いま話題の「地面師」のリアル...数億円を《騙し取る》まるで《アメーバ》のような衝撃の手口

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第21回

『“ホームレス”に小遣いをやって“マンション”を買わせる…総額50億円、「住宅ローン詐欺」の衝撃の手口とは』より続く

地面師集団の役割分担

数ある警視庁管内の地面師詐欺のなかで、捜査当局が摘発できても、逮捕した犯行グループ全員を起訴に持ち込むケースはほとんどない。その理由はさまざまだが、一つには犯行グループには、単なる口座貸しや見張り役といった比較的関与の薄い人物が紛れているからでもある。

なにより警察や検察が事件の全貌解明にいたる捜査を詰めきれず、主犯を取り逃がして事件を矮小化してしまう傾向がある。したがって逮捕時より、起訴する人数が大幅に減るケースが散見される。なかにはかなり重要な役割を担っている犯人でさえ取り逃がすことも少なくない。それはとりもなおさず、捜査当局の敗北なのだが、それもまた地面師事件の特徴の一つといえる。

内田が計画立案し、浜田山の駐車場の持ち主のなりすましを仕立てた事件では、警視庁は最終的に10人を逮捕し、うち7人を起訴した。これはめずらしく捜査がうまくいったケースといえた。東京都杉並区浜田山の駐車場のニセ地主を使い、横浜市内の不動産業者に売りつけて2億5000万円をまんまと詐取していた。典型的ななりすまし地面師詐欺だ。その事件を詳しく見てみる。

「役割分担」による複雑な事件の経過

警視庁捜査2課が事件で逮捕した10人のうち、起訴できたなかには、八重森和夫(起訴時68)という大物もいた。内田と並び称されるほどの古手の地面師であり、もう一人の主犯といえる。逮捕されたのは、そのほかに72歳の渡邊政志や63歳の大賀義隆、54歳の福田尚人、52歳の大島洋一、69歳の高橋国幹と続く。いずれも年齢は、東京地検が起訴した15年12月22日時点のものだ。

その逮捕・起訴からおよそ1年が経過した16年12月19日のこの日、来る1月25日の判決言い渡し前の検察側による論告求刑がおこなわれた。

地面師詐欺における常套手段でもあるが、この事件でもその犯行は役割分担され、何段階にも分かれた複雑な経過をたどっている。

概して犯行の第一段階は、狙い目の土地を物色し、地主の情報をかき集める作業である。内田たちが浜田山の駐車場に目を付けたのは、2011年5月半ばのことだ。論告公判によれば、土地に関する情報をもたらしたのが、大賀だったという。大賀は内田の指揮下にあるいわゆる手下といえた。内田をよく知る地面師の一人が、次のように明かす。

「内田には女房のやっている浜松町の会社、環リアルパートナーズのほか、いくつか事務所があり、正式な社員かどうかは不明ですが、従業員を雇っています。その事務所の一つを訪ねると、従業員がパソコンに向かい、片っ端からめぼしい不動産登記をピックアップしている。登記をもとに、自動車で現場を視察する。そんな視察部隊まで常駐していました。そうしてどこを狙うか、なりすましやすい資産家の物件情報をかき集め、常にターゲット候補を抱えていたのでしょう」

ちなみに環リアルパートナーズは、内田が内田英吾として社会人ゴルフ大会に出場していたときの所属会社だ。前述したようにかつて新宿や池袋、錦糸町や秋葉原といったJRの主要駅にたむろし、縄張りを築いていた地面師グループも、いまはすっかり様変わりしている。

地面師として生き残っている内田のような数人の大物が、計画に応じてその都度、声をかけ、必要な人材をかき集める。事件ごとにそれぞれの役割を担う詐欺師たちが離合集散を繰り返す。そんな犯罪集団を形成している。

『地面師たちの「実行犯」なりすまし役の正体が判明!?...ニセ地主の背後に忍ぶ《ヤクザ》の陰』へ続く

地面師たちの「実行犯」なりすまし役の正体が判明!?...ニセ地主の背後に忍ぶ《ヤクザ》の陰