”ホームレス”に小遣いをやって”マンション”を買わせる…総額50億円、「住宅ローン詐欺」の衝撃の手口とは

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第20回

『「覚醒剤」「脱税」「暴力団」不祥事にまみれた不動産取引…マンション開発ブームの裏で六本木の黒服が「大物地面師」になるまで』より続く

ホームレスが50億の住宅ローン

くだんの詐欺事件は2003年に繰り返しおこなわれ、2年後の2005年に摘発された。逮捕されたのは山口組系組幹部の森内正弘ら4人の犯行グループだ。森内は「シエロ・ホーム」というマンションデベロッパーを使い、ホームレスにマンションを買わせて銀行ローンを組ませるという手法で荒稼ぎしていった。その手口を田之上が解説してくれた。

「まずは、川崎あたりのホームレスを雇って住民登録をさせるんや。ほれで次に、彼らをサラリーマンに仕立てて、給料の源泉徴収票をとる。勤め先は、八百屋でも魚屋でもどこでもいいのやけど、言うたらその1つがシエロ・ホームや。経営の苦しいところを会社ごと買っておいて、そこからホームレスに給料を払ったことにしておく。とうぜん税金も納めて源泉徴収票をつくり、それをもって銀行の窓口に行って、住宅ローンを組むんですわ。銀行にしてみたら、書類はそろっとるし、保証会社の保証もつけてローンを組んでもらえるから何の問題もあらへん」

ホームレスには小遣いを渡す。が、銀行の窓口に行くのは別人だ。いわばこれもなりすましの一種といえる。犯行グループは、印鑑証明や納税証明書など、住宅ローンの申請に必要な書類を準備し、なりすまし役が何食わぬ顔で銀行と掛け合う。

そうしてホームレス1人あたり、4000万円から5000万円の銀行ローンを組ませ、偽マンション業者「シエロ・ホーム」に代金を振り込ませていったのである。森内らは、神奈川県を中心におよそ2年にわたり、横浜銀行や東京三菱(当時)、UFJ(同)、みずほなどから160件、総額50億円という巨額の融資をまんまと引き出していった。元山口組の田之上はこの手の詐欺にもやたら詳しい。

ばれない小細工まで

「ホンマはローンさえ受け取れば、それでええのですが、少しずつ返済もするんです。もちろん遅れ遅れで、5万円とか3万円とか……。そうしたら、返済する気はあるいうことになるし、時間稼ぎにもなる。だからなかなかばれへんかったと思います」

内田がここにどこまでかかわっていたのか、そこについては立証されていないので明らかではない。が、まさしく地面師詐欺の住宅ローン型のような手口といえる。

内田は2002年に池袋グループの頭目として逮捕されて服役してからおよそ10年後、またしてもこの世界に舞い戻った。古手の地面師たちが姿を消すなか、スター地面師として斯界の耳目を集めるようになり、いまや地面師グループの頂点に君臨するとまでいわれる。警視庁のある捜査幹部は、内田についてこう分析した。

「地面師詐欺は地価が高騰してきた東京でここ数年、頻繁に起きているが、摘発できているのは氷山の一角というほかない。その地面師がらみの多くの事件で、マイクは何らかの足跡を残していると言われています。例の新橋4丁目の資産家が白骨死体で発見された変死事件でも、その名が取り沙汰されています」

新橋の事件はあとまわしにする。

そんな内田がとつぜん警視庁捜査二課に逮捕されたのは2015年11月10日のことだ。逮捕容疑は杉並区浜田山の土地の所有権を無断で移し、嘘の登記申請をした電磁的公正証書原本不実記録・同供用などだった。

総勢9人が一斉に摘発された。警視庁としてはかなり大掛かりな捜査といえる。それは、まさに内田という大物地面師に狙いを定めたからであり、ようやく逮捕にこぎ着けたことになる。

「覚醒剤」「脱税」「暴力団」不祥事にまみれた不動産取引…マンション開発ブームの裏で六本木の黒服が「大物地面師」になるまで