子川拓哉、佐藤貴文、渡辺量(撮影=田中瑞希)

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 バンダイナムコエンターテインメントの「オト」で「アソブ」事業であるサウンドエンターテインメント事業が展開するコンテンツのレーベル・ASOBINOTES。『電音部』をはじめとし、直近では『学園アイドルマスター』など様々なコンテンツの音楽をプロデュースしている。今回、レーベルプロデューサーの子川拓哉、バンダイナムコスタジオより渡辺量、佐藤貴文にレーベル立ち上げの経緯や各コンテンツに込めたこだわりについて話を聞いた。音楽を通じて新たな体験を提供することへの情熱と展望について語る彼らの言葉から、ASOBINOTESが目指す未来が見えてくる。(編集部)

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■ASOBINOTESが持つ“クリエイターへのリスペクト”

――まずはASOBINOTESを立ち上げた経緯やレーベルの理念について伺わせてください。

子川拓哉(以下、子川):僕はもともとバンダイナムコアミューズメントでCafe&Bar「アニON STATION」(秋葉原・名古屋・大阪などで展開されていたコンセプトカフェ)の運営に携わっていたんです。そこでクラブイベントをよく開催していたこともあって、今の会社(バンダイナムコエンターテインメント/以下、BNE)に異動した際に、音楽やクラブカルチャーを軸にした新規事業として社内プレゼンをして立ち上げたのがASOBINOTESになります。

子川:名前の由来は、音で遊ぶレーベルなので「アソビノオト(ASOBINOTES)」。実は、『電音部』を始める前からいろいろな作品を出していたんですよ。最初にリリースしたのは、弊社のゲームタイトルから選曲したリミックス音源がベースのアナログレコード『遊びの音 vol.0』(2020年)になります。他にもバンダイナムコスタジオのクリエイターチームが作った『ALL ABOUT LOVE vol.1』(2020年)という名盤がありまして。佐藤(貴文)が自分で曲を作って歌った曲も収録されています。

佐藤貴文(以下、佐藤):懐かしいね(笑)。

――『ALL ABOUT LOVE vol.1』(※1)は、たしかバンダイナムコスタジオ所属のクリエイターがオリジナル曲を持ち寄ったコンピ盤でしたよね。

渡辺量(以下、渡辺):はい。私たちは普段ゲームの仕様に沿って音楽や効果音を作っているのですが、矢野(義人/バンダイナムコスタジオ所属のクリエイター)さんが昼休みの雑談から「ゲームから離れた楽曲でコンピレーションを作ってみない?」と提案したんです。そこから出来上がったのはいいものの、音源を出す場所がなくて(笑)。

子川:そうそう。音源はあるという話だったので「うちのレーベルから出しましょうよ」とお話ししたのを覚えています。ASOBINOTESの主な立ち上げメンバーは、僕、石田裕亮(『電音部』統括ディレクター)、『アイドルマスター』シリーズを統括する765プロダクションのゼネラルマネージャーをやっている波多野公士の3人だったのですが、当時の僕らには音楽制作やレーベル運営のノウハウがなかったので、量さんにも手伝ってもらっていて。発注書の納品形式からワークフローまで作ってもらいました。

渡辺:私も音楽制作はともかく流通に関してはまったく知識がなかったので、わからないなりにお互い勉強しながら手探りでやっていて。子川さんとは、以前に「アニON STATION」でDJをさせてもらった縁で繋がりはあったのですが、いまだになんで僕に声をかけてくれたのかはわからないです(笑)。

子川:量さんにはそのとき『アイマス』のDJをしてもらいました。で、ふみっちょ(佐藤)と僕は同期なので、DJデビューをさせて(笑)。

佐藤:当時、強引にやらされたんですよ。

子川:でも、当日はお願いもしていないのに、双葉杏(『アイドルマスター シンデレラガールズ』に登場するアイドル)のコスプレをしてきて(笑)。

佐藤:まあ、僕も若かったですね(笑)。

――(笑)。渡辺さんと佐藤さんは、関連会社内の近しい場所で音楽レーベルが立ち上がったことに対して、どう思われましたか?

佐藤:おもしろい動きだと思いました。その一方で、僕は『アイドルマスター』シリーズの仕事で日本コロムビアさんやランティスさんといったレーベルともやり取りしているので、「レーベルってそんなノリでできるんだ?」と(笑)。

渡辺:私たちはいつも思い入れたっぷりに音楽を制作していて、その出口としてモノづくりをしている人たちにフォーカスしてくれる機会を作ってくれたので、スタジオとしても何か手伝えたらと思っていましたね。

子川:僕ももともとナムコが好きで入社したので、ナムコサウンドに対するリスペクトはすごくありますし、もっと盛り上げていきたいと常々思っていて。権利まわりの整理もしましたよね。

渡辺:そうでしたね。

佐藤:色々調整してもらったおかげで使える予算も増えてくるので、その分できることの選択肢が増えますし、すごくありがたいです。そこは僕が子川くんのことを一番リスペクトしている部分でもあって、社内・社外に関係なくクリエイターをすごく大事にしてくれるんですよね。

子川:それはレーベル全体としても意識していることで、ASOBINOTESは作家それぞれの色を重視した作品を出していくことを大事にしています。『電音部』にせよ『vα-liv』(ヴイアライヴ)にせよ『学マス』(学園アイドルマスター)にせよそうで。『学マス』はふみっちょとBNEの佐藤(大地/『学園アイドルマスター』アシスタントプロデューサー)が中心になって音楽制作をしているのですが、立ち上げ時から「作家性を大事にしてほしい」と口を酸っぱくして言っていました。『電音部』も今は部下の矢野が主に取り回しているのですが、そういった理念を大事にしてほしいと伝えています。

渡辺:子川さんをはじめとしたASOBINOTESのチームは、自分の好きなものに対するこだわりや音楽への熱量がすごくあるので、そこでお互い共感し合えるものがあって、“実際の何か”に繋がっていくことが多いです。あとは驚くほど少人数でやっているので、意思疎通やアイデアを形にするスピードがすごく速い。朝提案したことが夕方には通って、次の日には施策に入っていることもあるくらいで、すごく刺激になっています。

子川:いまだに社員は僕を含め3人ですから(笑)。ただ、こうして進むことができているのも、量さんやふみっちょを含め、周辺で手伝っていくれているメンバーがみんなスペシャリストだからこそですね。

■新規IP『電音部』 “自由な発想”を盛り込む文化が作り上げた音楽性

――『電音部』はASOBINOTES主導のもと2020年に始動したIPで、“ダンスミュージック”や“DJ”をテーマにした音楽原作キャラクタープロジェクトになりますが、どのような経緯で立ち上げたのでしょうか。

子川:レーベルの立ち上げ当初は弊社のIPの楽曲を使ったリミックスCDを作る計画を立てていたのですが、権利関係などの事情でなかなか実現するのは難しい部分もありまして。それなら自分たちで原盤権や権利を所有して、割と自由に扱えるIPを作ろう、と思ったのが発端になります。アニメ制作の経験もある石田君と一緒にキャラクターから作っていきました。“ダンスミュージック”や“DJ”に関しては、単純に僕が好きだからというのが大きいです。楽器代も余りかからないですしね。(佐藤を見て)……めっちゃ楽器を使うからなあ(笑)。

佐藤:いやあ、好きだからね(笑)。

渡辺:バンダイナムコスタジオのサウンドチームの歴史的にも、古くは『鉄拳』や『リッジレーサー』のように、黎明期の頃からクラブミュージックをゲームミュージックに取り入れてきたので、社内に好きな人間がたくさんいるんですよね。

子川:大久保博さんも「ナムコサウンドチームには4つ打ちの文化がある」って言っていました。誰が一番最初に始めたんですか?

渡辺:自分は細江慎治さんだと思いますね。『F/A』という縦スクロール型のシューティングゲームがあるのですが、その音楽にガチガチのハードコアテクノを乗せており、当時非常に革新的でした。遠山明孝さん(AJURIKA)もトランス好きですし、自由な発想やカウンターの発想で音楽のアイデアを盛り込んでいく文化が脈々と続いているのがうちの特徴だと思います。

子川:イノタクさん(TAKU INOUE)もいましたしね。今だとSho Okada(岡田祥)というすごい才能のクリエイターがいまして。僕は惚れ込みすぎて、彼名義のEP(『百鬼夜行』/2024年)まで制作してしまいました。

――(笑)。岡田さんは『電音部』では安倍=シャクジ=摩耶「狐憑キ」「稀びと」などを制作されていますね。渡辺さんは『電音部』のサウンドアドバイザーを務めていますが、具体的にはどのように関わっているのですか?

渡辺:BNE内の『電音部』チームがサウンドのディレクションやクリエイターの人選を行っているのですが、私はそこで一緒にやっていく仲間のような感じですね。音まわりの制作、レコーディングやトラックダウンといった部分に関してもアドバイスさせていただいたり、(キャストの)オーディションにも関わらせていただいて。オーディションの審査の経験なんてこれまでなかったので、「どうすればいいんだろう?」というところからの始まりでした。

子川:僕は耳が特別良いわけではないので、量さんには歌の審査も含めて見ていただきました。他にもマスタリングの工程についてアドバイスしていただいたり、大きめのライブでは音楽監督としても入ってもらっています。

渡辺:1stライブの見学でリハスタに行ったら、その場で「音楽監督をお願いします」と言われて、いきなりJUNGO(演出家・映像ディレクター)さんの隣に座らされましたからね(笑)。

佐藤:子川くんは、大体無茶ぶりをしてきますよね(笑)。

子川:いつも助けられています(笑)!

渡辺:新規IPに対して「好き」の感情を持っている人が集まって立ち上げから手探りで作っていったので、自分としても楽しみながらやっていました。チーム全員が「早くお客さんに届けたい!」という気持ちでいて。楽曲を制作してくださるトラックメイカーの人たちにも、子川さんから直接声をかけて、そのクリエイターの方が今やりたいことを最大限引き出すようなアプローチ、「あなたの本気を見せてください!」というオファーをされていました。通常のゲーム音楽の制作のように、場面や演出意図に合った音楽を当てはめていくのではなく、作家の本気を引き出すようなやり方だったので、まだIPが立ち上がっていない状態で制作した最初の20曲のデモが揃っていくときは超楽しかったです。

子川:特に衝撃的だったのは「Hyper Bass (feat. Yunomi)」でしたね。

渡辺:そうそう。Yunomiさんなので、きれいなハーモニーのお洒落でキャッチーな楽曲が上がってくるものと想像していたら、あの曲が上がってきて。

――「Hyper Bass (feat. Yunomi)」は、当時のYunomiさんのパブリックイメージだった“Kawaiiフューチャーベース”を逸脱する強烈なアシッドハウス曲で、自分も衝撃を受けました。

子川:それを聴いた量さんが、「他の案件であればリテイクをお願いするところですが、このままいくほうがおもしろいと思います」とアドバイスしてくれた記憶があります。

渡辺:このように、クリエイターのやりたいことを自由にやらせてくれるのがASOBINOTESのカラーだと思いますね。

――その中で佐藤さんは「アイドル狂戦士 (feat. 佐藤貴文)」という楽曲を制作されました。

佐藤:僕も『電音部』は立ち上げのタイミングからおもしろいと思っていて、子川くんの社内部活のようなノリでレーベルを作ってしまうところや、自由な発想を感じさせるクリエイター精神にすごくシンパシーを感じていたので、楽しんで楽曲を作ることができました。

子川:「アイドル狂戦士」はどちらかというと「あんずのうた」(佐藤が手掛けた『アイドルマスター シンデレラガールズ』のアイドル・双葉杏の楽曲)の進化系だよね。ふみっちょは属性を2つ持っているんですよ。“主題歌”属性と“電波(ソング)”属性。「アイドル狂戦士」は“電波”属性だけど、それは自分の中で切り分けてるの?

佐藤:どうだろう? ただ、僕は神前暁(MONACA所属の音楽家)さんの背中を追ってこの業界に入ったので。神前さんは主題歌系の才能もずば抜けている方という意味では、そういう楽曲をやりたいという気持ちがあって。だけど、10年以上クリエイターとしてやってきた中で感じるのは、僕に求められているのは“電波”のほうなのかなって(笑)。

子川:“電波”は好きなの?

佐藤:好きだと思う(笑)。どっちも好きだけど、“電波”は他の人と違う色を出しやすい部分なのかなと。「僕の個性を出してほしい」と言われたときに“電波”の要素を出していくとなぜかみんな喜んでくれるんだよね。

子川:それは「あんずのうた」があったからじゃない?

佐藤:それこそ「あんずのうた」に関しては、自由に作らせてもらった最初の曲だと思っていて。あの曲は“電波”の方向性をやりたい気持ちがあって、自分から「やらせてください」とお願いして作った曲なんです。だから、根っこの部分はそっちにあると思います。

子川:なるほど。これはおもしろい話なんですけど、ふみっちょに作ってもらった『学マス』の「The Rolling Riceball」(花海佑芽)という楽曲は、“主題歌”と“電波”の属性が両方とも入っているんですよ。混ぜ合わせたのは初めてなんじゃないかな。

佐藤 たしかにそうかも。『学マス』はいろんな若手のクリエイターさんに楽曲制作をお願いしているのもあって、正直僕は音楽プロデューサーの役割に徹して楽曲作りに関してはお任せしようかなと思っていたんです。でも、子川くんに「作ってほしい」と言われたので、自分としても求められているものを最大限に出そうと思って。

子川:『学マス』の最初の楽曲ラインナップに関しては僕も結構口を出したのですが、メインプロデューサーの小美野さんから、「今までの『アイマス』シリーズっぽくないものにしたい」と言われていた一方で、「ライバル的な立ち位置の佑芽の曲は、逆に今までの『アイマス』っぽいものでいきたい」という話も聞いていて。それで、これまで『アイマス』シリーズの音楽に深く関わってきたふみっちょに佑芽の曲をお願いしたんです。

佐藤:ライバルというのは、言うなれば「超えるべき存在」なので、僕がその楽曲を作って、それを若手クリエイターの方たちの作った楽曲が乗り越えていく、という構図はたしかにおもしろいなと思いました。それで腹を括って自分で曲を書くことにして。僕もクリエイターとしてタダでは負けたくなかったので、自分の武器となる“電波”っぽさを混ぜて作ったのが「The Rolling Riceball」でした。

■この先10年以上続けていくことを見据えた『学園アイドルマスター』の布陣

――『学マス』に関しては、ASOBINOTESが楽曲プロデュースという形で制作に入っていますが、こちらはどのような経緯だったのでしょうか。

子川:そもそもは『ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd』を2020年の年末に開催した際に、そのキービジュアルに天海春香(『アイドルマスター』シリーズに登場するアイドル)を載せていたので、当時『アイマス』シリーズを担当していた小美野さんにイラストの監修をお願いしたのがきっかけです。そのときに『アイマス』シリーズの新作を作っていること、レーベルがまだ決まっていないことを聞いて、「うちにやらせてくださいよ!」とがっつり営業しました(笑)。その頃には『電音部』も発表済みでフィジカル(CD作品)も出していたので、楽曲制作も流通もASOBINOTESでできるし、「サウンド面のテクニカルな部分も佐藤貴文がいるので大丈夫です!」って勝手にふみっちょの名前も出していました(笑)。

佐藤:実は、それと同時に僕も小美野さんから「レーベルをどうするべきか」という相談を受けていたんですよ。その中で僕も『学マス』の音楽プロデュースを担当したいとお話ししていて、社内レーベルであればより自由に動けるかもしれないということで、子川くんの話と上手く合致して今の形にまとまりました。僕も、子川くんには絶対いてほしいとお願いしていたんですよ。

――佐藤さんはこれまでにも『アイマス』シリーズの音楽制作に関わってきた中で、なぜ『学マス』の音楽プロデュースを担当したいと思ったのですか?

佐藤:僕はこれまで『アイドルマスター ミリオンライブ!』を中心に担当してきましたが、今の立ち位置でやれることはすべてやってきたと思っています。その上で、枠組みの外から見ると「こうした方がもっと面白そう!」と感じる瞬間もあり、『学マス』は、枠組みを外して挑戦できると思ったのが大きいです。今は好き放題にやらせてもらっていて、ASOBINOTESだからこそできていることがたくさんあると感じています。

子川:この人、めっちゃお金使ってますからね(笑)。

佐藤:だって予算は無限大って言うから(笑)!

子川:いやいや(笑)。

――先ほどの楽器の数の話じゃないですが、『学マス』の楽曲はオーケストラやホーンセクションも贅沢に使われていて、リッチな音作りをされていますもんね。

佐藤:音楽チームだけでなくゲームチームとも一緒にやっている視点があるので、音楽に関しても、本当に良いと思えることをやって間口を広げたほうが結果的にIPの広がりに繋がっていくと思っています。僕や量さんのようにゲーム開発に携わっている身としては、ゲームの開発にはものすごくお金がかかるからこそ、そこでコストを無理に抑えようとする意味を考えたりもするんですよね。

渡辺:今はお金の話にフォーカスしていますけど、想定していたことのさらに上を行く、いい意味で「やりすぎ」なところまで到達していくと、より広いところに刺さりやすくなるとは感じていて。そういうモノづくりのアイデアや発想――与えられた予算の中で小さくまとまってしまうのではなく、ちょっとネジの外れたサービス精神が佐藤くんにはあると思うので(笑)、そこがすごくいいと思います。

子川:小さくまとまらないので、調整する立場としても楽しくやらせてもらっています(笑)。

――実際、長谷川白紙さんが楽曲提供した篠澤広のソロ曲「光景」のように、従来の『アイマス』シリーズのファンを超えて、音楽好きの間で楽曲が話題になるケースもありました。

佐藤:そこはASOBINOTESだからできていることだと感じています。子川くんも含めてチーム全体に「おもしろいことをやっちゃおうぜ!」「驚かせてやろう!」というエンタメ精神が強くあるんですよね。

子川:特に「初」(初星学園名義の全体曲)はおもしろかったよね。

――『学マス』全体のテーマソング的な立ち位置の「初」を作った原口沙輔さんは、この楽曲を制作した当時、すでにメジャーシーンで活躍されていたとはいえ、まだ高校生だったという話で。その意味ではかなり大胆な起用でした。

佐藤:『学マス』は新規IPなので新しい風を吹かせたい、というところに沙輔さんはすごくマッチしていました。僕は『学マス』をこの先10年以上続けていくプロジェクトとして考えていたので、そこで流行りを意識した曲を最初のテーマソングにしてしまうと、後々古さを感じることになってしまう。その意味でも、時代の色ではなく独自の色を持っている沙輔さんにお願いしました。

――月村手毬のソロ曲「Luna say maybe」を提供した美波さんのように、すでにアーティストとして自分のスタイルを確立している方が楽曲提供しているケースも多いですよね。

佐藤:それは、僕がやりたかったことのひとつでもあって。僕は、楽曲を作ってくださる方のアーティスト性や作家性と、『アイマス』のキャラクター性を掛け算したいとずっと思っていたんです。キャラクターに合わせていく部分に関しては、歌の収録や見せ方も含めて、僕がこれまでの経験を活かして調整できるから、楽曲を作る際には作品やキャラクター性を意識することなく、好きに作ってくれればいい。なので、逆に(『アイドルマスター』シリーズと)遠い位置にいる方と一緒にやったほうがおもしろいことができると考えていました。

子川:プラスして、ASOBINOTESレーベルは「飛び込み営業型」という特徴があるんですよ。「この人にお願いしたい」というアイデアが出たら、すぐにDMなりコンタクトフォームなりを通じて正面から連絡するので、コネクションのあるなしは関係ない(笑)。

佐藤:新規レーベルだからこそ、しがらみがなく、一緒にやりたい方に無邪気に声をかけることができるんですよね。音楽シーンとしてもアニメやゲームといった文化に追い風が吹いているので、アーティストさんも興味を持ってくださる方が多いです。

――それでいて『学マス』の楽曲は、各アイドルのキャラクター性に合わせて楽曲制作を行っている印象が強いです。

佐藤:そこはすごく考えています。「この人なら好きに作っていただいても大丈夫」と確信したうえでオファーしているので、クリエイターやアーティストの皆さんに相談する前段階が一番重要ですね。例えば篠澤広の「光景」を書いていただいた長谷川白紙さん。僕の中で白紙さんは抽象画家のようなアーティストで、広もキャラクター的にどんなものを出してくるかわからないアイドルなんです。なので、白紙さんには広がどんなアイドルなのかをお伝えしたうえで、あとは基本ノーディレクションで自由に作っていただきました。僕としても完成系がどうなるのか予想もつかなかったけど、広はある意味、何をやっても許されるアイドルなので、最終的に上がってきたものに対して合わせていけばおもしろいものになるだろう、という発想でした。

 それは美波さんも同じで。彼女が作る楽曲に対しては信頼しかないので、美波さんの考えるアプローチで作ってもらえば絶対手毬にハマると思ってお願いしました。今までの『アイドルマスター』シリーズの文脈から考えるとかなりチャレンジングな作り方をしているので、リリースするまでは正直不安もあったのですが、結果的に受け入れられて安心しています。

子川:Gigaさんの楽曲(花海咲季「Fighting My Way」)とかもそうでしたね。Moe Shopさんの楽曲(有村麻央「Fluorite」)は僕が提案したのですが、『学マス』では4つ打ちも結構取り入れているんです。基本、アイドルごとにジャンルのイメージがなんとなくあって、それに合ったクリエイターの方にオファーする流れです。

佐藤:例えば、ナユタン星人さんに書いていただいた葛城リーリヤのソロ曲「白線」は、バンド感を出していきたいというイメージがありました。他にも倉本千奈の「Wonder Scale」はオーケストラ曲にしたいということで兼松衆さんにお願いして。千奈はお嬢様なので、やっぱり楽曲もお金のかかっている音にしなくてはいけないんです(笑)。

子川:お嬢様キャラだから、そこは仕方ないよね(笑)。

――まだまだ聞きたいことは尽きないのですが、そろそろ時間ということで。最後にASOBINOTESの今後の展望と、サウンドチームとしては今後どのように連携していきたいかをお聞かせください。

渡辺:『電音部』のライブでお客さんを目の前にしたときには鳥肌が止まらなかったですし、ASOBINOTESは我々クリエイターにとっても遊び場になっていて、DJやイベントを含めてクリエイターが活躍できる場所を提供してくださるので、本当に感謝しかないです。我々サウンドチームは音楽が持つ力を最大化するのが(バンダイナムコの)グループ内で一番得意という自負があるので、今後もいろいろな形で協力させてもらえたらと思います。

佐藤:僕もそうですが、子川くんの下でやっているチームの人たちもすごく楽しそうに仕事をしているんですよね。ASOBINOTESという名前の通り、みんな楽しく遊びながらモノづくりをしていることが感じられるので、いいレーベルだなと思いますし、僕は同期でもあるので、今後も一緒に好き放題やっていけたらと思いますね。

子川:レーベルとしては、“『電音部』だけ”という状態から脱して、今後は『学マス』に加えて、今期中には『vα-liv』も楽曲をたくさんリリースする予定です。各IPごとに担当がいるのですが、僕はとにかくクリエイターの顔を見て仕事をしてほしいと伝えていて。クリエイターとは、目線を対等に合わせて、現場感を大事にしたレーベルであり続けたいですね。

※1:https://asobinotes.bn-ent.net/news/774/

(文・取材=北野創)