白内障治療の失敗は「レンズ選び」で起こる…値段が高いから良いとは限らない納得の理由
自分はまだ見えるから大丈夫?そう思う人の背後に、白内障の影が忍び寄っている。高額な治療法だからといって、必ずしも効果が高いとは限らない。「正解」を知ったら、きっと目を見張るはずだ。
前編記事『40代で白内障になる人が増えている…治療法を間違えると「悲惨な目」にあう納得の理由』より続く。
レンズを間違えると悲惨
手術で入れる眼内レンズにも、実は値段や性能に「松・竹・梅」のランクがある。種類に応じて値段も大きく変わるが、高額なレンズが「正解」とは限らない。
「私のもとに相談に来た消防士の方は、保険適用外の高価なレンズを選んで光がにじんで見えてしまい、夜間に消防車を運転できなくなったと嘆いていました」(たまプラーザやまぐち眼科院長の山口大輔氏)
手術後はレンズを入れた水晶体嚢が収縮するため再手術が難しく、レンズを入れ替えることは基本的にできない。レンズを選ぶ際は値段だけではなく、生活スタイルに合わせて決める必要がある。
眼内レンズには、大きく分けて単焦点レンズと多焦点レンズの2つがある。単焦点レンズとは、30・付近の「手元」から数十m先の「遠方」までのどこか一点のみにピントを合わせたもの。保険適用のため、金額は両目で10万円程度に抑えられる「梅」のレンズだ。
「単焦点レンズはピントを合わせた距離以外のものを見るために眼鏡が必要ですが、特定の焦点では他のレンズと比べてクッキリと見え、夜間も光がにじんで見えることはありません。手元で作業をする事務仕事の方や、夜間に運転する方に薦めています」(順天堂大学医学部附属静岡病院特任教授の太田俊彦氏)
一方、多焦点レンズは手元から遠くまで、どの距離を見るときでも自然にピントが合うレンズだ。種類によって費用の一部に保険が適用される「選定療養」と、保険適用外の「自費診療」に分けられる。基本的にどちらも術後は眼鏡なしで生活できるが、前者は厚生労働省の認可を受けたものに限られる。
選定療養の多焦点レンズは手術や診療には保険が適用されるため、単焦点レンズを選んだ場合と比べて、追加で支払うのはレンズ本体の差額およそ30万円で済む。
「選定療養の多焦点レンズはどの距離でも焦点が合う。自費診療と比べれば価格もリーズナブルで多くの方にとっては機能的に十分なので、眼鏡なしで生活したい患者さんには最初に薦めています」(前出の山口氏)
レンズの選び方は人それぞれ
対して自費診療の多焦点レンズは、手術代からレンズ代まですべて自己負担になり、合計90万〜150万円ほどかかる。選定療養で選べるレンズと比べてバリエーションが豊富なので、患者の細かな希望に合わせてレンズを選ぶことができる。前出の赤星氏がその利点を解説する。
「レンズによっては老眼も治せるほか、緑内障や加齢黄斑変性症などを抱えていて、従来のレンズが不適合だった方でも使えるものもあります。光がにじんだり、まぶしく見えたりすることもなく、明るく鮮明な視界が得られます」
それらに加えるオプションとして、乱視の人には「トーリックレンズ」という選択肢もある。これまで紹介した3種類それぞれに乱視矯正機能を追加したレンズで、同じく単焦点レンズでは保険が適用され、多焦点レンズならば選定療養と自費診療の2種類から選ぶことができる。
トーリックレンズを使って白内障手術を行う場合、乱視の度数を細かく計算し、手術中にレンズの方向を厳密に合わせる必要がある。単焦点レンズなら保険が適用されるので、患者の負担は通常のレンズと変わらない。
「術後の乱視は眼鏡でも矯正できますが、乱視用眼鏡は床が浮いて見えたり、壁が傾いて見えたりして不快に感じる人も多い。トーリックレンズを使えば同時に乱視も治すことができます。
特に多焦点レンズを選んだ場合、乱視矯正は必須です。眼鏡がいらない生活を望んでいたのに、乱視のせいで近くも遠くも見えにくくなって、当院を受診された患者さんもいました。
ただトーリックレンズを入れる手術には高精度な術前検査と医師の技量が求められ、レンズの方向を誤るとかえって乱視が酷くなる場合もあります。扱っている病院もまだ少ないので、HPで事前に確認するか、診察の際に医師に聞いてみるとよいでしょう」(日本橋白内障クリニック名誉院長の赤星隆幸氏)
「若いから大丈夫」と高をくくっていると、知らぬ間に症状が悪化して選択肢も少なくなってしまう。できるだけ早く、後悔のない決断をしたい。
「週刊現代」2024年10月26日・11月2日合併号より