「ナイスなダンスフロアをありがとう!」POLYPLUS、憧れたクラブジャズ・カルチャー再燃の第一歩目を踏み出すーー10周年記念アルバム『COSMIC』リリースツアーが大阪から開幕
『POLYPLUS the 10th Anniversary Album “COSMIC” Release Tour』2024.9.25(WED)大阪・心斎橋Music Club JANUS
今年活動10周年を迎え、約2年ぶりにアルバム『COSMIC』をリリースした、インストジャズ界のオールスターチーム・POLYPLUSの全国4都市を廻るツアー『POLYPLUS the 10th Anniversary Album “COSMIC” Release Tour』が、9月25日(水)大阪・心斎橋Music Club JANUSで幕を開けた。先日、SPICEでTSUUJII(Sax)の単独インタビューを掲載したが(https://spice.eplus.jp/articles/332140)、2028年に日本武道館公演を行うことを目標に歩みを進める彼らは、新たに「クラブジャズ・カルチャーの再燃」をテーマに掲げた。「音楽を愛するDJ、生音のライブ、ダンス、乾杯を通してナイスコミュニケーションが生まれる空間を武道館で作りたい」。今回は『COSMIC』のレコ発ツアーでありながら、そのテーマに基づいて行われる第一歩目であり、間違いなく武道館の布石になる。そんなツアー初日の模様をお届けする。
観測史上最も暑かったと言われた2024年の夏がようやく終わりを告げ、秋の気配も深まり始めた9月の最終水曜日。会場のMusic Club JANUSに足を踏み入れると、クラブ仕様のフロアが出迎えてくれた。ミラーボールとネオンカラーのライトがキラキラと場内を照らし、広めの空間には丸テーブルが置かれ、ステージ後方にはDJブースが鎮座する。
オープン時間になり、POLYPLUSが所属するレーベル・Playwrightのオーナーで、Think! Recordsのディレクターでもある谷口慶介氏がDJをスタートさせる。長年クラブジャズ・カルチャーの現場に身を置き、その変遷を見届けてきた彼は、まさに10代のTSUUJIIが影響を受けたSOIL & "PIMP" SESSIONSの社長らとともにオーガナイズパーティー『the Garden』も立ち上げた人物だ。
レコードとCDを使い、ナイスなダンスミュージックでじわじわとフロアの熱を上げてゆく谷口氏。少し大きめの音量でかかる音楽とビートに包まれてオーディエンスも身体を揺らし、ドリンク片手に楽しそうに会話に花を咲かせている。時には「この曲何ですか?」と谷口氏に話しかける場面も。良い音楽は知りたくなるので、自然とこういったコミュニケーションが生まれるのだ。TSUUJIIの言う「ナイスコミュニケーション」には、きっとこういうやり取りも含まれているのだろう。ライブ中のステージと息ピッタリなところも、終演後の愛にあふれた選曲も、ナイスDJたる所以。谷口氏は福岡・名古屋公演にも参加するとのことなので、ぜひオープンから行って、彼のDJプレイを体感してほしい。
DJタイムを楽しんでいると、あっという間に開演時間がやってきた。SEが流れ、ステージの幕が開くと同時にフロアからクラップが発生し、メンバーが姿を現すと大歓声が湧き上がった。なお今回はネタバレ防止のため、限られた楽曲のみをレポートしたい。
アルバム『COSMIC』のリード曲である「survive」は最高に華やか。空間を突き抜けるTSUUJIIのサックスはとにかく極上で、全身を大きく使ってソロを回す存在感のあるプレイに思わず釘付けになる。涼しい顔で指先から美しいメロを繰り出すMELTEN(Key/from JABBERLOOP, fox capture plan)に、ニコニコと笑顔を浮かべながらテクニカルなギターを弾くGotti(Gt/from Neighbors Complain)、サポート・ドラマーの横田誓哉とともに分厚いサウンドのビートを支えるYUKI(Ba/from JABBERLOOP)。ダイナミックに躍動する5人からは「今のPOLYPLUSのパワー」がこれでもかと放たれていた。
地元関西出身のTSUUJIIは「ツアー初日大阪よう来たな! We are POLYPLUS! まっすぐにはいかん我々についてきてくれ! ぶっとばしていくから!」と叫び、フロアをぐんぐん引っ張ってゆく。POLYPLUSは、ステージだけでなくオーディエンスも一緒にセッションするというライブスタイルを武器にしている。その牽引力と求心力はさすがの一言。TSUUJIIがお立ち台に乗ってクラップを煽ると、フロアも歓喜して一糸乱れぬクラップで応え、各々のソロパートがキマると大歓声を上げ、思い思いに身体を揺らす。大前提としてメンバーの高い演奏力と楽曲の良さ、ライブの構成力、会場全体を巻き込む魅力があるが、しっかりと喰らいついて楽しむファンの感度も素晴らしい。今回はクラブジャズというテーマゆえに横揺れ多めで、しかし熱狂はそのままに、みな自由に音楽に身を浸していた。
インタビューで「POLYPLUSがアップデートしました」と話してくれた「Hi-Tech Jazz」は、10周年とクラブジャズを掲げる今回のツアーにおいて、大きな意味を持つ1曲となった。クラブミュージックの歴史で世界中の人に愛されてきた金字塔的な名曲を、リスペクトを込めつつ、さらに一歩超えるアレンジで自分たちのものにしてみせた。メロディーラインを担うTSUUJIIのサックス、MELTENの高音を攻めるソロ、ボトムを走りながらも躍動するYUKIと横田のリズム隊に、Gottiの痺れるギターソロ。「骨の髄までカバーしている」と話していた通り、あまりにも渋くカッコ良く、演奏が終わるとフロアからは大歓声が湧き起こった。
MCでTSUUJIIは「今日はクラブジャズ・カルチャーの再燃を掲げて動き出した第一発目。一発目が大阪なのは僕的にも意味合いが深くて。もともとクラブジャズに憧れたのは、中崎町のNOON+CAFEというハコがキッカケ。須永辰緒さん主催の『WORLD STANDARD』にカルメラで出させてもらったり、JABBERLOOPがゲストで来たり」と自身の原点を明かし、「2024年から今一度我々が旗を振って、このカルチャーを作っていけたらいいなと思っています」とテーマへの想いを述べた。
後半に進むにつれて、よりエネルギッシュに、より熱量高くセッションを繰り出し、アンコールまで大迫力でぶつかり合って濃厚なライブを駆け抜けた5人。TSUUJIIは「ナイスなダンスフロアをありがとう!」と満足そうに笑みを浮かべる。10周年は通過点であり、次の10年の道すがらに2028年の武道館公演を見据えていて、それまでの旅路には色々なモードの自分たちがいると語り、改めて「僕が憧れたカルチャーの良さをもっとシェアしたい。我々なりのクラブジャズ・カルチャーへのリスペクトを込めたライブを作りますので、よろしくお願いします!」と今後に向けての決意を新たにした。
この後、福岡・名古屋公演を経て、ファイナル公演『POLYPLUS LIVE TOUR 2024 “R.T.B.” RISING & “COSMIC” RELEASE TOUR FINAL』が11月14日(木)に東京・LIQUIDROOMで行われる。初日の大阪で既にクラブジャズ・カルチャーが作り出す空間の楽しさを教わった感覚があるが、まだまだ序盤。ここからライブを重ねるごとに、より解像度が高くなっていくのだろう。これまでクラブジャズ・カルチャーに触れてきた人も、今回初めて触れる人も、ぜひ彼らの計画に巻き込まれてほしい。とんでもないワクワクが待っているはずだ。そう感じられる素晴らしい初日だった。
取材・文=久保田瑛理 写真=オフィシャル提供(撮影:黒木治)