。現状では来季も苦戦必至で、オフには村上宗隆内野手のポスティングシステムによるメジャー移籍が取り沙汰される。

「来年以降も戦力的に厳しいことが分かっているだけに、ヤクルトが数年は日本シリーズには出てこないという見込みの下、CXがWS再放送に踏み切った部分もあるかもしれませんね」

 平均視聴率を見ると、WS第1戦は土曜日の午前9時過ぎのプレーボールで、個人視聴率7.1%、世帯視聴率12.7%と高い数字をたたき出した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。翌日曜日の第2戦は個人8.1%、世帯13.9%とさらに伸ばしている。

 一方で日本シリーズは第1戦が個人6.5%、世帯10.5%、第2戦は個人4.2%、世帯6.9%とゴールデンタイムに重なっていてもWSに完敗を喫した。

 その裏番組で、ダイジェストで再放送したWSは第1戦が2時間枠で個人4.9%、世帯8.1%、衆院選特番との兼ね合いで1時間枠だった第2戦は個人3.5%、世帯5.6%と結果が分かっていても日本シリーズに迫る数字を出した。シリーズ開幕前の小久保裕紀監督の「WSとかぶるので注目度も分散されがち」との不安が的中する結果となった。

ギクシャクしても視聴率優先

 巨人の長嶋茂雄監督と、ダイエー(現ソフトバンク)の王貞治監督による「夢のON対決」が注目された2000年ぐらいまでなら、日本シリーズはキラーコンテンツだった。その後、巨人戦が地上波から消え、推しのスポーツや趣味が多様化した時代にプロ野球はオンリーワンの競技としての地位を失う。超一流のNPB選手がメジャーを目指して海を渡った流れが拍車をかけ、日本シリーズの価値は低下するしかなかった。

「日本シリーズの放映権がドル箱だった時代なら各局がNPBに配慮して、WSを再放送することなどはなかったと思います。今は隆盛を誇った時代の価値がないため、たとえNPBとの関係がギクシャクして来年以降の日本シリーズの放映権取得に支障を来したとしても、目先の視聴率を優先してしまおうとしたのではないでしょうか」(前出の関係者)

 毎日新聞の記事中で紹介された「スポンサーを含めて、日本の野球界全体で日本一を決める試合を行っている裏に、わざわざWSの番組をぶつけてくるのはおかしい」というNPB幹部の言葉もむなしく聞こえる。

一足早い「WS終了」が救い

 メディア関係者によれば今回、NPBがフジテレビに科した“出禁”は、実際は実効性が高いものではなかったという。フジテレビの系列局「テレビ西日本」が中継した第3戦でも、フジテレビとは別会社との理由で取材証は発行されていたとされ、あくまでスポンサー企業の顔を立てることが目的で、形式的なものに過ぎないようだ。

 しかし、こうした場外戦が明るみに出たことで、内実とは異なっても結果的には報道の自由を制限したNPBの「狭量」と、そうまでして守らなければならない日本シリーズの「価値の現在地」が悪目立ちする形になってしまった。WSが第5戦で一足早く終わり、日本一が決まる日本シリーズの第6戦以降と重なることはなくなり、騒動が沈静化に向かうことだけが救いになるのだろうか。

デイリー新潮編集部