点字ブロックに貼られたQRコード(画像提供:リンクス株式会社)

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東京メトロの主要な駅のホームに設置された点字ブロックに、QRコードのシールが貼られている。実はこれ、視覚障がい者が乗り換えをスムーズに行えるようにするナビゲーションシステムのために貼られたもので、iPhoneに専用アプリをダウンロードすると、音声で案内してくれるという。

【図解】気になるQRコード…たとえば、駅のこんな場所に貼られています

システムを開発した、リンクス株式会社(以下、リンクス)に聞く。

専用アプリでQRコードを読み取って交通機関の乗り換えをサポート

このシステムは「shikAI(シカイ)」といい、公共交通機関の乗り換えを音声で案内してくれる。

システムを導入するにあたっては、あらかじめ現地調査を行い「進むべき方向と距離」「プラットホームの端・階段・改札」などのランドマーク情報が、データベースにインプットされる。そして駅構内や周辺施設などで、点字ブロックがT字に交差していたり曲がり角になっていたりするポイントに、QRコードのシールが貼られる。

利用者がアプリを起動したら、表示される目的地候補から目的地を選択。iPhoneのカメラがQRコードを読み取って「前方に上り階段です。33段上ります」「直進3メートルです」などの音声ガイドが流れ、目的地まで案内してくれるシステムだ。移動経路は、目的地と利用者の現在位置に基づいて自動で計算される。

「各QRコードには正確な位置情報が紐づけられており、視覚障がい者の方が迷うことなく、大きな駅で乗り換えを行ったり、待ち合わせ場所に移動したりすることをサポートします」

システムの利用には専用のアプリをダウンロードする必要があり、現在はiPhoneにのみ対応している。

「視覚の障がいのある方には、iPhoneユーザーが多い現状を考慮しました」

アプリをダウンロードしたりQRコードを読み取らせたりするには、そもそも画面やQRコードが見えていることが前提じゃないのと思われるかもしれない。

「iPhoneは画面読み上げ機能が標準装備されていますし、shikAIの利用シーンは公共交通機関の乗り換えを想定しています。たとえば電車を降りたら、もう足元に点字ブロックがあって、そこにQRコードのシールが貼られていますから、アプリを立ち上げてあれば必ず読み取れるようになっています」

確実に読み取れるように、QRコードのシールは1カ所につき複数枚を貼ってあるという。

「利用される方も、白杖で点字ブロックをたどっていてT字路や曲がり角を示す警告ブロックがあると、そこにQRコードが貼られていることをご存じです」

足掛け5年の実証実験を経て実用化

shikAIは東京メトロが募集した「Tokyo Metro ACCELERATOR 2016」(鉄道事業課題解決プログラム)に採択され、本格的に開発が始まった。東京メトロの総合研修訓練センターで実証実験が重ねられ、実際に営業している辰巳駅と新木場駅での最終検証を経て、2021年1月に東京メトロの5駅がアプリに対応した。同年3月には9駅に拡大し、現在は8路線20駅と「東池袋駅〜豊島区役所間」「東池袋駅〜豊島区中央図書館(ひかり文庫)間」「豊島区役所〜豊島区中央図書館(ひかり文庫)間」など自治体の施設へも広がっている。

実証実験に参加した人からは「広い駅構内を移動するときに出口が分からなかったり、階段やエスカレーターの場所が分からなかったりしたことが度々ありましたが、shikAIはまるで横にガイドさんかヘルパーさんに付き添ってもらっているようです」と、使い勝手の良さに満足する感想が寄せられたそうだ。

shikAIはもともと東京メトロが募集したプログラムに採択されたことから開発が進められたため、導入駅は東京メトロに集中している。だが、2020年にはJR西日本の新神戸駅、2022年には同じく大阪駅でも実証実験が行われた。現在は大阪にも1カ所、大阪駅うめきたエリアに導入されている。

shikAIのアプリは無料でダウンロードでき、視覚障がいのない人にも、分かりづらい乗り換えのナビゲーションとして利用できるのが大きな利点だ。

今後もしばらくは乗り換えの案内を主に広げていきたいそうだが、QRコードのシールを勝手に貼るわけにはいかない。鉄道会社や自治体などへ、地道に働きかけていくという。また2025年には、機種限定でAndroid対応も予定しているという。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)