SVリーグ大河正明チェアマン インタビュー後編

(前編:世界最高峰を目指す「SVリーグ」が開幕 大河正明チェアマンが「プロ化」について語った>>)

 新たにスタートするバレーボールの「2024-25 大同生命SV.LEAGUE」。一般社団法人SVリーグチェアマンの大河正明氏に、今後の展望をはじめ、日本の課題である女子スポーツの活性化への構想や、目標とする"世界最高峰リーグ"の形などを聞いた。


郄橋藍がサントリーでプレーすることでも話題のSVリーグ photo by 長田洋平/アフロスポーツ

【バレーボールから女子スポーツの成功へ】

――前編から続いてになりますが、国内リーグにおいても人気がうなぎのぼりの男子に対して、女子もSVリーグでは新しい策を講じるのでしょうか?

「男子はチーム、選手の意識もかなり変わってきましたからね。一方で『女子スポーツを盛んにする』というのは、バレーボールだけでなく日本スポーツ界全体の課題でもあります。今、女子のヨーロッパサッカーは8万人を動員する試合があるほどのビッグコンテンツになっていますが、日本の、たとえばサッカーのWEリーグなどは集客数を増やすためのテコ入れを行なっている段階です。バスケットボールのWリーグも、東京五輪で銀メダルを獲得した時は勢いがありましたが、最近ではやや厳しくなっている印象があります。

 そこで、いかにチャレンジングに女子スポーツを成功させていくか、みんなが注目するコンテンツにしていくか。その点で、女子スポーツの代表としてバレーボールに力を注ぎ、SVリーグが各地域で認知されて、多くのお客様を集められる人気スポーツにしていく。そのためにも、他競技において集客施策やホームタウン施策に携わってきた方々のお力をいただき、プロジェクトを立ち上げたいと考えています」

――SVリーグは、男女ともにレギュラーシーズンが過去最大数となる44試合が実施されますね。

「『44試合だと選手が大変なのではないか』という意見は耳にしています。ですが、やはり世界で一番タフなリーグでなければ、と考えています。Jリーグも、発足当初は週に2回試合を行なっていましたし、試合も前後半90分に加えて延長戦やPK戦を設けていました(現行は90分・引き分けあり)。そうして世界一タフなリーグにすることによって、Jリーグのレベルアップやリーグの面白さを伝える狙いがあった。Bリーグも当初の50試合程度から、60試合へと増やしていきました。

 バレーボールの場合だと、監督の方針にもよるでしょうが、全44試合を固定メンバーで乗りきるのはかなり厳しいでしょう。そこで若手選手にチャンスを与えるなど、選手をターンオーバーさせながらシーズンを戦い抜き、最後の勝負がチャンピオンシップ(レギュラーシーズン上位8チーム<女子>、上位6チーム<男子>によるトーナメント)になる、というわけです」

【『世界最高峰のリーグ』になるために】

――開幕を前にして、レギュラーシーズンの会場が決まっていない対戦カードも見受けられます(取材時点)。

「JリーグもBリーグも発足当初は試合会場の確保に苦労していました。今はホームスタジアム、ホームアリーナが当たり前になってきましたが、たとえばJリーグの横浜フリューゲルス(1998年、横浜マリノスに吸収合併)は横浜で確保ができず、長崎や熊本、鹿児島を準ホームタウンと名乗って試合を行なっていた事例もありました。

 ホームアリーナの確保は、プロ興行において最も大事な要素です。それはコスト面においても言えることで、ひとつのチームに対して試合会場が複数あると、それだけチケットや座席の運用、会場の看板(サイネージ)の移動や配信用のカメラ設営などでコスト増が発生するわけですから。

 今季で言えば、今年の4月にSVリーグとVリーグのライセンスの最終判定があって、会場の確保が遅れたのは確かでしょう。できれば2年先など、早めにアリーナを確保する、またはホームアリーナを確定していくことが必要ですし、今季はそのための第一歩だと思います」

――サッカーのJリーグは約30年、バスケットボールのBリーグは約10年と歴史を築いて今があります。SVリーグはこれからスタートするわけですが、「2030年の世界最高峰リーグ」というビジョンに到達できる予感はありますか?

「目標は『世界最高峰のリーグになる』ことですが、それは世界で最も人気があり、事業的にも最も成功し、そして世界クラブ選手権のような国際大会で優勝できるチームがリーグにいる、ということを指しています。オンザコートのルールも、今季は外国籍選手の同時出場は2枠(アジア枠を含めると3枠)になりますが、近々3に増やしていきますし、それによって世界の一流選手がもっともっとSVリーグに集まってくるでしょう」

――サントリーサンバーズ大阪の郄橋藍選手や、ジェイテクトSTINGS愛知の宮浦健人選手など、昨季まで海外リーグを戦っていた日本代表選手も日本に帰ってきました。

「その2人にしても、『SVリーグという舞台で自分が切磋琢磨できる』と感じてもらえたかどうかが大きいと思います。彼らも含めて、すでに各チームには世界のトッププレーヤーがいますが、今後はその幅を広げていきたいです。

 将来的に、SVリーグが"日本人選手によるリーグ"ではなく、"日本人選手も参加している世界最高峰のリーグ"という位置づけになれば、レベルが世界基準になっていく。そうなることで、イタリアでプレーする石川祐希選手(ペルージャ)もいずれは『日本でやりたい』と日本に戻ってきてくれるのではないか、と考えています。

 私自身は、日本人選手が海外リーグに挑戦すること自体は、まったく悪いことだと思っていません。ただ、できれば大学在学中や高校を卒業してからなど、若いうちに行ってほしい。今季は男子日本代表の高橋慶帆選手(法政大学)がフランスリーグに挑戦しますが、彼のように若くして海外を経験した選手が、20代半ばに日本に戻ってきて、世界最高峰のSVリーグにチャレンジする。そんな流れができることが理想だと思います」

――いよいよSVリーグが世界最高峰に向けてスタートを切ります。あらためて、その取り組みを表現するならどのような言葉になりますか?

「SVリーグの取り組みは、『日本バレーボールが持つポテンシャルの塊を顕在化させるもの』だと捉えています。おそらくバスケットボールやサッカーのプロリーグが始まった当初よりも、現在の日本バレーボールに備わっているポテンシャルは上だと思っています。ですが、リーグに関しては人気、事業面などで後塵を拝している。そのポテンシャルを遺憾なく発揮できるように、SVリーグは進んでいきます。

 そうなれば、選手をはじめ、チームのスタッフや指導者、試合に関わる審判や関係者がみんな、『私はSVリーグに携わっている』と胸を張って言えるようになるでしょう。そんな世界を実現させていくのが、私のミッションです」

<プロフィール>
大河正明(おおかわ・まさあき)

1958年5月31日生まれ、京都府出身。銀行員時代にJリーグへ出向した経緯があり、退行後にJリーグへ入社。常務理事を務め、クラブライセンス制度の導入などに携わる。その後、Bリーグのチェアマンや日本バスケットボール協会の専務理事・事務総長などを務めた。2020年からびわこ成蹊スポーツ大学の副学長、学長を務め、2022年9月にVリーグの副会長に就任し、新リーグ構想に着手。今年7月、SVリーグチェアマンに就任した。