アスレチックチャレンジカップ男子5000mにて屋外日本人学生新記録を樹立した駒澤大学の篠原倖太朗 photo by Yohei Osada/AFLO SPORT

【3連覇のかかる駒澤大】

 大学駅伝の開幕戦である出雲駅伝が本日開催される。

 今年の箱根駅伝の前哨戦としてチーム状態や個々の選手の現状などを把握するのはもちろん、大学駅伝3冠を目指すチームにとっては負けられない重要な初戦になる。

 出雲駅伝は全6区間、45.1キロと短く、スピード駅伝と言われ、ここ3大会は、東京国際大(2021年)、駒澤大(2022年)、駒澤大(2023年)が優勝している。

 東京国際大が優勝した第33回大会は各校の実力が拮抗しており、どこが優勝してもおかしくはなかった。ただ、東京国際大にはイェゴン・ビンセントがいた。アンカーに大砲がいることで前区間の選手は余裕を持って走り、大きく崩れずに役割をまっとうすることが優勝に繋がった。

 2連覇した駒澤大には、鈴木芽吹がいた。昨年はほかの選手が「芽吹が最後にいる安心感は絶大だった」と語るほどの信頼を得ていた。

 この2チームを見るように出雲を制するためには、アンカーに頼れるエースがいるかどうか。これがひとつ大きなポイントになる。

 ただ、全体距離が短いので、箱根駅伝とは異なり、スタートの遅れは致命的になる。

 前回大会、駒澤大は1区で篠原倖太朗が区間賞の走りでトップに立って流れを掴むと、そのまま一度もトップを譲らず、区間賞を3つ取って完全優勝を果たした。各大学の監督はそのシーンが目に焼き付いたであろうし、今回、多くの監督が「スタートで出遅れたら終わってしまう」と語っているように、1区から3区までに主力を置く前半勝負型のオーダーを敷いてきた。

 果たして、今回は、どのチームが出雲を制するのだろうか。

 まず、3連覇がかかる駒澤大だが、主将の篠原倖太朗(4年)がアンカーに入った。7月のホクレン千歳大会で5000m13分30秒を切り、9月に新潟で行なわれたアスレチックチャレンジカップ5000mでは13分15秒70で屋外日本人学生最高記録をマーク、OBの田澤廉、鈴木芽吹にタイムで肩を並べた。1区には9月末の日体大長距離競技会では13分39秒47の自己ベストを出し、「駅伝はすべて出たい」と語っていたルーキーの桑田駿介(1年)が入り、駅伝デビューを果たすことになる。2区には桑田と同じ日体大長距離競技会で13分46秒33をマークするなど復調した帰山侑大(3年)が入った。注目は5区だろう。島子公佑(2年)は夏合宿で練習の消化率が100%と著しい成長をみせ、大抜擢となった。

 しかし、エースの佐藤圭汰(3年)が恥骨の故障で戦線離脱。主要な選手が抜けても選手層の厚さでフォローできたのがこれまでの駒澤大だが、今年はそこまで分厚くはない。だが、藤田監督の思惑通り1区の桑田から3区の山川拓馬(3年)が先頭集団に喰らいつき、アンカーの篠原にトップと30秒差以内で襷を渡すことができれば3連覇の光が見えてくる。佐藤抜きで優勝できれば、選手は「戦える」という自信を膨らませ、全日本や箱根に臨めるだろう。出雲は今季の駒澤大を占う意味で重要なレースになる。

【城西大、國學院大の厚い選手層】

 昨年、出雲2位、今回は3位内を目指す城西大は、今年も優勝争いに絡んできそうだ。

 1区は昨年同様、エースの斎藤将也(3年)が担う。6月に5000m13分33秒39の自己ベストを出すなど好調で、10000mは27分59秒69のタイムを持つ。3区には5月の関東インカレ5000mで優勝したヴィクター・キムタイ(3年)が入り、関東インカレ10000mで2位(28分03秒13)の主将・平林樹(4年)が4区、網走夏季記録挑戦競技会の5000mで13分49秒44の自己ベストをマークした久保出雄太(4年)は6区に配置された。注目は網走夏季記録挑戦競技会の10000mで28分53秒43の自己ベストをマークし、5区に起用された鈴木健真(3年)だ。櫛部静二監督がキーマンのひとりに挙げており、駅伝デビューでどんな走りを見せるのか、期待が膨らむ。

 1区の斎藤から3区のキムタイまでいい順位で繋げられるかどうかがポイントだ。2枚のエースの脇を固める2区の山中達貴(3年)、5区の鈴木が機能すれば前回の箱根のように、血が沸き立つような熱いレースを見せてくれるだろう。

 2019年の31回大会優勝以来、5年ぶりの優勝を狙う國學院大も優勝候補だ。

 エースの平林清澄(4年)は6区に配置された。2月に大阪マラソンで初マラソン日本最高&マラソン日本学生記録の2時間6分18秒で優勝、夏合宿も順調に練習をこなしてきた。トラックシーズンでは7月の網走夏季記録挑戦競技会の10000mで高山豪起(3年)が28分25秒72、辻原輝(2年)が28分27秒93、後村光星(2年)が28分30秒39で、それぞれ自己ベストをマークし、PB祭りをやってのけた。その中から辻原が3区に起用された。前田康弘監督が「平林や青木と同じ練習を同じレベルでこなす」と語るほど急成長しており、優勝へのキーマンになりそうだ。また、4区に起用された野中恒亨(2年)も前田監督が「練習通りの力を発揮できればいい」と期待を寄せる。

 平林という絶対的なエースが最後にいることで、心理的な余裕が1区から5区までの選手にプラスに働く。1区の青木瑠郁(3年)、2区の山本歩夢(4年)は計算できるがゆえに3区4区の走りが重要になる。選手個々がタイム通りの力を発揮し、平林で締めて優勝できれば3冠を狙える過去最強のチームに昇華するだろう。

【箱根王者の青学大】

 青学大は番付でいえば横綱クラスの強さだ。

 今シーズン絶好調の鶴川正也(4年)が1区に入り、野村昭夢(4年)が2区、昨年、出雲2区区間賞の黒田朝日(3年)が3区に配置され、前半に勝負をつけるべく強力な布陣を敷いている。アンカーには「駅伝男」の太田蒼生(4年)が置かれ、1区、3区、6区の主要区間をエースが占めている。

 ただ、青学大は4区も5区も強い。4区には先月28日に開催された絆記録挑戦会5000mで13分37秒77の自己ベストを出した宇田川瞬矢(3年)が配置され、スピードで一気突き放す、あるいは追いつく区間になりそうだ。5区に置かれた若林宏樹(4年)は、実力的には他大学の5区のメンバーと比べてもトップだ。つまり、オーダーにまったく穴がない。

 青学大は、先手必勝で1区から鶴川、野村、黒田ら強い選手をどんどんつぎ込んで主導権を握り、4区、5区をうまく繋いで6区の太田に繋いで「ぶっちぎりの優勝」というイメージでいるのではないだろうか。ミスがなく、隙の無い駅伝ができれば番付通りに青学大が優勝街道を突っ走るだろう。
 
 優勝候補の最右翼である青学大にも劣らない戦力を保持し、初優勝を狙っているのが、創価大だ。昨年は2位になりながら3区の選手のドーピングで失格になった。その時のメンバー6名のうち4名が今年もエントリーメンバーに名を連ねている。

 目を引くのはダブル吉田(凌、響)だが、優勝に欠かせないキーマンは、3区のスティーブン・ムチーニ(2年)だ。9月の蒸し暑さが残る中、日本学生対校選手権5000mで13分52秒25のタイムで優勝、好調を維持しており、ロードでも強さを発揮するだろう。1区の石丸惇那(3年)も9月末の日体大長距離競技会記録会5000mで13分42秒30の自己ベストをマークし、いい流れで出雲を迎えられそうだ。「1区から出遅れることができないので、攻めの走りをします」と榎木和貴監督が語るように、昨年1区を駆けた石丸から2区の吉田響につなぎ、3区のムチーニ、4区の吉田凌(4年)までは他大学に負けないオーダーを敷いている。5区の黒木陽向(3年)、6区の小暮栄輝(4年)は、駅伝デビューになるが、プレッシャーがかかる最後の2区間で、彼らがどんな走りを見せてくれるのか。これまで先行逃げ切りのスタイルの駅伝で好成績を収めてきたが、今回も創価スタイルで初優勝を目指すことになる。

 今回の出雲も1区、3区、6区という主要区間に実力派が集まった。

 どの大学も昨年の篠原の走りで逃げ切った駒澤大の戦いを見ており、なんとしても1区から先行すべく、ガチガチのバトルが見られることになりそうだ。その1区には鶴川(青学大)、斎藤(城西大)、桑田(駒澤大)、山口智規(早大)、青木(國學院大)、石丸(創価大)が立つが、誰が先手を取り、3区までの流れを作るのか。学生駅伝3冠の内、最初の1冠となる出雲を、どこが制するのか。今年は、少し静かな駅伝シーズンの入りだが、「熱狂」の導火線に着火するようなタギったレースを期待したい。