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FC町田ゼルビア ミッチェル・デューク インタビュー 後編

FC町田ゼルビアFWミッチェル・デュークのインタビュー最終回。J1初挑戦・初優勝の偉業に向けて突き進むチームの当事者としての気持ちと、「第二の故郷」という日本への愛を語ってくれた。

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中編「ミッチェル・デュークが教えてくれたヘディングの秘訣」>>

【チームに自信が生まれたと感じた】

「僕は優勝できると信じているよ、100%。今季が始まった頃、自分たちが何週にもわたって首位に立てるとは思っていなかった。でも7、8試合くらいが過ぎた時、チームに自信が生まれたと感じたんだ。その頃から、優勝を現実的な目標として捉えるようになった気がする」


FC町田ゼルビアのFWミッチェル・デュークが優勝へ突き進む今の心境を教えてくれた photo by Kishiku Torao

 FC町田ゼルビアのミッチェル・デュークは、所属クラブが初挑戦のJ1で優勝できると固く信じている。このインタビューを行なったのは、J1第30節アビスパ福岡戦の数日後。敵地で3−0の快勝を収め、再び首位に躍り出たあとだった。現在は少し状況が変わっているものの、おとぎ話のような偉業を期待しているファンも少なくない。

「リーグ戦の折り返し地点でも、僕らは首位を走っていた。つまり全チームと対戦したあとに、トップにいたってことだ。そこでさらに自信を深めたよ。夏に選手の入れ替わりはあったけど、新たに加わった選手も皆、高いクオリティーを持っているので、戦力は維持されている。選手層も厚く、誰が出ても同じサッカーができる。今季は僕も途中出場が多いけど、常に抜かりなく準備をしている」

 もし町田が今季のJ1を制覇すれば、このスポーツの歴史にその名を刻むことになる。なにしろ世界的に見ても、1部リーグに初挑戦しているチームがいきなり優勝した事例はほとんどないのだ。欧州5大リーグでも、1962年にイングランドのイプスウィッチ・タウンが達成しただけである。

【こんなにワクワクする挑戦はほかにない】

 フットボール発祥国の公共放送協会もそんな町田に注目し、チームで唯一、英語を母国語とするデュークを取材したという。

「町田は世界的にも注目され始めていると思う。ひと月くらい前に、『BBC』の取材を受けたくらいだからね。彼らは今季の町田と、2015−16シーズンにプレミアリーグで奇跡的な優勝を遂げたレスター・シティを重ね合わせていた。両チームとも、シーズンが始まる前は、誰も優勝するなんて思っていなかった。願わくば、レスターのように、僕らも最後まで首位で駆け抜けられたらいい。そんな偉業が達成できたら、町田だけでなく、Jリーグや日本のサッカーにも、注目が集まるはずだからね」

 ただし、レスターはプレミアリーグで優勝した前のシーズンも、1部リーグを戦っていた。逆に町田はJ1初挑戦ながら、移籍情報サイト『トランスファーマルクト』によると、今季のJ1で所属選手の評価額が2位。昇格組ながら、潤沢な資金で質の高い選手を集め、リーグ屈指の陣容を誇っていると言える。

「ただ町田には、プロの指導歴がまだ1年半しかない監督がいるよね。彼の存在が、僕らのストーリーをさらに特別なものにしていると思う。昨季に町田を率いるまで、高校生を指導したことしかなかったのに、プロ1年目にいきなりJ2を制覇したんだ。すごいことだ。

 彼は成功する監督に必要な要素を備えている人だと思う。鋼のようなメンタリティ、明確なアイデンティティとフィロソフィー、豊かな人間性とカリスマ。それらが揺らぐことはなく、たとえうまくいかなかったとしても、自らの信念を貫いている。しかも結果がついてきているから、チームの結束が崩れることはなく、すばらしいチームスピリットが維持されているんだ。

 いや、練習は本当にきついんだよ(笑)。それでも選手がついていくのは、監督についていけば、成功できると信じているからなんだ」

 笑顔で生き生きと話すデュークは、千載一遇のチャレンジを心から楽しんでいるように見える。W杯でゴールを決めて、オーストラリアのサッカー史に名を刻んだ彼は、町田について語る時も、「歴史」という言葉を好んで使った。

「昨季、僕らはクラブ史上初のJ1昇格という歴史を作った。そして今、新たな歴史を作ろうとしている。こんなにワクワクする挑戦は、ほかにないと思う。あらためて、町田の壮大なプロジェクトの一部を担えていることに感謝したい」

【日本は僕の第二の故郷】

 そう話すデュークは、日本の歴史や伝統にも敬意を払っている。しかも文字どおり、自身の身体に日本を刻んでいるのだ。

「僕は本当に日本を愛している。見てよ、両腕に日本のタトゥーを入れているんだ。富士山、京都、岡山後楽園があるでしょ。神社や桜の木もね。僕の母国オーストラリアは、歴史が浅い国だ。でも日本には、古くてすばらしい伝統や文化がある。そんな国で、自分のキャリアの大半を築けていることを、誇らしく思っている。日本は僕の第二の故郷だ。

 2日以上オフがあると、僕は必ずどこかへ出かけるんだ。この国には、見て回るところが本当にたくさんあるからね。今は東京に行くことが多いね。目黒川や新宿御苑でゆっくりしたり、チームラボプラネッツですごい体験をしたり、子どもが来ている時は読売ランドとか、テーマパークに行ったりもするよ。子どもたちにとっても、日本は最高に楽しいところなんだ」

 ピッチの内外で充実した日々を過ごしているデュークは、そう話してまた微笑んだ。

 このインタビューのあと、町田は北海道コンサドーレ札幌と引き分け、サンフレッチェ広島との首位対決に敗れ、3位となってしまった。相手の対策が進み、勝ち星が少なくなってきているのも事実だ。また他クラブの一部のファンからは妬まれ、SNS上で誹謗中傷にまで発展している。

 ただひとつ言えるのは、デュークの言葉を借りるまでもなく、今季の町田の快進撃によって、Jリーグがより大きな注目を集めていることだ。賞賛も批判(行き過ぎたものは別にして)も、波風が立たないよりはマシだ。彼らのJ1での処女航海の行く末を、しかと見届けたい。

(おわり)

ミッチェル・デューク 
Mitchell Duke/1991年1月18日生まれ。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州出身。セントラルコースト・マリナーズのユースチームから2011年トップチームデビュー。2015年から清水エスパルスで4シーズンプレー。2019年に母国のウェスタン・シドニー・ワンダラーズへ移籍し、途中サウジアラビアのアル・タアーウンを経て2021年まで在籍。同年の夏にファジアーノ岡山に移り、1シーズン半プレー。2023年からはFC町田ゼルビアで活躍している。オーストラリア代表としては東京五輪、カタールW杯に出場している。