愛すべきマクベスに出会えるはず Casual Meets Shakespeareシリーズ最新作、舞台『MACBETH SC』稽古場レポート公開
2024年9月26日(木)新宿村LIVEにて開幕する、Casual Meets Shakespeare『MACBETH SC』。この度、稽古場レポートが届いたので紹介する。
なお、本公演は、10月3日(木)にイープラス「Streaming+」にて、C(コメディ)バージョン(13時公演)、S(シリアス)バージョン(18時公演)ともにライブ配信されることが決定した。アーカイブもあり。配信もあわせてチェックしてみてはいかがだろうか。
稽古場レポート
Casual Meets Shakespeareシリーズの最新作、舞台『MACBETH SC』が、2024年9月26日(木)~10月6日(日) 東京・新宿村LIVEにて上演される。この企画は、シェイクスピア作品を「高尚かつ難解なもの」としてではなく、話の骨格や魅力的なセリフ回しを生かしつつ、現在の日本で上演することに主眼を置いているシリーズだ。
本作は、松崎史也が脚色・演出を手がけ、主演のマクベスをシングルキャストで鯨井康介が、マクベス夫人役を西葉瑞希(シリアスver.=S)、椙山さと美(コメディver.=C)が演じる。
シェイクスピアの四大悲劇の一つ、『マクベス』は、スコットランドの将軍マクベスが魔女の予言によって翻弄される、凄惨な権力争いの物語だ。王座を巡って、血で血を洗う抗争の末、野心に溺れ破滅する哀れな男の姿が描かれる。
9月某日、コメディver.の稽古場を取材した。この悲劇をコメディとして、どのように脚色するのだろうか。
この日は総勢22人のキャストのほぼ全員がそろっており、にぎやかな現場だった。休憩中も各自練習をしたり同じシーンに出る役者同士で打ち合わせをしたりして、やる気は十分だ。演出助手チームとCasual Meets Shakespeareシリーズ常連のキャストが先導して稽古が進んでいく様子は、青春時代の部活のような活気を感じる。
オープニングの振付の稽古では、舞台を目一杯使って 迫力のある画が出来上がりつつあった。コメディバージョンとはいえ、マクベスが権力欲に溺れて暴君と化し、罪悪感に苛まれる物語の始まりとして、やはり苦悩や激しい感情の表現が見える。集団での動きが多い場面なので、チームワークが試される。マクベス役の鯨井を中心として、息の合ったパフォーマンスに磨きをかけていく様子に、さっそく期待が高まる。
その後は、第一幕・第二場のシーン稽古に移った。物語の登場人物が次々に登場して、オープニングに続いて作品の雰囲気を印象づける重要なシーンである。このシーンの冒頭を担うのは、魔女を演じる澤田拓郎・上杉輝・山粼紫生だ。3人が歌いながらこの物語の始まりを告げるのだが、『マクベス』としては意外な歌の軽快さと絶妙なハーモニーに口角が上がる。 口ずさみたくなるような耳に残るメロディーで、『マクベス』の物語を一気に親近感の湧くもののように感じさせられた。横で見ている他のキャスト陣からも笑いが漏れた。そのシーンに出ているキャストとそれ以外のキャスト同士でも、反応し合って作り上げているのがよく分かる。
古屋敷悠が演じるスコットランド王ダンカンが戦況の報告を受けるシーンでは、かなりくだけた言葉でのやり取りが繰り広げられていた。ついクスッと笑ってしまうような要素が随所に差し込まれていて、座組全体の旺盛なサービス精神が伝わってくる。
アクションシーンに移ると、アクション監督の船木政秀が各キャストに動きの指導をしていく。特に印象的だったのは、ダンカンの娘、ドナルベインを演じるやじりまおんが、次々に敵をなぎ倒すシーンだ。体格的には周りの俳優よりも華奢ながら、パワフルにアクションをこなしていく。格闘ゲームでコンボが決まった時のように数字をカウントしながら相手を攻撃していくのがコミカルで、最後に回転ジャンプをしながらアッパーパンチを繰り出して敵を吹っ飛ばす姿には、思わず心の中で一緒になってガッツポーズをしてしまった。
また、舞台の一角では笑える動きで戦っている登場人物がいる一方で、それと同時に別の一角では真剣でかっこいいアクションが繰り広げられる。同じシーンでもおもしろさとかっこよさを一度に楽しめるのがポイントだ。見どころがたくさんあって、1度と言わず2度、3度と観たくなりそうだ。
稽古は終始、各キャストが自分たちのやれること、やりたいこと、面白いと思うことのアイディアをどんどん出して、取り入れてみて、試し合っている様子が見られた。試行錯誤を繰り返すことで思いもよらない化学反応が起きるこの稽古という場を最大限に生かし、楽しんでいる俳優たちの姿を見ていると、肩肘張らずに楽しめるシェイクスピアの世界が展開されるのがますます楽しみになった。本番の舞台では、稽古を重ねて変化と進化を遂げてきたがゆえの厚みが感じられそうだ。
シェイクスピアが『マクベス』を書いたのは17世紀初頭とされており、私たちが生きている2024年の日本とは時間的にも空間的にも大きく異なる。この差を隔たりと捉えるか、心ときめく想像の冒険と捉えるかは観客次第だが、ここは思い切って、Casual Meets Shakespeare版『マクベス』の世界に身を委ねてみてほしい。きっと、時代背景や国が違っても変わらない人間の本質を携えた、愛すべきマクベスに出会えるはずだ。
取材・文:伊藤優花 写真:塚田史香