ハーレーダビッドソン新型「ストリートグライド」のフロントフェイス(写真:HarleyDavidson)

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フルモデルチェンジで見違えるほど走りのパフォーマンスを高めた新型「ストリートグライド」(写真:Harley Davidson)

箱根の峠道でハーレーダビッドソンの2024年モデルを乗り比べるメディア試乗会が開催された。最新モデルの走りのパフォーマンスを、日本を代表するワインディングロードが連なる箱根でリアルに体験してもらうのが主旨だ。今回は大幅なアップデートにより走りのパフォーマンスと快適性が格段に向上した新型「ストリートグライド」に加え、ハーレー随一の走りのモデルとして知られる「ローライダーS」に着目、その魅力を探っていきたいと思う。

【写真】ハーレーダビッドソンの最新モデル「ストリートグライド/ローライダーS」のディテールをチェックする(21枚)

ユーザーの若返りとライフスタイルの変化

今までは都市部での開催が多かったハーレーの試乗会だが、今回は何故また箱根で行うのか、と素朴な疑問を持つ人も多いかと。ハーレーといえば威風堂々たる大陸横断バイクで、ゆったりとハイウェイをクルージングするイメージが一般的かと思う。実際のところ「ストリートグライド」や「ロードグライド」などのグランド・アメリカン・ツーリングと呼ばれるフラッグシップモデルの出発点はそこにあった。

ただ最近はアメリカでも「走りの楽しさ」や「よりスタイリッシュなデザイン」をハーレーに求める声も大きいと聞く。背景としては、近年同ブランドが積極的に行ってきた比較的若いユーザー層の取り込みや、都市生活者のライフスタイルの変化などが挙げられる。かつては何週間もかけて長旅を楽しむハーレー乗りも多かったが、最近では数日間のショートトリップで質の高いバカンスを楽しむのがトレンドだとか。

昨年ハーレーの本拠地であるアメリカ・ミルウォーキーで開催された120周年記念イベントで、最高峰モデルの新型CVOシリーズに試乗したときに本社スタッフがそう語っていた。こうしたユーザーニーズに応える形でハーレーのプロダクトも変化し続けているのだ。


進化した車体と足まわりにより、どっしりとした安定感を伴ったコーナリングが楽しめる(写真:Harley Davidson)

ストリートグライドは半世紀以上も前に登場したハーレー初のグランド・アメリカン・ツーリングの伝統を今に継承するモデルである。一番の特徴はバットウイングと呼ばれるフェアリング。コウモリが羽を広げた形に似ていることが由来だ。巨大なシャークノーズ型フェアリングを持つ兄弟車のロードグライドに比べて車重は12kg軽い368kg(それでも十分ヘビーだが)、シート高も5mm低い715mmとなっている。前述の国際試乗会のプレゼンテーションでも、ストリートグライドは“街乗りから楽しめるツアラー”の位置付けと説明があった。つまり、同じ大陸横断ツアラーでありながら、より手軽に乗りまわせるモデルということだ。

完全新設計で生まれ変わった新型ストリートグライド


前後一体型のダブルシートを備えるなど装備もスポーティに洗練されている(写真:Harley Davidson)

新型ストリートグライドは文字どおりの完全新設計だ。新たに水平基調のデザインが与えられ、空力を徹底的に見直されたフェアリングには特徴的なイーグルデザインのLEDヘッドライトが与えられ見た目も洗練された。ハーレー伝統の45度Vツイン排気量1923ccを誇る「ミルウォーキーエイト117」エンジンは新たな液冷式シリンダーヘッドの採用により、ライダーに当たる熱を低減しつつ性能も向上。最高出力で3%、最大トルクで4%アップの107HP/5020rpm、175Nm/3500rpmへと強化されている。

車体面でもフレームとスイングアームの構造や素材を見直すことで剛性バランスを最適化しつつ8.2kg軽量化。また、SHOWAとの共同開発によるリアサスペンションのトラベル量を従来の1.5倍となる3インチまで増やして路面追従性を向上、新設計の前後一体型シートの採用で快適性をさらに高めるなど、走りのパフォーマンスとともに快適性も向上させている。


グランド・アメリカン・ツーリングとしての威風堂々の佇まいは健在だ(写真:Harley Davidson)

さらに電子制御も4種類のライディングモード(ロード、スポーツ、レイン、カスタム)に対応して出力特性やエンジンブレーキ、コーナリングABS(C-ABS)&トラコン(C-TCS)を最適化する最新の安全強化パッケージを投入。タッチスクリーン式の12.3インチ TFT ディスプレイを通じて操作可能なインフォテイメントや、走行中でもクリアなサウンドを楽しめる新型4チャンネル200Wアンプを採用。ツーリングに必須のナビ機能についてはApple CarPlay 画面を全面表示することも可能だ。なお、価格は従来モデルから据え置きの369万3800円(税込)とコスパ的にも納得のいく設定になっている。

ハーレーならではのグライド感は残しつつスポーティに


1965年に登場したツーリングファミリーの元祖、FLHエレクトラグライドの流れをくむバットウイングカウルとサイドバッグが特徴(写真:Harley Davidson)

1969年製に初めてバットウイングフェアリングが採用された「エレクトラグライド」を彷彿とさせるシルエットはまさにハーレーの象徴だ。その意味でストリートグライドはハーレーの中でも最もスタンダードな存在とも言える。巨体でもシートが低く乗り降りしやすいのもハーレーの美点。とくにストリートグライドはハンドルの位置が低く、グリップも近く感じられるため自然なフォームで乗れるので楽だ。


空冷45度VツインOHV4バルブ排気量1,923ccのミルウォーキーエイト117。最新モデルでは一部に水冷方式を取り入れ、冷却効率を高めるとともに出力とトルクを向上(写真:Harley Davidson)

1923ccの「ミルウォーキーエイト117」エンジンは、空冷Vツインらしいワイルドで迫力ある排気音と脈動するトルクが力強く味わい深い。それでいてバランサー内蔵で回転も極めてスムーズ。どっしりとしていて乗り心地は柔らかく、平らな路面を滑っていくような走りが気持ちいい。ちなみにハーレーのモデル名によく登場する「グライド」とは滑空するという意味だが、まさにその感覚。ズ・ドッ・ドッ・ドッと間隔の長いビートと低振動のエンジンは快適そのもの。排気量2Lに迫るエンジンの分厚いトルクに乗って高速道路を悠々と流していくグライド感はハーレーでしか味わえないものだ。

ワインディングでも素直な乗り味


ハーレーの象徴、イーグルデザインのDRL(デイタイム・ランニング・ライト)一体型ウインカーを埋め込んだLEDヘッドライトを採用(写真:Harley Davidson)

ワインディングでも走りのよさが光っていた。コーナリングは速度域やコーナー曲率にかかわらずクセがなく素直で、タイトに曲がり込む低速域でもハンドルの切れ込みや倒し込みでの立ちの強さも感じない。さすがに軽快とは言えないが、狙ったラインに正確に乗せていく重厚な乗り味はクセになる気持ちよさだ。この巨体にして街乗りから高速移動までオールマイティ。アメリカの白バイにも昔から同タイプが多いのも頷ける。


フルカラーTFTディスプレイの両サイドに高性能スピーカー、その外側にバックミラーを配置する高級4輪車のようなコックピット。メーター下にはスマホが収納できる引き出し付き(写真:Harley Davidson)

コックピットも一新され、新しくなった大型ワイドのフルカラーTFTディスプレイの美しい画面や、高性能スピーカーから流れるクリアなサウンドを聞きながら街を流すだけで贅沢な気分になれる。また、これらを使いこなすためのスイッチ類のデザインも現代的で操作もしやすかった。ハーレーの中でも大きく立派なツーリングファミリーはついつい見た目の雰囲気に圧倒されがちだが、乗ってみるととても素直で扱いやすい。ストリートグライドはその代表格と言っていいだろう。


真っすぐの道をまったりと走る、という今までのハーレーのイメージを一新する「ローライダーS」の豪快でスポーツティな走り(写真:Harley Davidson)

一方のローライダーSは、ハーレー伝統のロー&ロングな車体とスタイリッシュな造形が特徴の“走り”のモデルである。

ローライダーの歴史は1977年にさかのぼる。創業一族のウィリー・G・ダビッドソンが設計した初代ローライダーは、走行性能を重視したシャーシに当時のビッグツインエンジンを搭載、70年代のチョッパーを思わせるアウトロー的な雰囲気も手伝って大ヒット。


ただ道を流しているだけで最高の気分。60年代に流行したチョッパーに源流を持つフリーダムな精神は今も息づいている(写真:Harley Davidson)

ちなみにチョッパーとは、かの有名なハーレー乗りのバイブル的映画「イージー・ライダー」に出てくるような“そぎ落とし系”のカスタムのこと。その意味でノスタルジックな感情を呼び起こすモデルでもあった。今日にいたるロングセラーモデルとなったローライダーに転機が訪れたのが2017年。現代的なフレーム構造を持った「ソフテイルファミリー」に統合された新世代マシンとして一大リニューアルを敢行。エンジンには新設計の「ミルウォーキーエイト」が採用され、空冷・OHVという伝統的な機構を守りつつも性能を大幅に向上した。

アメリカンスポーツの王道


現代のアメリカ西海岸から広まったクラブスタイルにインスパイアされたカスタムマインド溢れる造形美が光る(写真:Harley Davidson)

その由緒あるローライダーをベースに、さらに走りの性能とスタイルに磨きをかけた上級版として登場したのが「ローライダーS」である。2020年には新型ソフテイル版として復活。アメリカ西海岸のカスタムシーンで流行りのクラブスタイルに触発された筋肉質でスタイリッシュなデザインを纏い、倒立フォークやドラッグバーを採用するなどパフォーマンスを強調したモデルへと進化。2022年モデルではハーレー史上最大排気量を誇る1923ccの「ミルウォーキーエイト117エンジン」が与えられ、リアショックの延長によりストローク量と地上高が確保されたことでコーナリング性能もさらに向上している。なお、価格は294万5800 円(税込)となっている。

力でねじ伏せる!これぞアメリカ流スポーツバイク


前後にストレッチされたロー&ロングなシルエットが特徴。すっと伸びたフォークに前後19&16インチホイールを組み合わせた伝統的なシルエットがカッコいい(写真:Harley Davidson)

そのスタイルはまさに「これぞハーレー」といえる完成度で、巨大なVツインエンジンが放つ圧倒的な存在感に目を奪われる。重厚なエンジンの回転フィールとワイルドな排気音はハーレーならでは。アクセルを開ければ2L近いエンジンが吐き出す圧倒的なトルクで路面を引き裂くような加速が楽しめる。細かいことは気にせず力業で解決する、まさにアメリカン・マッスルカー的な世界観がそこにはある。それでいて新型ソフテイル系のエンジンはデュアルカウンターバランサーを内蔵し、振動を抑えつつソリッドな鼓動感を楽しめる仕組みになっている。だから長時間のライディングでも快適だ。

驚きのコーナリング性能


流麗な扁平タンクにガンファイター的ソロシート、ベルト駆動のワイドリアタイヤなどハーレーらしさが際立つこの角度から見たシルエットが最も美しいと個人的に思う(写真:Harley Davidson)

2022年モデルでは車高がアップし重心が高めになったことで、倒し込みがより豪快で楽しいものに。長くなったリアサスペンションのストロークを活かしつつ、従来のハーレーでは考えられない深いバンク角を保ちつつ正確にコーナーを切り取っていく。ハーレーの中でも巨大なツアラーモデルと比べると明らかにコンパクトでハンドリングも軽快。それでいて、大径19インチのフロントタイヤと小径16インチのワイドリアタイヤが織りなす安定感と曲がりやすさのバランスが絶妙で、しばらくワインディングを走っていると普通のスポーツバイクに乗っている感覚でペースアップしている自分に気づく。


2022年モデルから投入された空冷45度VツインOHV4バルブ排気量1,923ccの通称「ミルウォーキーエイト117」。シリンダーの冷却フィンとプッシュロッドが見える剥き出しのエンジンが堪らない(写真:Harley Davidson)


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加えて原付バイク並みに低いシート高(710mm)のおかげで足着きのよさも抜群。車重は308kgとけっして軽くはないが、しっかり両足で支えられるため立ちゴケのリスクも低減されるわけだ。また、ブレーキは強力かつコントローラブルで特にフロントのダブルディスクはスポーツモデルに匹敵する制動パワーを発揮。

さらに最新の電子デバイス「RDRS」によりコーナリング中でもABSやトラコンが限界時の車体姿勢を自動的に制御してくれるなど、安心してスポーツ走行を楽しめる。ハーレーの伝統的なスタイルと現代的な走りの性能を兼ね備えたローライダーSは新世代のスポーツクルーザーだ。

(佐川健太郎 : モーターサイクルジャーナリスト)