大阪出身・ハンブレッダーズの結成15周年記念ライブが、2024年10月9日に日本武道館で開催された。

高校1年生の時、文化祭に出るために結成してから足掛け15年、2016年にベース・コーラスを務めるでらしが加入、2022年に現在ギターを務めるukicasterが正式に加入して現体制になって約2年、30歳になった彼らが"ロックの聖地"に立つことになった。

平日水曜日にも関わらず、多くの観客が詰めかけたこの日。アリーナから2階席のテッペンまで人・人・人で埋め尽くされての満席状態でライブは催された。

そこで鳴らされたのは、いつも通りの彼らの風景。なるたけ自然体でありのままに、屈託ない表情で僕らに寄り添う彼らの曲であった。

ライブが始まる10分ほど前に始まるものと言えば、ライブ開始前の注意喚起アナウンス。音楽ライブによく行く人にはわかってもらえると思うが、スペシャルなライブのときほど、この影ナレーションを"特別なひと"が担うことが多い。

この日の注意喚起アナウンスは、なんと、2010年から約10年にわたってラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」でMC(校長先生)を務めていたグランジ・遠山大輔によるものだった。

一連のアナウンスを終えると、ハンブレッダーズへの愛情を話し始める遠山。「45歳になっても青春を思い出させてくれる」と評しつつ、熱いMCで会場を煽ると、大きな歓声が沸き起こる。

客電が落ち、碧色のライトが会場を照らすなかでステージにあがった4人。記念すべき一夜、1曲目「DAY DREAM BEAT」を演奏しはじめた。


ムツムロ アキラ(Vo&Gt)

ベース・でらしとukicasterがステージ左右まで一気に駆け出し、観客と目を合わせながら演奏をする。ムツムロはこう歌う。

たった一秒のあの旋律が
たった一行の言葉遊びが
揺蕩う僕の光になったんだ
自己啓発本みたいな歌に騙されんな
大人になればわかるなんて嘘だ

「日の丸背負って、日本武道館にギター鳴らしに来ました!」というMCから2曲目に「ギター」を披露すると、今度は火柱がバシバシとあがる。ライブ開始早々のド派手なステージ演出に観客も驚きを隠せない。

3曲目「ワールドイズマイン」ではでらしのスラップを使ったベースラインから入り、「いつでも主人公は遅れて登場すんだ/お待たせしました ド派手なエレキギター」という歌詞に合わせて、ステージ中央でukicasterがギターソロをぶちかます。ライブの冒頭3曲で、会場のテンションをあげにあげようとしてきたのだ。


ukicaster(Gt)

「楽しみ方は決まってない。コールアンドレスポンスも決まってない。好きに楽しみを見つけていってほしい」

そんな言葉を挟んだムツムロは、眉一つ動かさず、キッとした表情だった。この序盤3曲の派手なステージ演出のなかにあっても、一切動じないといった様相。

3曲目を終えて静寂が初めて会場をつつむと、メンバーの名前を呼ぶ声がいくつもあがる。するとムツムロは「喋らんとこうかな?永遠に続きそうやね」とドラムの木島とともに観客の笑いを誘い、自身も薄っすらと笑みをこぼす。こうして薄っすらと見せてくれる笑みも、大舞台で物怖じしない不敵さの現れのように筆者には見えた。

ハンブレッダーズといえば、愛しき人へのラブソング、社会への苛立ちをこめた曲、自身の夢や理想を描いた曲、どんな曲であっても日常的な言葉を織り交ぜた筆致をみせてくれていた。生活感ある描写やボヤッとした心象を歌うことも多く、しがない一般人・庶民である僕らの目線に近く、心に寄り添う歌を生み出してきた。

そんな彼ららしく、ここからはシンプルでソリッドなギターロックで一気に畳み掛けていった。

4曲目「再生」の力強いビートとギターサウンドで、音楽の「再生」ボタンとさまざまな日々を送って曇った心の「再生」とをかけ合わせた言葉に血が通っていく。音楽への愛情を人生の中にあるワンシーンになぞって歌うところに、いつかあった日々を思い出してしまいそうになる。

武道館の景色はどう?と尋ねられ、でらしが「いやぁ、やっぱりこの景色めっちゃ『いいね』」と言葉を発して始まった5曲目「いいね」から次曲「常識の範疇」へと、音楽や映画を歌詞のモチーフに取り込みながら、自身の暮らしに音楽がともにあることをアップテンポに歌っていく。

7曲目「席替え」は、誰しもが学校生活で妄想したあんな話やこんな話、いつもの風景や勘違いが盛り込まれた学生の風景を捉えた1曲だ。ちょっとした恋模様をミドルテンポで描いたこの曲を、体を横に揺らしながら聴くファンがとても多い。じつはこの曲、2016年に発売ライブ会場と一部CDショップ限定で販売されたミニアルバムに収録されている曲であり、今はYouTubeでしか聴くことのできない1曲なのだが、アルバムもしっかり追いかけている熱心なファンばかりなのが伝わってくる。

ヨコノリのムードと学校をモチーフにした歌詞を受け継ぐように、続く曲は「十七歳」。移ろいやすい心模様、物わかりの良さが葛藤となって描かれる。シャッフル気味にハネるグルーヴ、ギターとベースで受け渡されるソロ回し、タメてからの合わせ方、さらに曲の締めかたに至るまで、意外なほどクラシカルな意匠で固められたロックンロールなのだが、サラッと歌ってくれるのが彼ららしさだろう。

そこから8ビートを強く押し出した「見開きページ」では、ステージの大型スクリーンに左から右にページをめくる演出とともにと会場で演奏するメンバー4人の姿がそれぞれ映し出される。この曲も学生生活を思わせつつ、日常パート・伏線・「…」・4コマ漫画など、漫画にまつわるモチーフ・テンプレが込められた1曲ということで、学生ノートにも漫画の単行本にも見えるという映像演出が心憎い。

つづいて披露した「名前」は、彼らの楽曲でも指折りのラブソングだ。ムツムロとukicasterの2人によるギターのアルペジオで心地よく響く音色とともに、大型スクリーンには細い筆を使ったペインティングがムービーとして流れはじめる、ミュージックビデオ制作の際に、画家の近藤康平がライブペインティングを行った様子を捉えたあのムービーだ。言葉ひとことにメロディも一音ずつはめられ、それをムツムロが明瞭なボーカルで歌っていく。歌い終えたあと、近くで鼻をすする声がハッキリと聞こえた。


でらし(Ba&Cho)

続いて披露したのは「AI LOVE YOU」、サイバー感のあるカラフルな演出映像が流れるなか、ダンサブルなビートが会場を揺らしていく。先程までは誠実なボーカルで観客の心を揺らしていたが、この曲では声にエフェクトがかかっていたという対比も面白い。同じくダンスチューンである「DANCING IN THE ROOM」は、ベースのファンキーな演奏とギターカッティングが映える魅せ場となり、大いに盛り上げてくれた。

ムツムロは「楽しいです!」と語り始め、先輩のライブで先に武道館を経験していたukicasterをイジり、『けいおん!』をキッカケにしてライブタイトルを「放課後Bタイム 〜15th Special〜」としたことを語りつつ、「じゃあ後半〜」とMCの空気をガラッと変えるように「サレンダー」を演奏し始めた。新作アルバム『はじめから自由だった』のなかでも、ソリッドなギターリフがリードするこの曲に、一気に会場のボルテージが上がっていく。


木島(Dr)

最新曲「フィードバックを鳴らして」を演奏しおわると、メンバー3人がステージからいったん降り、ドラムス・木島によるソロパートへ。シャープなドラミングで大いに沸かせ、メンバーが戻ってきて披露したのは「弱者の為の騒音を」だ。

「ギター上げてください!ロックバンドなんで!歌とか聴こえなくていいんで!!ギター上げてください!」とムツムロがPAのスタッフにむかって叫ぶと、さきほどまでの演奏よりもグッとギターサウンドが大きくなる。この1番のノイジーなギターサウンドとソロに会場から歓声が上がったのはいうまでもない。

「バンドを続けてきたからこそ、歌える音楽もあると思う。『東京』という曲をやります」

2021年6月頃に大阪から東京へと上京したムツムロが、東京での生活を経て感じたことを綴ったこの1曲は、彼のストレートなきもちが綴られた1曲だ。

繰り返しの毎日
特別なことなどない
だけど想像したほど
めちゃくちゃ悪くもない
東京に来てわかったことが
一つだけあった
僕が本当に本当に願うのは
ド派手な成功じゃなくて
お金や権力じゃなくて
君と朝ごはんを食べることさ

先にも書かせてもらったが、ハンブレッダーズはこれまで、ありふれた生活や暮らしのなかで生まれた喜怒哀楽/感情の揺れ動きを、ギターの爆音に乗せて歌ってきた。だからこそ、「普通のひと」であることから大きくズレることなく彼らは歩んできた。

ときに大げさな振る舞いをし、ヘンな妄想を膨らませたり人並みに哀しみ、怒り、喜ぶ感情を、大げさにしすぎることなく音に表現する。

パンクすぎず、メタルすぎず、ラウドにしすぎず、エレクトロにもしすぎない。シンプルかつソリッドなギターロックに、平々凡々とした自分自身の感情や心の移ろいを乗せて歌う。生活や暮らしを生きるひとのためのロックミュージック、それがハンブレッダーズの音楽であろう。

「東京」にはそんな彼らの本懐が詰まっていると言っても過言ではない。同時に、「東京」の演奏・パフォーマンスをみていて、ムツムロはこの日集まった会場の観客にメッセージをぶつけることにフォーカスしていたのだと溶けるように理解した。

ハンブレッダーズの楽曲には、ムツムロ以外の3人も一緒に歌う合唱パートが入ることが、他のバンドに比べて比較的多い。3人の合唱にあわせて観客も一緒に大声で合唱するのもお決まりなのだが、最新アルバムのタイトルソングであり1曲目「はじめから自由だった」は、その最新型と言えるもの。ドラムのフィルインから勢いよく始まるこの曲、途中の「はじめから自由だった!ぼくら!」という部分をバンドと観客が合唱する。1万人近い観客が、一体となって会場をゆらし、この日のライブを楽しもうとしていた。



続く「グー」は、この日のライブに訪れた観客や、先輩・後輩バンドに「ロックバンドってなんだと思いますか?ベース、ギター、ドラムのある形、たぶんそれだけじゃないと思う。奇抜な見た目で破天荒なことをすることでもない。ロックバンドっていうのは、声を出せない人の代わりに言えること。声なき人の声を代弁することだと思います」そう語りかけて歌い始めた。

いま目覚めたパンクな気持ち
戦うためじゃなく 握りしめたグー
躓いたりひん曲がったりしながら
生きてゆく

自由や反抗心を込めた2曲を歌うムツムロ、そこに込められたメッセージのしたたかさたるや。そこには、生活や暮らしを生きるひとのためのロックミュージックが確かに光り輝いていた。

本編最後は「フェイバリットソング」。自分がボーカルをとらなくてもみんなが歌ってくれるだろう、そう思ってかサビの途中で歌うのをやめて観客を見上げると、ムツムロの全身に大合唱が覆いかぶさるように響いた。

本編を終えてからすぐに始まったアンコール。「ぜんぶ台無しにして帰りましょう!」とムツムロがMCし、この日最後の曲として始まったのは「チェリーボーイ・シンドローム」だった。

ストリーミングでの配信がされていないインディー時代のレアな1曲で日本武道館での公演を締める。この選曲には「メジャーになっても、よりビッグな存在になっても、僕たちは変わらずにやっていく」というバンド4人からのメッセージが込められていたようにみえた。

終演をむかえ、照明がつく。約1万人近い観客たちは、踵を返すようにして自分の家へと向かっていった。ハンブレッダーズは今日の日本武道館公演のようなライブを、また近いうちにできればいいと語っていた。夢を夢としてみるのではなく、あくまで現実のなかで捉えられる"近しい未来"としてみる。そのスタンス・姿勢・視線は、長くバンドを続けてきた者だからこその気骨さに溢れたものだろう。

きっと近いうちに、もしかすればもっと大きな場所でライブをする彼らが見れるかもしれない。そんなことを思いながら、半蔵門線の電車から代々木上原に向けて歩を進めた。

<ライブ情報>

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~」
2024年10月9日(水)日本武道館

ハンブレッダーズ「秋のグーパンまつりZ 2024」
2024年11月13日(水)福岡県 Zepp Fukuoka
出演:ハンブレッダーズ / 04 Limited Sazabys
2024年11月20日(水)北海道 Zepp Sapporo
出演:ハンブレッダーズ / UNISON SQUARE GARDEN
2024年11月26日(火)愛知県 Zepp Nagoya
出演:ハンブレッダーズ / サンボマスター
2024年11月27日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
出演:ハンブレッダーズ / マカロニえんぴつ
2024年12月5日(木)東京都 Zepp Haneda
出演:ハンブレッダーズ / 凛として時雨
チケット:前売1F(スタンディング)5800円、2F(全席指定)6300円(いずれもドリンク代別途要)

Official HP:https://humbreaders.com/