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韓国の情報機関は、北朝鮮がロシア支援へ3000人の兵士を派遣したという見方を示しています。バンキシャ!は、その精鋭部隊「暴風軍団」に所属していた元兵士を取材。一体どのような部隊なのか。北朝鮮の思惑は…?【バンキシャ!】

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26日。バンキシャ!は韓国で、ある人物と出会った。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「アニョハセヨ」

バンキシャ
「バンキシャです」

イ・ヒョンウさん。18年前に脱北したといい、今は韓国で暮らしている。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「私は将軍様の戦士として生きる軍人でした。第11暴風軍団で上級兵士として服務していたんです」

これはロシア軍施設を歩く北朝鮮兵とされる映像だ。

親ロシア派のSNSより
「たくさんいるな」「新しい支援部隊だよ」

ウクライナに侵攻中のロシアを支援するため、北朝鮮はおよそ3000人の兵士を派遣したとみられている。その中には「暴風軍団」という精鋭部隊が含まれると、韓国の情報機関・国家情報院は指摘。

イさんはかつて、その「暴風軍団」に所属していたという。

暴風軍団の元兵士 イ・ヒョンウさん(仮名)
「暴風軍団は北朝鮮軍で最も強い部隊です。誰も近寄れません」

すべては国のため、金正恩総書記のため。日々“過酷な訓練”に励むという、北朝鮮の「暴風軍団」。その訓練の内容とは――。

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10月25日。

ゼレンスキー大統領
「北朝鮮の兵士は、早ければ27日から28日にも戦闘地域に展開する」

ウクライナのゼレンスキー大統領は、近く、北朝鮮兵が前線に投入されるとの見通しを示した。

さらに同じ日。ウクライナ軍の越境攻撃が続くロシア西部のクルスク州に、数千人の北朝鮮兵が到着したと、(当局者の話として)アメリカメディアが報じた。

派遣された北朝鮮兵の中にいるとされる、精鋭部隊「暴風軍団」。一体どんな部隊なのか?

バンキシャは、北朝鮮の宣伝用ウェブサイト「わが民族同士」に注目。現在は閉鎖されているが、取材を進めると、2013年にこのサイトに掲載されたという1本の動画にたどりついた。(提供:日本大学 川口智彦准教授)

タイトルは「3日で終わる短期決戦」。北朝鮮が思い描く“韓国との戦争”のシナリオが紹介されていた。

――発射命令から30分間、多連装ロケット砲、榴弾砲、地対地短距離ミサイルなどが、米韓連合軍の基地に向かって夕立のように降り注ぐ。

――人民軍の最精鋭兵力、“暴風軍団”が、ソウルなどの都市に侵入して、主要拠点を占領。韓国に在留するアメリカ人15万人を捕虜にする。

「暴風軍団」が、北朝鮮に勝利をもたらす「要」として描かれていた。

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北朝鮮の精鋭部隊「暴風軍団」。その実態が、脱北者の証言から見えてきた。かつて「暴風軍団」に所属していたというイ・ヒョンウさん。脱北者として韓国の国会で意見を述べたこともある人物だ。

まずは「暴風軍団」の訓練について聞いた。

バンキシャ
「どういう訓練をしていた?」

暴風軍団の元兵士 イ・ヒョンウさん(仮名)
「例えば35キロの重りを背負って、12キロの山道を歩く訓練がありました」

「長さ3メートル、重さ120キロから150キロほどの丸太を2人で担ぐ訓練もありました。担いで山を登って、下りてこられた人だけが食事にありつけるんです」

ここで、ある映像を見てもらった。2023年2月に朝鮮中央テレビが放送した「北朝鮮軍の訓練の様子」だ。そこには上半身裸で丸太を担いだり、雪山を走ったりする姿が映し出されていた。

バンキシャ
「これは暴風軍団ですか」

イ・ヒョンウさん(仮名)
「そうです。みんなで一緒に水に入るのは結束力を高めるためです。丸太を担いだまま凍った水に飛び込むんです。私の時は瓦や板を割る訓練もありました」

さらに…

イ・ヒョンウさん(仮名)
「手を包丁みたいな形にして熱した砂を突きます。熱いからすぐに引きますよね。突くパワーと引くスピードが重要なんです。敵を殺せるように訓練されていました」

素手で人を倒すため、あらゆるものを使って鍛えていたという。イスを使って実践してもらうと…

イ・ヒョンウさん(仮名)
「こうやって…(イスを倒す)」

こうした訓練は、韓国を敵国と想定して行っていたという。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「訓練を受けていた頃は手が見えないほどの速さでした。今はかなり遅くなっています」

過酷な訓練。その分、見返りは大きかったと話す。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「北朝鮮軍は給料はないに等しいのですが、食事の面では2日に1回は鶏1羽が支給されるという、一般の部隊よりもはるかにいい待遇でした」

「また除隊したあとはいい大学に入れるし、幹部候補として養成されることもありました」

北朝鮮軍の中でも“特別な存在”だったという。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「市場で食事をしている時に暴風軍団がやってきたら、陸海空軍の兵士はみんな席を譲っていました」

では、ロシア国内で撮影された北朝鮮兵とされる映像。これは「暴風軍団」なのか。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「暴風軍団ではあります」

その根拠は“歩き方”だという。

イ・ヒョンウさん(仮名)
「暴風軍団は、木やセメントの壁を蹴る訓練をたくさん行うので足の関節が悪いんです。だから関節が抜けたような歩き方をします」

「ただ、彼らは入隊してまだ2〜3年しかたっていないはずです。栄養状態は悪いし体格も小さい。戦闘訓練もきちんと受けていない。新人からやっと抜け出したような兵士ですね」

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この“体格の小ささ”については、専門家も疑問を呈した。韓国政府傘下のシンクタンクで北朝鮮の研究を行うチョ・ハンボム氏。

統一研究院 チョ・ハンボム研究委員
「この映像を見ると、暴風軍団にしては体が小さい気がします。キレのある動きも見られません」

「暴風軍団」ではない、一般の兵士が派遣された可能性もあるという。

ではそもそも、兵士を派遣した北朝鮮の思惑は一体どこにあるのか。

統一研究院 チョ・ハンボム研究委員
「北朝鮮にとって様々なメリットがあります。まず、北朝鮮は深刻な外貨不足です。(ロシアから)受け取る金は、金正恩政権にとって大きな助けになるでしょう」

「また、兵士たちに現代戦の経験を積ませることも、とても重要なんです」

一方のロシアは、軍事侵攻が2年半以上続く中で、不足している兵力を補うことができる。両国にとって“Win-Win”だと指摘した。

統一研究院 チョ・ハンボム研究員
「金正恩政権はいま、ロシアとの関係を深めていますが、北朝鮮の市民は、ロシアに対して親近感を持っていません」

「また兵士は何の説明も受けず派遣されているはずなので、今の状況を全くわかっていないと思います。士気は低いでしょう」

かつて「暴風軍団」にいたというイさんも…

バンキシャ
「彼ら(北朝鮮兵)が入ることで、ウクライナとロシアの戦況は変わると思う?」

イ・ヒョンウさん(仮名)
「ウクライナは兵力や武器は足りていませんが、戦い方は上手です。北朝鮮の実戦経験がない兵士、それも体格の小さな兵士が果たして戦争を遂行できるのか…。大きな役には立たないと思います」

(10月27日放送「真相報道バンキシャ!」より)