『塔の上のラプンツェル』©2023 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

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 10月11日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ長編50作目となった『塔の上のラプンツェル』(2010年、以下『ラプンツェル』)が放送される。第50作の記念作品として、現代にアップデートされたプリンセスである本作の主人公ラプンツェルは、ディズニープリンセスのなかでも高い人気を誇っている。ほかのプリンセスにはない、彼女の、そして本作の魅力とはいったいなんだろうか? 作品の見どころとともに紐解いていこう。

参考:『金曜ロードショー』で『塔の上のラプンツェル』『アリス・イン・ワンダーランド』放送へ

“初めて”づくしのプリンセス

 金色に輝く魔法の髪を持つ少女ラプンツェルは、18年間1度も外に出ることなく、高い塔の上で暮らしていた。生まれてすぐに彼女を誘拐したゴーテルを本当の母親だと信じるラプンツェルは、毎年自分の誕生日に空に浮かぶ「灯り」を見に行くことを夢見ていたが、ゴーテルはそれを許さない。そんなある日、盗みに成功したものの仲間割れし、警備隊に追われていた泥棒のフリン・ライダーが塔に迷い込む。ラプンツェルは彼が盗んだ王冠を取り上げ、自分に「灯り」を見せ、その後無事に塔まで帰せば、王冠を渡すと持ちかけた。そして、しぶしぶ了承したフリンとラプンツェルの冒険が幕を開ける。

 『ラプンツェル』は、3DCGで制作されたディズニー初のプリンセス作品であることが広く知られている。前作『プリンセスと魔法のキス』(2009年)は、ディズニー最後のセルアニメ作品となり、『ラプンツェル』以降はプリンセスものも、『アナと雪の女王』(2013年、以下『アナ雪』)や『モアナと伝説の海』(2016年、以下『モアナ』)と、完全に3DCGに移行した。

 映像面だけでなく、ラプンツェルはキャラクターにおいても、“初”の要素を多く持っている。その1つは、「プリンセス自身が魔法の力を持っている」ことだ。これまで多くのプリンセスを生み出してきたディズニーだが、ラプンツェルがほかのプリンセスと違っている大きなポイントはここにある。これまでのプリンセスは、魔法の力を持った何者かに助けられたり、他者の魔法によって困難な状況に陥るなどのパターンが多かった。しかしラプンツェルは自身の長い髪と、それが持つ魔法の力を使って冒険をくり広げる。『ラプンツェル』以降、正確にはプリンセスではないが『アナ雪』のエルサや、『モアナ』のモアナも魔法の力を持つキャラクターとして描かれている。新しいプリンセス像の元祖となったのがラプンツェルなのだ。

 また、本作はグリム童話の『ラプンツェル』を原作としているが、映画の原題は『Tangled』であり、童話原作の作品で原作とタイトルが違うのも初めてのケース。これは前作『プリンセスと魔法のキス(原題:The Princess and the Frog)』が、そのタイトルのせいで男性客の反応が弱かったため、それを打開するためだったといわれている。プリンセスものであることをあえて前面に出さず、劇中でも相手役であるフリンにラプンツェルと同等に活躍の場を作ることで、観客の性別を問わず楽しめる作品にすることも意識された。

 さらにストーリーの面でも本作はこれまでのプリンセスものと、一線を画している。これまでのプリンセスものは、どの作品も誰もが観ることができるG指定だった。しかし本作は、悪党が集まるパブのシーンやフリンがナイフで刺されるシーンなどダークな暴力描写も多いことから、ディズニーアニメーション映画として初めて、視聴にあたって保護者の指導を必要とするPG指定となっている。

スタッフの意見をふんだんに取り入れたキャラクター

 本作に登場するキャラクターたちも、これまでのプリンセス作品に登場するものとは一味違っている。ラプンツェルの相手役となるフリン・ライダーは、「ディズニー史上最高のイケメン」にするために、スタジオの女性たちを集めて「ホット・マン会議」が行われたことでも有名だ。好きな男性の写真を持ち寄った彼女たちは、議論を重ねてイケメン男性の顔のパーツを交換したり、男性スタッフの案にことごとくダメ出ししたりと、かなり白熱した会議だったようだ。監督のネイサン・グレノとバイロン・ハワードは、後にこれを「キツい会議だった」と語っている。

 また本作のヴィランであるマザー・ゴーテルも、これまでのプリンセスもののヴィランとは違った特徴を持っている。 グレノは「彼女は魔女ではないからこそ、恐ろしいキャラクターにしたかった」と語っている。ゴーテルとラプンツェルは母と娘の関係を築いており、当初ラプンツェルはゴーテルを信頼していた。しかし彼女は「外の世界は危険」「あなたを守るため」と言いながら、ラプンツェルに自分は無能だと思い込ませる言葉の数々をぶつけている。彼女は「私を悪者にしたいのね」と、怒りを遠回しに表現するパッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃行動)で、ラプンツェルを操っているのだ。監督たちは子どもの自立を阻む毒親のイメージを膨らませるため、数人の女性スタッフから母親との関係について話を聞いたという。ゴーテルの歌う「お母様はあなたの味方」の歌詞「少し太ってきたわね」は、それらのインタビューの中で話された内容をそのまま使ったものだそうだ。こうした背景から、ゴーテルはこれまでのプリンセス作品に登場してきた邪悪な義母像とはまた違った、現実味のある恐ろしさを感じさせるキャラクターとなった。

明るく積極的なプリンセス像が人気に

 先述の通り、ラプンツェルは魔法の力を持ったプリンセスだ。そして彼女は「自分の夢を叶えるため」に冒険の旅に出る。これまでのディズニープリンセスのなかにも、冒険をくり広げたキャラクターはいたが、そのどれもが消極的な理由からだった。ムーランは家族を救うため、やむを得ず男として戦士となり、カエルになってしまったティアナは人間の姿に戻るため、その方法を探す旅に出た。ラプンツェルが冒険に出た理由はもっと積極的で、持ち前の明るく純粋な性格で道を切り拓いていく。さらに、実はラプンツェル以降のプリンセスも、彼女ほど希望に満ちた理由で冒険に出たわけではない。『アナ雪』のアナや『モアナ』の主人公は自らすすんで旅に出るが、それは「自分の国を守る」という使命感からの選択だった。やはり好奇心旺盛なラプンツェルの明るさはディズニープリンセスのなかでも際立っていて、それが彼女の人気の理由ではないだろうか。

 初の3DCGプリンセスであり、魔法の力を持ったラプンツェルは、その明るさや純粋さで多くの観客の心をつかんだ。また、フリンやゴーテルなどのキャラクターたちや、ダークな面もあるストーリーによって『塔の上のラプンツェル』は魅力的な作品になった。新たなプリンセスによるドタバタの大冒険。ラプンツェル、フリン、ゴーテルなどの興味深いキャラクターとともに、ほかのプリンセス作品とは一線を画すその素晴らしさを、ぜひ楽しんでほしい。

参考・https://www.denofgeek.com/movies/byron-howard-nathan-greno-interview-tangled-disney-animation-and-directing-disney-royalty/・https://dvdizzy.com/tangled-directors-interview.html(文=瀧川かおり)