3COINS MENSの「レコードプレーヤー」

あの“300円ショップ”3COINSから、レコードプレーヤーが発売された。驚きのニュースと共に、大人気となり、すぐに品切れに。どんな音がするのか聴いてみたかったがダメか……と諦めていたら再入荷されたようで、なんとか購入できた。

“300円ショップ”ではあるが、さすがにレコードプレーヤーは300円ではなく、販売価格は税込9,900円と、一般商品の33倍の値付けになっている。その実力はどんなものか!? 確かめてみた。

機能はそれなりだが、ルックスが安っぽい

まずは概要からチェックしていこう。本機は3COINSが新たに展開するメンズ雑貨「3COINS MEN」シリーズとしてラインナップされるモデルで、製品名はそのものズバリ「レコードプレーヤー」だ。

メンズ雑貨の「モバイル」カテゴリーとしてラインナップされる

カセットプレーヤーなどもラインナップされている。こちらも興味があったのだが売り切れだった

本体を見てみると、約34×30×12cm(幅×奥行き×高さ)とほぼスクエア形でコンパクト。スピーカーを内蔵しているが、3kgと軽量で、最大約4時間の連続再生のバッテリー駆動にも対応するのが面白い。ちなみにACアダプタは付属しないので、充電は手持ちのUSB-Cケーブルで行なう必要がある。

本体底面にスピーカーが搭載されている

デザインは、遠目にはなかなか良い感じにも思える。だが、近くで見ると、まぁそれなりにチープだ。

素材はキャビネットの天面のみMDFで、そのほかはABS樹脂およびスチールとなっている。キャビネットの天面については黒の木目になっているのでそこまでは気にならないかもしれない。だがトーンアーム周りとプラッターは深刻で、“ちょっと出来の良い食玩”くらいという印象が拭えない。

MDFの木目はまだ良いが、トーンアーム周りの安っぽさは結構目立つ

プラッターもだいぶチープ。音質にも関わるため問題は見た目だけに留まらない

レコード盤はセットするとちょっと本体からはみ出すタイプ。ダストカバーはレコードをセットした状態でも閉じることができるように切れ込みがある設計だ。4つの脚部はキャビネットと一体になっており、ノックすると軽い音がする。

ダストカバーを閉じたところ。なおダストカバーの角には保護カバーのようなものがついていたが、公式サイトの写真とは違うものだった。使ってみた感じでは付けたままでも外してもよさそうだ

小ぶりな脚部が四隅に配置されている

機能面では、ダイレクトドライブ方式のセミオートタイプとなっている。スタート/ストップボタンはなく、トーンアームをターンテーブル側に動かすと自動で回転が開始し、「戻す」と止まる。

音量を最小にしてから、レコードの溝までトーンアームを動かし、トーンアームのレバーを手前に倒すと、アームが自動で下がり、再生がスタートする。あとは音量を上げていくだけだ。

オン/オフ可能なオートストップ機能も備えており、再生が終了するとリフターが上がったりはしないものの自動でプラッターが停止する。

33/45/78回転の3種類に対応し、標準でドーナツ盤のアダプターも用意される。さらに驚くのは交換針が1つ付属すること。9,900円とは思えぬサポートぶりだ。

入出力端子は入力が3.5mmステレオミニと充電用のUSB-Cを1系統、出力にラインと3.5mmステレオミニヘッドフォンを各1系統搭載。

本体背面にRCAの出力と3.5mmステレオミニ入力、およびUSB-Cの電源用端子を備える

ドーナツ盤用アダプターはプラッター脇に収納されている

交換針が1つ付属するのは珍しい

残念なのは、やはりトーンアーム周りの造り。プラッターの土台部とトーンアームベース部が一体化しているようで、ちょっとリフターを触るとプラッターごと動く。トーンアームは軽すぎてプラプラとしているため、油断すると吹っ飛んでいく。慣れた人はリフターを使わずに直接シェルをつまんでアームを操作したくなるかもしれないが、本機はリフターを使った方が安全だ。

トーンアーム部は造りがチープで耐久性の面でも心もとない

また、電源はボリュームノブと兼用になっており、ノブを時計回りに回すと電源オン/音量アップ、反時計回りで電源オフ/音量ダウンなのだが、電源オフからオンの位置までノブを回すとLEDが点灯するも、本体が動作しない。もう少し時計回りに回すとそこが最小ボリュームとなり、正常に動作を開始する。

フロントに備えるボリュームノブは電源のオン/オフにも使用。その両脇に3.5mmステレオミニのイヤフォン出力、モード切替ボタンを搭載する

モードは「Bluetooth」「AUX」「ターンテーブル」の3つが用意されるが、これが分かりにくい。まずBluetoothとAUXだが、両方とも入力のみ。つまり本機をスピーカーとして使うためのモードだ。

ワイヤレス送信、つまり“Bluetoothスピーカーにワイヤレスでレコードの音を飛ばす”ようなことはできない。またBluetoothモードは音楽再生中もブルーのLEDが点滅し続けるのが気になる。

ターンテーブルモードがレコード再生に使うモードであり、このモードでライン出力ができる。別途コンポなどとレコードプレーヤーを接続して使うための出力……だと思うのだが、本体のスピーカーと同時出力になってしまう。

「スピーカーの音量を絞ればいいか」と思ったのだが、前述の通り、本体の電源がボリュームノブと兼用なので、本体ボリュームを絞ろうとノブを回しすぎると本体動作しなくなる位置に突入してしまい再生が止まってしまう。

ギリギリを攻めることに成功しても、ちょっとだけ本体スピーカーから音が鳴ってしまう……。別に出力モードがあればよかったのだが、それは高望みだろうか。

良い音ではないが、個性のある音がする

なにはともあれ、重要な音を確認しよう。まずは内蔵スピーカーでの試聴だ。

先にもう良くないところを書いてしまうが、なんというか、音が少ない。まず低域がかなり薄い。高域もあまりない。中域は多少ある。スカスカという表現が一番しっくりくる。低音のビートなどがあまり聴こえてこないので楽曲全体が浮ついたようになってしまう。

そして音が軽い。ボーカルも楽器も線が細くなってしまい、若干こもりがちでもあるため、曲によってはボーカルが別人の声のように感じられる瞬間すらある。ボリュームには余裕がありだいぶ大きな音まで出せるが、迫力を求めて音量を上げるとどんどんチープになり、ストリングスなどの高域が耳に刺さり出すので、MAXの30~40%程度の音量で聴くのが良さそうだ。

レコードを再生してサウンドをチェック

またこれは個体差があるかもしれないが、軽量の樹脂製プラッターを横から見ると回転時に上下の揺れが確認でき、実際にレコード盤を乗せるとクネクネと歪みながら回転する。結果としてちょっとしたスイング感が出てくる、だけならまだしも音飛びもする。

意外なのはノイズ感があまりないこと。微小な部分が再現されていないのかもしれないが、音にザラつきがない。全体としてオーディオ的に良い音とは言い難いが、ポケットラジオや一体型カセットプレーヤーの雰囲気を漂わせる個性のある音だ。薄い帯域もそういうものだと割り切って聴くと、カントリー・ロックやピアノのインスト、アコースティックギターとボーカルのようなシンプルな構成の楽曲などがマッチするように思う。また古いゲームのサントラとは、なんだか懐かしい気持ちを蘇らせる独特の相性の良さを感じた。

ライン出力で外部スピーカーを接続して聴いてみると、低域や高域は出てきたものの、刺々しく耳に痛い音になってしまった。これなら内蔵スピーカーの方がぜんぜん聴いていられる。

最もバランスが良かったのはイヤフォン接続だ。なぜかこちらの場合は内蔵スピーカーと同時出力にならず、イヤフォンを接続したら出力がイヤフォンのみに切り替わる。どうしても音の軽さはあるが、帯域は明らかに広がり、収録されていた音がちゃんと聴こえるようになってくる。とは言え、こちらも音量は抑えめにしておかないと粗が出てしまうのだが……。

ちなみに、オーディオボードとしての活用法を試したIKEAのまな板を敷いてみたところ、音がシャープに引き締まった。元からぜんぜん鳴っていない音を生み出すことはできないにせよ、オーディオアクセサリーの効果を実感しやすいキャビネットだ。

オーディオボードのような振動対策アイテムは高い効果をしそうだ

クオリティを考えるともう少し予算をアップして選択肢を増やすのが良さそう

このレコードプレーヤーを検討される方は、「とりあえず部屋にプレーヤーを置きたい」というインテリア目的、「オーディオはよく分からないけど3COINSなら知っているし安いから」という超エントリー層が多いのでは?と予想する。

3COINSでは同時にカセットプレーヤーも登場したが、こちらも人気なのかそれとも別の問題か、公式ページが「売り切れなどの理由により」表示されなくなった(記事執筆時点)。いずれにせよ、3COINSのオーディオ製品が注目されているのは間違いなさそうだ。

ただ、本機が上記のような目的の方にオススメできるかというと、正直に言ってそうでもない。「見た目だけで良い」にしてもチープさが否めないし、せっかくレコードを聴くなら音も良いに越したことはないだろう。

値段感で言えば、1万円以内の予算しか絶対に出せないなら仕方ないが、もう数千円プラスすることで可能性は広がる。ION AUDIOのような同系統の機種だけではなく、Bluetooth送信機能を備えたしっかりとしたプレーヤーも視野に入る。このルックスにハマったなら良いが、人気だからと急がず他にも選択肢があることを念頭に置いて検討してほしい。

メンズ雑貨のラインだけに男らしさを感じさせるデザインではある。それ以外の要素も複合的に見て検討を