山田裕貴(撮影:池村隆司)

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 10月11日より公開中の映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(以下、『ジョーカー2』)の日本語吹替版で、ジョーカーを追い詰めるハービー検事の声優を担当している山田裕貴。世界に衝撃を与えたジョーカーの物語は、どのような結末にたどり着くのだろうか。かねてより熱い“ジョーカー愛”を語っていた山田に、本作の見どころや理想のヒーロー像について語ってもらった。

参考:『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を徹底考察 作品に仕掛けられた“最大のジョーク”とは?

ーー山田さんは、かつてジョーカーのコスプレを披露されていたことがありましたよね。やはり『ジョーカー』は思い入れのある作品なのでしょうか?

山田裕貴(以下、山田):元々“敵”が好きなんです。だからと言って、すべての敵が好きなわけではなくて 、誰が見ても「かわいそう」と思えるようなバックボーンが描かれている敵が好きなんです。ジョーカーで言うと、ヒース・レジャー版はあまり裏側が描かれていなかったじゃないですか。

ーーたしかにそうですね。

山田:なので、『ジョーカー2』を観て、「こういうことがあったんだ」って納得したんです。それと同時に、「こんなことがあったらジョーカーになってしまうのかもしれないな」と、少し共感してしまった自分も怖かったです。それもまた面白いなという感じなんですけど。

ーージョーカーはこれまでいろんな方が演じていますが、山田さんにとって、ホアキン・フェニックス版のジョーカーはどんな印象でしたか?

山田:どの作品も好きですが、細かく裏側が描かれているのは『ジョーカー2』だけで。「どうしてアーサーはそうなってしまったんだろう?」という、疑問を抱いていた部分がこの作品で明らかになりました。

ーージョーカーになるまでが丁寧に描かれていますよね。

山田:そうなんです。ホアキン版のジョーカーって、笑いたいから笑っているのではなく、発作で笑っているじゃないですか。これって、感情が溢れそうなときに、笑うしかないから笑っているんじゃないかなと思っていて。「怒りたい」「逃げたい」「嫌だ」「死にたくない」「悲しい」という感情になったときも、ずっと笑っているんですよね。でも、目は笑っていない。なので、笑ってはいるものの、本当は泣いているんじゃないかなって。

ーー見えているものだけがすべてじゃないというか。

山田:そういうメッセージが込められていると思うんです。「目に見えているものがすべてですか?」っていう。結局、ジョーカーのなかに真実なんてないと思っていて、それなのに、みんなして「あいつは神だ!」って崇めて、正直、茶番ですよね。すべてが嘘のように思えるんですけど、最後のほうのシーンで、彼がある一言を発するんです。その一言が彼の本心なんじゃないかなと思っていて、「あっ、ついに言った!」と思いました。本来の彼が持っている強さというか、ただまっすぐに生きようとしていただけなんだなと。ずっとアーサーはお母さんに「まっすぐに生きろ」と言われていて。でも彼の意思でコメディアンになろうと決意し、頑張っていたにもかかわらず、若者に「変な奴だ」とからかわれてしまって。アーサーは、素直にまっすぐに生きてきただけなのに、ジョーカーに“させられてしまった”んですよね。だからこそ、悲しかったですし、「笑っていないんだな」と思いながら観ていました。「ずっと泣いているんだな、この人」と。

ーーラストシーンに関してはどう感じましたか?

山田:みんなの心に留まるような終わり方だなと思いました。わざとそういう終わらせ方をしているのかなって。「えっ、これで終わり?」「いや? まだ終わってないかも」みたいな。映画が終わっても、ずっと考えてしまうんです。でも考えている以上は、ずっとジョーカーが僕たちの頭のなかにあるということだと思っていますし、それもまたこの作品の良さかなと。

ーー吹き替えを担当されたハービー検事のキャラクターについてはいかがでしたか?

山田:「この人は、何がしたいんだろう」という感じでした。常に淡々としていて、余裕綽綽で、「逆にそれも意図なのかな?」と思ったりもしました。監督から「ニュアンスを持たせたい」という指示があったので、僕が考えていたよりも誇張してみたりしたのですが、ハービー検事の気持ちに関しては、最後まで理解できなかったですね。

ーー吹き替えで言うと、今年は『Ultraman: Rising』(Netflix)もありましたね。

山田:そうですね。実写の吹き替え自体は今回が初めてだったので、貴重な経験になりました。ジョーカーを演じた平田(広明)さんから、アフレコの前日に「音響監督に伝言を伝えておいたから、頑張って」というメッセージをいただいたんですよ。

ーーどのようなメッセージだったんですか?

山田:「責任重大だから、頑張って!」って(笑)。でも、嬉しいですよね。平田さんは、僕が初めてサインをもらいに行った方なんです。それ以降、近くで舞台をやっていたときは鉢合わせしたりもしていて。

ーー節目節目でお会いしていたんですね。

山田:そうなんです。だから、今回も平田さんとご一緒できて嬉しかったです。

ーー最後に、山田さんが思う“理想のヒーロー像”を教えてください。

山田:“自惚れていない奴”ですかね。「俺はヒーローだ! だから助けてやる!」みたいな奴には、あまり助けてもらいたくないというか。“偽善者”だと思っちゃいそうなので(笑)。

ーーなんだか、分かります。

山田:「あっ、嘘だ。この人」って、分かりますよね(笑)。だから、自分の力量をしっかりと分かっていて、自分の助けられる範囲のところを助けるというのが理想です。無理をしていないヒーローが好きです。

(取材=宮川翔/構成=菜本かな)