「正直、Netflixに引き抜かれたい」テレビ局員の本音が爆発…プロ野球とメジャーリーグと同じ構図がテレビ業界にも

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映像メディア業界で長らく頂点に君臨し続けていたテレビ局が今、大ピンチを迎えている。当初、ライバル視されていたYouTubeとはなんとか共存関係を作り始めているが、ここにきて、はっきりと“テレビの上位互換”ともいえる存在が現れてしまったのだ。

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ネトフリに引き抜かれたいテレビ局員たち

その存在とは、アメリカ発の動画配信サービス『Netflix』。テレビ局は今、このサービスに次々に優秀な人材を引き抜かれている。

9月30日には、映像ディレクターの大根仁氏がNetflixと5年間の独占契約を締結したと発表した。

大根氏といえば、Netflixで大ヒットしたドラマ『地面師たち』を手掛けたことが記憶に新しいが、『モテキ』や『バクマン。』など映画界で作品を量産しているイメージもある。

しかし2022年にはフジテレビ系連続ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』でギャラクシー賞大賞を受賞。『エルピス』放送時には、“地上波でこのレベルの作品が見られるとは!”と話題になった。

地上波ドラマに多大な貢献をしてきただけに、この引き抜きはテレビにとって大きなダメージだ。

ほかにもNetflixは2023年に、これまで幾度となく大ヒットドラマを生み出してきた脚本家の坂元裕二氏と5年契約を締結、さらにドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』などを手がけた福井雄太プロデューサーが日本テレビから移籍、2024年にも元TBSのプロデューサーで、『不適切にもほどがある!』を手掛けた磯山晶プロデューサーが、5年契約を結んでいる。

「今や、局内のドラマ班や映画班のスタッフたちの一部は、『地上波で結果を残してNetflixに引き抜かれるぞ!』というモチベーションで仕事に取り組んでいます。話題の連ドラが放送された後は、『〇〇プロデューサーにNetflixから声がかかってるらしいよ』なんてウワサも飛び交います。

また、バラエティー班でもNetflixAmazonプライムを目指す人が出てきていると聞きますね」(テレビ局関係者)

実際、2022年には『あいつ今何してる?』『あざとくて何が悪いの?』『トゲアリトゲナシトゲトゲ』といった人気バラエティーを手掛けた芦田太郎プロデューサーが、テレビ朝日を退社してAmazonへと転職した。

脚本料は1話300万以上? 

「数年前まではYouTubeとテレビを比べる声が多く、いつかテレビはYouTubeに取って代わられるとまで言われていましたが、局員たちはさほど脅威に感じていませんでした。というのも、現状を見ての通り、YouTubeはテレビの下位互換のような存在。

YouTubeで結果を残した人がテレビにも呼ばれるという構造になっていますよね。製作費だって、いくら『テレビはお金がなくなった』と言われていようと、YouTubeとは比べものにならないほど大きいです。

しかし、NetflixAmazonは逆にテレビの上位互換のような存在になっています。それこそ製作費はテレビと雲泥の差ですし、テレビで結果を残した人がNetflixにいける構造になっているのです」(同・関係者)

いまや、地上波のテレビ局が日本のプロ野球で、NetflixAmazonなどの外資系の企業がメジャーリーグともいえる状況だ。

9月19日よりNetflixで配信されて大ヒット中のドラマ『極悪女王』を手掛けた鈴木おさむ氏は、Netflixの脚本料は地上波の5倍ほどだった明かしている。一般的に、地上波の1時間枠のドラマの脚本料は50~60万円ほど。

となると、鈴木氏は1話あたり推定300万円以上を手にしたことになる。まさに、プロ野球とメジャーリーグの年俸の差のような話だ。

ただもちろん、テレビ局も手を打っていないわけではない。近年、どの局もドラマに力を入れて、製作本数が20年前に比べると2倍ほどになっている。これは、優良な自社コンテンツを増やし、HuluやFODなど、自社が運営する動画配信サービスの有料会員数を増やすためだと言われている。

国内市場での限界を感じ、海外に売れるコンテンツを……という考えもまた、ドラマを増やす要因になっている。

さらに地上波の連ドラの続きを劇場公開するパターンも増えている。以前は、よほど大ヒットしたドラマでなければ映画化されることはなかったが、最近はそこそこのヒットどころか、大コケしたドラマでさえ映画化するパターンもある。

「さすがに大コケドラマの映画化は、もともと映画化ありきで企画が進んでいたためですが、映画化のハードルが低くなっているのは事実です。地上波での広告収入が極端に減っているため、コンテンツに直接お金を払ってもらう映画に頼る必要があるのです。

映画化で顕著なのはフジテレビ月9枠で、2018年から2022年に製作されたドラマ14本(続編は統一して1本とカウント)のうち、なんと5本も映画化されています」

実写邦画の光明になるドラマの映画化

2023年には日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)のその後を描いた劇場版が、その年の上半期の実写興収1位となった。さらに同年の下半期も、月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)の続編が劇場で公開され、興行収入48億円の大ヒットを記録。

近年アニメ映画が話題を独占する中で、実写邦画は大きく遅れを取っていたが、連ドラの映画化が光明をもたらしている。

「通常の実写邦画は公開の際に膨大な宣伝活動が必要になりますが、地上波連ドラの映画化の場合は、連ドラの放送自体が映画の宣伝になっているので、それほど頑張らなくても客が入ってくれる。それに、製作チームを新しく組む必要もなく、そのままドラマ班が担当すればいい。ビジネスモデルとして理にかなっているのです」

ほかにも、現在テレビ局では、視聴率が全体的に落ちてきたのをきっかけに、見逃し無料配信動画サービス『TVer』での再生回数を狙う番組も増えている。テレビ局内では、かつては「視聴率〇〇%!」などと廊下の至るところにかざってあったが、今では「TVer再生回数〇〇万回!」というポスターが飾られるなど、意識の変革がうかがえる。

とはいえ、ここまで手を打っても、Netflixに優秀な人材を次々に引き抜かれている状況は変わらない。厳しくなり続けるテレビのコンプライアンスに嫌気がさし、ネットに活躍の場を移すものも多くいるだろう。

突如、テレビの頭上に現れたNetflixという巨大な存在は、局員のモチベーションをあげるのか、下げてしまうのか、これからの動向に注目だ。

取材・文/集英社オンライン編集部