元銀行マンという経歴を持つ石破茂・新総裁

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 9月27日の自民党総裁選を経て、石破茂氏が第102代の内閣総理大臣となることが決まった。選挙戦において特に注目されたのが、各候補の経済政策だ。同じ自民党でも、例えば茂木氏は「増税の停止」を、小泉氏は「解雇規制の緩和」を掲げるなど、驚くほどバラエティ豊かだった。そうした中、不動産関係者や住宅ローンの利用者が関心を寄せたのが、総裁選の結果が与える金利への影響だった。

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【写真を見る】まるで切り立った崖のよう。高市氏の優勢が伝わり円安に振れた為替は、「石破総理」誕生で“急変”した

植田・日銀総裁は1%前後への利上げを意識か

 住宅ローンを組む人のうち、7割以上が選択しているという「変動金利」は、政策金利の影響をダイレクトに受ける。

元銀行マンという経歴を持つ石破茂・新総裁

 日銀は前々回、7月の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%に引き上げると発表。その結果、米FRBの利下げや経済指標の悪化も重なり、急激な円高と日経平均の大暴落を招いた。そうした事態も影響があったと見られているが、先日の9月の会合では「利上げの影響を慎重に見極める」とし、0.25%の政策金利を据え置いた。

 ただ、植田和男総裁は「経済・物価が日銀の見通しに沿って推移すれば今後も段階的に利上げを続ける」という考えを繰り返し述べており、市場では依然として金利の先高観が意識されている。

「植田さんとしては、上げられる時に上げておきたい、という気持ちがあるのだと思います」

 そう解説するのは、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する住宅ローンアナリストの塩澤崇氏だ。

「世界経済を見渡すと、米国経済は今のところ堅調ですが、中国経済の動向がかなり怪しい状況です。コロナショックの時もそうでしたが、経済危機はいつ起こるか分かりません。例えば、万が一中国発の経済危機“チャイナショック”のようなことが起きた時、今のような低金利政策下では、それ以上の利下げが難しく、有効な緩和策を取ることができません」(同)

 そのため、日銀としては経済が上向きな兆候を見せているうちに金利を引き上げておいて、将来的なリセッション(不景気)に備えておきたいという思惑があるのだという。

「会合後の記者会見での質疑で、ある記者が植田さんに“0.5%の壁を意識しているか”と質問しました。なぜなら、日本では過去30年間にわたって政策金利が一度も0.5%を超えていないからです。ところが植田さんは“壁は意識していない”と答えました」(同)

 日銀の田村直樹審議委員も、9月の講演で景気を過熱せず、冷やしもしない中立金利の水準は「最低で1%程度だろう」という見方を示したうえで、2026年度までの見通し期間の後半に「少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げていく」ことが必要と言明している。

「1%程度までは利上げを続けたい、という思惑が日銀上層部の発言の端々から伝わってきます」(同)

利上げに否定的だった高市氏

 その上で塩澤氏は、今後の利上げの見通しをこのように予想する。

「年内12月か、年明け1月に0.5%に。2025年夏頃に0.75%に。そして年末か2026年の1月に1.0%程度まで利上げが進み、その辺りがターミナルレート(最終到達点)になる、というのが現時点での予想です」

 ただ、利上げペースは誰が新総裁に選ばれるかで、大きく変化した可能性もあったそう。

「特に、“アベノミクスの継承者”を自認する高市さんは、今の経済状況での追加利上げには懐疑的でした。今後の利上げも、さらなる規制緩和による経済政策の効果を十分に見極めてから実施した可能性が高く、1%への到達は1年以上後ろ倒しになっていたかも知れません」(同)

 一方、住宅ローンには“逆風”になると見られていたのが「小泉総裁」だった。

小泉総裁なら金利上昇は必至だった?

「小泉さんが掲げていたのが『解雇規制の緩和』。一定の条件下で企業が従業員を解雇することを認めるという政策です。この政策が実現すれば“賃上げ”と“失業率の上昇”が起こる可能性が予想されました」(塩澤氏)

 今の日本社会は、企業が従業員を解雇するのに高いハードルを設けており、雇用のセーフティネットを民間に任せている状況。そのため、企業は終身雇用を前提に給与を設定する必要があり、「好条件で人材を確保し、ダメだったら解雇する」というドラスティックな人事戦略を取ることができなかった。

 そのため解雇規制の緩和は賃上げには追い風になる。それは賃金上昇を起点とした物価上昇をより促すことになり、日銀利上げにつながりうる。一方で失業率は上昇することに。

「景気後退時は失業率が上がりやすくなるでしょう。失業率が上がると、住宅ローンの延滞率も上がることが予想されます。すると銀行は貸し倒れが一定数発生しても利益を確保できる金利水準にしておく必要があり、今のような超低金利な住宅ローンは持続が難しくなる可能性があります」(同)

石破新総裁は「元銀行マン」

 では、石破新総裁の政権下では、金利はどのような道筋を描くのだろか。

 市場は新総裁の誕生に既に大きな反応を見せている。1回目の投票で高市氏の優勢が伝えられると、「低金利政策」への期待から、ドル円相場は一気に円安に振れ、一時1ドル146円を大きく上回った。ところが、新総裁が石破氏に決まると、一転、今度は急激な円高が進み、一時1ドル143円を下回る水準となった。

 為替の影響もあり、日経平均先物は2000円以上値下がりし、サーキットブレーカーまで発動。“逆ご祝儀相場”と揶揄される事態となった。ストレートに受け取るなら、市場は石破新総裁を「利上げ派」と見做し、警戒していることになる。

「石破さんは元銀行員で、金融政策の正常化に前向きと言われています。安倍政権下の異次元緩和に距離を取っていたこともあり、高市氏とは対照的です。そのため、高市期待で進んだ円安が一気に剥落することになったのでしょう」(同)

 ただ、石破氏が強硬な利上げ政策を主張しているというわけでもないようだ。

住宅ローンに関しては、むしろ金利上昇に対する“緊急対策”を講じると表明していますから、住宅ローンを抱える家庭への影響は意識されているのだと思います。緊急対策の具体的な内容は明かされていませんが、現在0.7%の住宅ローン減税政策を以前の1.0%に再調整することなどが考えられます」(同)

利上げ=悪ではない

 石破新総裁の誕生により、いよいよ金利の先高観が色濃くなってきたと言えそうだ。これから住宅ローンを組む人は「固定金利」も視野に入れた方がいいのだろうか。

「変動金利と固定金利の金利差は約1.4%。この金利差が0.7%まで縮まると、金利変動リスクに対する“保険”の割安感が生まれ、固定金利の魅力が高まります。米FRBの利下げの影響で長期金利が下がることも考えられ、それに連動して固定金利も一時的に1.5%程度まで下がる可能性がありますが、中長期的には政策金利と歩調を合わせると考えるのが一般的。政策金利が1%まで上がる頃には、固定金利も2.0〜2.5%ほどになっていると予想します」(塩澤氏)

 つまり、変動と固定の金利差が0.7%まで縮まることは考えにくく、変動有利の状況は変わらない、というのが塩澤氏の見立てというわけだ。

「私の予想が外れて、仮に変動金利が1.5%や2.0%まで上がったとしても、返済期間中ずっと高止まりしたままと考えるのは極端な発想です。日本の経済状況が悪くなれば、今度はまた利下げの時代がやってくるでしょう」(同)

 また、利上げ自体についても、過剰に反応する必要はないと説く。

「利上げが実施されるということは、日本経済の景気が回復していることを意味するわけです。賃金も上がっていることでしょう。インフレの負の局面だけ見るのではなく、NISAなどで長期積立投資を実践することで、インフレを味方につけるのも有効な対策です」(同)

デイリー新潮編集部