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 少年院にいながら自習が基本の通信制高校に入学して学べるようにする取り組みが広がっている。

 法務省は今年度から、取り組みの対象を全国すべての少年院43か所に拡大。少年らに「学びの場」を提供して高校卒業につなげることで、少年院を出た後の再犯や再非行を防ぐ狙いがある。

「人生を変えたい」

 多摩少年院(東京都八王子市)の一室で9月27日、男性(20)が、通信制高校から出された地学の課題に真剣な表情で取り組んでいた。「マントルとか核とか、地球の内部を知るのが面白い。ここに来て初めて、勉強って楽しいと思った」とはにかむ。

 勉強が苦手で、元々通っていた高校は3年生の12月に自主退学した。その後、友人の誘いを断り切れずに非行に走り、昨年7月、同少年院に入った。

 「退学したことを後悔した。自分で学んで、人生を変えたい」と法務教官に相談し、今年4月に通信制高校に入学。基本的に通学の必要はなく、1日1時間ほど少年院で国語や倫理などの自習をこなしている。「卒業できたら、工業系の専門学校に進みたい」と意欲を見せる。

2割中卒、4割中退

 非行少年らに学習の機会を与える必要性は大きい。法務省によると、2022年に少年院に入った1332人のうち、2割が中学卒業、4割が高校中退だった。

 一方、文部科学省によると、昨年度の高校進学率は98%に達した。20年の国勢調査結果では、15歳以上の8割以上が高校や大学などを卒業している。

 仕事や学びの場があることは、再犯や再非行を防ぐ上でカギになる。少年院を出た後の保護観察期間中に再び保護処分や刑事処分を受けた割合は、無職が30%だったのに対し、職を得ていた場合は14%、学生・生徒は12%にとどまった。

 法務省幹部は「学歴が全てではないが、将来の進路や就職先を選ぶ上で、高卒の方が有利な場面は少なくない。再犯や再非行を防ぐためにも、高卒を目指して学べる環境を整える必要がある」と語る。

配慮細かく

 そこで、同省は21年度、自習が基本の通信制高校の利点を生かし、多摩少年院を含む7か所の少年院でモデル事業を始めた。これまでに計21人が入学し、課題の提出や面接指導などを経て8人が卒業、うち2人は大学に進学した。今年度から受け入れ先を増やすため、各少年院が地元の通信制高校への働きかけを進めている。

 RITA学園高校(香川県)はこれまでに5人を受け入れた。少年院にいることを他の生徒から指摘されたり、SNSで拡散されたりしないよう、面接指導は集団ではなく個別で対応するなど配慮しているという。人見敏史教頭(47)は「『高校を卒業できた』という自信をつけてもらえるよう、きめ細かく配慮しながら受け入れている」と話す。

「少年院出た後」課題

 課題となるのは、非行少年らの勉強意欲をどう高め、維持するかだ。

 同省によると、23年に少年院を出て、復学や進学が決まったのは6%にとどまった。当面の自分の生活費を稼いだり、被害者への賠償のために仕事をしたりして、勉強にかける時間的な余裕がないケースもあるとみられる。

 少年らが少年院にいる期間はおおむね11か月。この間は、法務教官が見守っているものの、少年院を出た後は、自ら勉強を進める意欲を保つ必要がある。

 伊藤茂樹・駒沢大教授(教育社会学)は「学校や勉強に苦手意識が強い非行少年は少なくないものの、学力を身につけて職に就けば、安定した収入を得ることができ、ひいては被害弁償にもつながる」と強調する。その上で、「少年院での指導の中で進学への動機づけを行うとともに、少年院を出た後も手厚いサポートを続ける工夫が必要だ」と話している。