稽古場に座り、じっと前を見つめる東出昌大(撮影・吉澤敬太)

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 俳優・東出昌大(36)がこのほど、都内でデイリースポーツの取材に応じ、1日に初日を迎える出演舞台「光の中のアリス」(10日まで、東京・シアタートラム)に懸ける思いを語った。“演劇界の芥川賞”と呼ばれる岸田國士戯曲賞を受賞した松原俊太郎氏が手がけた作品で、2020年初演で脚光を浴びた舞台の再演に新キャストとして挑む東出は「今の演劇界の最前線だと思うので、不思議体験を楽しみにしていただけたら」と意気込みを示した。

 同舞台は、今後の演劇界を担っていく才能として業界注目の舞台作家・小野彩加氏(32)、中澤陽氏(32)による「スペースノットブランク」が演出と出演を兼任する。

 「業界では、かなり注目度の高い2人で。『舞台の中央で僕が輝いてやる!』なんて、とても思えないぐらい僕には力がなくて。このスゴい人らの良い材料になりたいとは思っています」

 初演でキャスティングされた荒木知佳(29)、古賀友樹(31)らが引き続き出演。若手たちとの共演になるが、胸を貸すような意識は「全くございません」と苦笑した。

 「確かに彼らは僕より若いですが、以前から(舞台を)ずっとやっていて。この世界では僕の方が新参者で、全然歯が立ってない状態です。今までの経験だけでは勝負ができない。必死に食らいついていくつもりです」

 演出を務める2人は、俳優・東出昌大の特徴を端的に挙げるならば、劇を映像化して捉える際の瞬発力と声だと明かす。

 「全部の役が、しゃべり方も声が出てくる場所もそれぞれ違うはずだと思うので。実在のモデルの方がいらっしゃる場合はトレースするつもりで、形態模写に努めるような形ですね」

 昨年公開の主演映画「Winny」で第33回日本映画批評家大賞・主演男優賞を受賞。同作で役作りのために行った18キロの増量が大きな話題になったが、東出にとっては「トレース」に臨む作業の一部でしかなかったと明かす。どの作品でも常に意識をしているのは共感性だといい「人の痛みが分かるようになってなのか、分かったつもりになってなのか」と自身の現在地を振り返る。

 約3年前から、関東近郊の山小屋で自給自足の暮らしを送るが、生活環境は俳優業にも強い影響を与えているという。

 「人との会話がスゴく刺さるようになりました。(共感性が)深まった部分はあるのかなと。仕事と家との往復、都市部で生活していく日常に幸せや彩りを見つけられる方は良いと思うんです。でも、僕はそういう日常を送ると無味乾燥になってしまう人間で。幸せは優劣をつけることでもないとも思っていますし」

 舞台「光の中のアリス」は、現在進行形で研磨を続ける俳優としての「今」を示す場でもある。「最近プライベートが変な役者が一生懸命に芝居をやってるみたいだって、興味を持っていただけたら、うれしいですね」。穏やかな笑みに、役者としての、まっすぐな覚悟をのぞかせていた。

 ◆舞台「光の中のアリス」 イギリスの数学者であり作家のルイス・キャロル代表作「不思議の国のアリス」がモチーフ。舞台、演劇ならではのチャレンジに挑んでいく。初演は2020年。再演となる今回は新キャストとして東出が出演。ワンダーランドで画面に映るアリスを探し続けるバニーを演じる。

 ◆東出昌大(ひがしで・まさひろ)1988年2月1日生まれ。埼玉県出身。高校2年生時にファッション誌「メンズノンノ」の専属モデルオーディションでグランプリに輝きモデルデビュー。2012年に映画「桐島、部活やめるってよ」で俳優に転身し、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13年)でブレーク。約3年前から送る山小屋での自給自足生活も話題に。昨年公開の主演映画「Winny」で第33回日本映画批評家大賞・主演男優賞を受賞。