全般性不安障害

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監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

全般性不安障害の概要

全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder)は、日常生活において過度で持続的な不安や心配を感じる精神疾患です。

不安障害の一種であり、通常の範囲を超える不安や心配が6ヶ月以上にわたって続き、生活や仕事に支障をきたすことが特徴です。不安や心配の対象は、特定の出来事や状況に限られず、仕事や家庭、人間関係、健康などさまざまなことが過度に気になり、不安に伴う身体症状をきたすこともあります。

人前で話すときや一年に1回の試験、大事な大会など、誰しも緊張することはありますが、過度に緊張し、日常生活にも支障をきたすようであれば全般性不安障害である可能性があります。四六時中、不安が消えない場合には、専門家や周囲の人に相談することが大切です。

全般性不安障害の原因

全般性不安障害(GAD)は、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

遺伝的要因

全般性不安障害は家族内で発症しやすいことが知られており、遺伝的要因が関与している可能性があります。不安障害を持つ家族がいる場合、発症リスクが高くなることが報告されています。

環境要因

家庭環境や幼少期のトラウマ体験などによる心理的ストレスも全般性不安障害の原因になると考えられています。他にも、仕事や学校生活、不安を引き起こす出来事(親しい人の死、離婚、失業など)がきっかけとなることがあります。

精神的要因

完璧主義や過度の責任感、物事をネガティブに捉えやすい性格の人は、全般性不安障害を発症しやすいとされています。

全般性不安障害の前兆や初期症状について

全般性不安障害は、日常生活において漠然とした不安感が続くことから症状が始まります。不安感は、特定の出来事や問題に対する一時的なものではなく「なんとなく不安」といった感覚が長期間続くことが特徴です。

例えば、日常の些細なことを過度に心配したり「何か悪いことが起きるかもしれない」という漠然とした恐怖に襲われます。

こうした不安感に伴って、身体にもさまざまな影響があらわれることがあります。具体的には、頭の中が常に何かでいっぱいになることで集中力が低下する、決断力が鈍くなる、不安でリラックスできず夜になっても寝つけない、眠りが浅くなるといった身体症状が生じます。

他にも、筋肉の緊張や肩こり、胃痛、下痢、便秘が見られることも珍しくありません。時には、動悸が激しくなったり、息苦しさを感じたりもします。

全般性不安障害の検査・診断

全般性不安障害(GAD)は、国際的な基準として用いられているアメリカ精神医学会の「DSM‐V」を基に診断します。

過度な不安や心配が6ヶ月以上にわたって続いていて、生活や仕事に支障をきたしており、以下6つの症状のうち、3つ以上の該当症状があれば、全般性不安障害と診断されます。

落ち着きがなく、緊張感または神経過敏

疲れやすい

集中力の低下

イライラしたり頭が真っ白になる

筋肉の緊張

睡眠障害

全般性不安障害の診断において注意すべきは、他の疾患や薬剤で全般性不安障害に似た症状が出ている可能性があることです。例えば、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を発症すると、不安やイライラ、落ち着きのなさ、集中力の低下といった症状があらわれます。

他にも、甲状腺機能機能低下症に使われる薬剤やステロイド薬などを過剰に摂取することで、不安感やイライラを感じることもあります。

そのため、甲状腺疾患がないか、服用している薬で不安症状を引き起こすものがないかを確認するために、血液検査や超音波検査などを行うことがあります。

全般性不安障害の治療

全般性不安障害の治療は、高い効果が期待できるため薬物療法と心理療法を併用して行うことが多いです。

薬物療法

全般性不安障害の治療には、薬物療法がよく使われます。薬物療法では、症状の重さや他の病気を考慮したうえで、適切な薬を選びます。

一般的に、抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が使われることが多く、不安の緩和に効果的です。パロキセチンやセルトラリンといったSSRIは、不安を軽減し、症状の改善が期待できる薬です。

ただし、これらの薬の効果が現れるまでには少し時間がかかるため、治療の初期には不安を素早く抑えるためにベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)を短期間使うこともあります。ただし、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は長期使用すると依存性が生じたり、注意力が低下して事故や転倒のリスクが高まることがあるため、短期間の使用が推奨されています。

また、場合によっては睡眠障害を改善するために睡眠導入剤が処方されることもあります。

精神療法

全般性不安障害では、不安な気持ちに対して過剰に気を取られ、偏った考え方が不安や身体症状をさらに悪化させてしまうことが多いです。そのため、精神療法は患者にメカニズムを理解してもらい、不安な感情を抱いてしまう悪循環を断つことを目的に行われます。

精神療法のなかでも認知行動療法(CBT)が主に行われます。近年の研究で、認知行動療法が全般性不安障害の改善に有効であることが明らかになっています。

認知行動療法では、患者に症状や不安の仕組みについて理解を深めてもらいます。そして、症状をコントロールする方法やリラックスする技術、不安に対する対処法などを学んでもらいます。

具体的に行う内容としては、不安に思うことを話してもらいながら、不安を引き起こす考え方や行動パターンを分析し、少しずつ改善を図ります。また、患者自身が思考や行動に向き合い、効果的な対処方法を身につけることも重要です。

全般性不安障害になりやすい人・予防の方法

全般性不安障害は、過去に強いストレスを経験したことがある人や、心配性な性格の人、神経質な人が発症しやすいと考えられています。

また、家族に不安障害やうつ病などの精神的な疾患がある場合、遺伝的な要因も関与していると考えられているため通常よりも発症しやすい傾向があります。

予防の方法としては、ストレスを溜め込まないことが重要です。適度な運動や十分な睡眠、バランスの取れた食事に加えて、定期的に趣味を楽しむ、リラクゼーション法や深呼吸を試す、何か不安があれば周囲の家族や友人に相談することで、不安を解消できる可能性があります。


関連する病気

パニック障害強迫性障害社交不安障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

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依存症

参考文献

公益社団法人 日本精神神経学会「大坪天平先生に「全般不安症(GAD)」を訊く」

精神神経学雑誌オンラインジャーナル「全般性不安障害の現在とこれから」

National Library of Medicine「Generalized Anxiety Disorder」