SIRUP、『Grooving Night』ナレーション収録

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9月20日(金)、大阪・泉大津出身のSIRUPがホストをつとめる音楽イベント『Grooving Night #4』が、大阪・オリックス劇場で開催される。本イベントは、ホストのSIRUPが読売テレビとタッグを組み、今までにない試みで「音楽・社会・人」をつなげる新しい音楽イベント。2023年3月にiriをゲストに迎えて行った初回を皮切りに、同年9月にはOKAMOTO’Sを、2024年3月にはSIRUPの盟友・TENDREを迎え、Zepp Namba(OSAKA)で公演を重ねてきた。次回のゲストはNYを拠点に活動する、大阪・八尾出身のAyumu Imazu。開催に先駆けてSPICEでは、先日読売テレビで行われたSIRUPによる事前特番のナレーション収録に密着。関西のメディアや企業と連携を取り合い、丁寧に話し合いを進めてつくり上げられる『Grooving Night』の裏側や、SIRUPと制作陣の熱い想いを知ってもらえると幸いだ。

「誰も取り残さない」音楽の現場を目指す

“寝る前に、グルーヴ溢れる夜を過ごそう”をコンセプトに、夜のくつろいだ部屋をイメージしたステージで、ホストアーティストのSIRUPとゲストアーティストがライブ&トークを届ける『Grooving Night』。眠りにつく前の、本音の出やすいリラックスした時間に音楽が生み出すグルーヴと彼らの本音を、リスナーと共有する。

ゲストとSIRUPによる音楽ライブとトークパートから構成される本イベントは、「誰も取り残さない」ことを大事にしている。ただの対バンライブで終わらないのが大きな特徴だ。トークパートでは、SIRUPとゲストがパジャマ姿で登場。ベッドに腰掛け、まるで家にいるようなリラックスムードで、用意されたテーマについて本音で語り合う。トークテーマは「夜寝る前に何してる?」というアーティストのプライベートが垣間見えるものから、「SNSでの否定的な意見にどう対処している?」「ライブや音楽が社会にできることは?」など、社会問題にも深く切り込むテーマまで幅広い。

『Grooving Night #3』ゲストアーティスト:TENDRE

今年3月に行われた『#3』では、視覚・聴覚に障害のある来場者も楽しめるように、鑑賞サポートとしてメガネ型ディスプレイやタブレットを導入。また、LGBTQ+など性的マイノリティとその家族、アライの尊厳と権利を守る活動をするNPO法人・虹色ダイバーシティが運営する常設LGBTQセンター「プライドセンター大阪」のブース出展やオールジェンダートイレも用意して、社会課題への取り組みを行なっている。

前回より視聴覚障害鑑賞サポートを導入

LGBTQセンター「プライドセンター大阪」のブース

続々と増えていく、『Grooving Night』を応援する関西の仲間たち

『Grooving Night』を主催するのは、読売テレビとキョードー関西。企画制作は読売テレビが行う。協賛は、継続してBillboard Live OSAKA、大阪スクールオブミュージック、堂島浜に位置するホテル・Zentis Osakaが参加。Zentis Osakaは、毎回SIRUPとコラボしたアイリッシュウイスキー「JAMESON」とのコラボカクテルをバー&レストランで提供している。さらに今回は、シャンプーや入浴剤などのトイレタリー・コスメティックスや薬品・食品事業を展開しているクラシエ株式会社が初協賛。そして協力には芸術文化をルーツとし、世界をよりよい場所にしたい、人生をよりよく生きたいという、あらゆる表現者の「クリエイティブな意思」を届けるメディア・CINRAと、大阪・堀江で創業100年の家具屋・The ONOE FURNITUREが名を連ねる。

いずれも、社会をよりよくしたい、新しいビジョンやアイデアから生まれる試みにより芽吹くものや、共感・自由を大切にしたい、といった信念を持つ企業団体で、CINRA以外は関西に拠点を置く。SIRUP自身も大阪出身で、『Grooving Night』が大阪で開催されていることもあるが、何よりも『Grooving Night』に賛同する強力な仲間たち。過去には、今年創刊35周年を迎えた京阪神エリアの街を密に紹介する雑誌「Meets Regional」や、2018年に読売テレビグループが立ち上げた、関西をもっと楽しむライフスタイルマガジン「anna」でSIRUPがインタビューを受けたりと、まさに『Grooving Night』を応援する関西のメディアや企業がじわじわと増えていっているところなのだ。

今回はSPICE編集部の関西チームが、8月23日(金)25:35~に放送された地上波特番『「Grooving Night」』#3 一夜限りのSPライブ&トーク』(関西ローカル)用のナレーション収録を行うために来阪したSIRUPに密着。関西のチームでつくり上げられていく『Grooving Night』の裏側を追いかけてみたい。

SIRUPがありのままの言葉で語るナレーション収録

イベントプロデューサーの読売テレビ・門上由佳氏、野口弥生氏と打ち合わせ

8月19日(火)夕方、読売テレビ本社に到着したSIRUP。玄関前で出迎えた読売テレビ・門上由佳プロデューサーとスタッフと共に、テレビ局内の控え室へ向かう。この門上氏こそ、『Grooving Night』の立役者であり発起人だ。

SIRUPは常日頃から、SNSやライブで社会問題や政治について発信している。コロナ禍では、支援団体「SustAim」を通してオリジナル・デニムシャツの売上をホテルシェルターに寄付したりと精力的に活動を行なっていた。そのSIRUPの姿勢とライブに感銘を受けた門上氏は、幾度もライブに足を運び、熱心に出演をオファー。約3年かけて口説き落とし、昨年、念願の企画が実現した。

門上氏は『Grooving Night』について、「音楽を通じてエンパワーメントする場をつくりたいと思った。音楽を通じて社会問題や生活の違和感を少しでも改善できるような入り口となれる企画に育てたい」とコメントを寄せているように、本イベントへの熱意が非常に高い。「音楽は、社会が正常に機能し、救われるべき人が救われるような世の中でこそ力を発揮する」というSIRUPの想いに強く共鳴した。

それゆえにSIRUPとの信頼関係も深く結ばれており、ナレーション収録中は、根底にリスペクトがありながらも、イベントの意図が視聴者にしっかりと伝わるようにというテレビ制作者の想いも抱きつつ、決して妥協しないクリエイティブを追求していた。SIRUP自身の頑張りとプロフェッショナルはもちろんだが、高い熱量でパワフルに明るく向きあう門上氏に周りのスタッフも引っ張られ、長時間に及んだ収録の現場も終始和やかに進んでいった。

収録中の映像も撮影するため、トークパートの衣装のパジャマに着替えたSIRUPは、ナレーションスタジオへ。インテリア雑貨や備品のディテールにもこだわりと職人技が光るスタジオは、スタッフ曰く「関西で一番ゴージャスなブース」。実に綺麗で立派な造りだ。SIRUPは隣の録音ブースにスタンバイし、映像技術スタッフやディレクター、門上氏が見守る中、いよいよ収録がスタートした。

まずは特番の冒頭部分から。台本を見ながらスタッフ陣とすり合わせつつ、細かな調整を行なっていく。「言い回しをSIRUPさんの言葉に変えてもらっても良い。SIRUPさんにしか言えない主観を言ってもらうのが嬉しい」と制作側の要望を伝えたり、「どうすればイベントの趣旨や活動が伝わるか」と一緒に考えたり。ただ台本を読み上げるだけではなく、SIRUPの今の想いも乗せながら、チームで対等につくり上げていく。

例えばSIRUPの直近のトピックスとして、中華圏で最も大きなAWARD『金曲奨(GMA)』の「Producer of the year (single)」に、台湾のシンガーソングライター・The Craneとのコラボ楽曲「UMAMI」がノミネートされた。この輝かしいキャリアを、限られた尺の中でどんな言い方で伝えるか。映像テロップの情報も加味しつつ、スタッフと相談しつつ、SIRUPは何度も口に出しながら、丁寧に話す言葉を選んでいった。

また「声は少し張り目で」「気持ちゆっくりめで」といったリクエストにも都度対応するSIRUPに、スタッフは「完璧!」「すごく良かったけどもう一度いきましょう」とモチベーションを上げて臨めるように環境を整える。深夜帯の番組であること、声の温度感やスピード、テンション、聴きやすさ、映像の尺やBGMとの兼ね合い。様々なポイントをクリアして進められる収録の模様からは、奥深さを感じさせられた。

徐々に喉もあたたまり、良いテンション感で特番用のナレーションを録り終わると、続けてテレビスポット用のナレーションと、『#4』のライブ当日に流れる影アナを収録。疲労の色も見せず、最後まで高い集中力を保ちながら走りきったSIRUPとスタッフ陣。円滑なコミュニケーションと和気藹々とした雰囲気からは、お互いへのリスペクトとチーム感がしっかりと感じられた。また、SIRUPのお茶目な一面もうかがい知れた時間となった。

ナレーション収録の後は休憩する間もなく、翌日朝に出演する生放送番組『す・またん!』やイベントに関する打ち合わせへ。門上氏は、SIRUPが初めて地上波の朝番組に生放送に出演することの理由や意義をSIRUPに伝え、SIRUPもそれに真剣に向き合っていた。

もっとみんなが自由に生きられる世界になってほしい

ナレーション収録を終えたSIRUPに感想を聞いてみると「1~2回目はすごくカロリーを使っている感じだったけど、3回目なのでだいぶ慣れてきましたね。今日はあまり長く感じなかったです」と笑顔を見せる。

関西メディアと一緒にイベントを作り上げていることについては「自分は大阪出身で、大阪でもSoulflex(総勢11名によるアート・コレクティブ)のクルーをやっているんですけど、そこまで大阪に重心を置いてSIRUPの活動をやったことがなかったんです。もちろん門上さんがかなり口説き落としてくれたことも、大阪で開催できていることもあるけど、音楽やアーティストの影響力をもって、社会に対してやりたかったことを一緒にやってくれる力強い仲間がいっぱい増えていることは、SIRUPにとっても自分個人の人生にとっても、すごく大きなこと。ありがたいなと思います」と語ってくれた。

それは、使命のようなものなのだろうか。「使命とまでは考えてないですね。もう少しプライベートなところにも落とし込みたくて。自分が生きてきた実感として、縛りつけられることの多い世の中だなと思っていて。音楽は本当は自由な場所なのに、音楽の現場でも自由にできていないと、なかなか自分が伝えたいことの本質が伝わらない。単純に価値観という狭い話よりかは、もっとみんなが自由に生きられる世界になったらいいなと思っている。世の中は全部繋がっているので、そう思うことで、自分の生活圏も同じ価値観を持った人たちで満たされる。そういう感覚かもしれないですね。あと、ある程度影響力を持ってる人が、社会をよりよくするためにその力を使うことは社会的な倫理だと思っているので、やりたいですね」と力強く口にした。

実際にワンマンライブ以外のフェスなどの現場でも「選挙に行こう」と呼びかけているSIRUP。リスナーの反応はどうかと聞いてみると「続けることは大事ですね。例えば政治的なことを言ったら敬遠されるんじゃないかという気持ちもあるんですけど、何年も続けて言っていくと、お客さんも最初はシーンとなったりもしたんですけど、世の中の異変や異常に気付いている人が増えてきた流れもあって、今年は反応が「イエー!」みたいに変わってきましたね」と手応えを述べる。同時に「(発信の)裏でも自分の意思を伝えたり、ちゃんとそれを裏付ける実力を準備することも大事。リスペクトし合っている関係性があるからできている」と、自身の努力と心がけについても教えてくれた。

そんな想いで開催する『Grooving Night』、3回を終えて掴んだものは?「まだ3回なので、実験という感じはすごくあります。『#3』のゲストのTENDREは、自分とは違う形で普段から発信をしているし、よく話す仲間だったのでまとまった感じもあるけど、これからのゲストはみんながみんなそうじゃないと思う。だけどそれがきっと面白い。みんな違うノリがあっていい。というところで、自分がもうちょっとしっかりせなあかんなというのは常々思ってますね。ゲストは門上さんも含めて、社会問題を発信してる人や、やってくれるかなという人たちを調査して、どんどんオファーしていきたい。もちろん出たいという人はDMしてほしいです(笑)」とアピールも。

聴覚・視覚に障害のある人への鑑賞サポートや常設LGBTQセンター「プライドセンター大阪」との取り組みについては「やりたかったことができました。もちろんもっとできることや、もっと細かい配慮、色々な準備も必要だと思う。今は特別な催しのように見えていますけど、当たり前のことになればめっちゃいいなと思いますね。やっぱり自分たちの持ち出しでできる部分は限られてくるので、行政がお金を出してやってくれることが1番かなと思います。ぜひサポートしてくれたら嬉しいですね」と希望を口にした。

次回ゲストのAyumu Imazuは、お互いに大阪出身。対談やプライベートの時間を経て、仲も深まりつつあるようだ。「彼は14歳でアメリカに行って、何年もアメリカに住んでいる。アメリカの方が社会的な部分では日本よりも進んでいると思う。最初に会った時、同じような感覚があるという確認ができたので、仲良くなれた。だからそういう温度感を出せるかな。違う国で活躍している人の目線が入るので、今までとはトーンが違うと思います。観ているお客さんの印象も少し変わるだろうし、新しい風が吹く感じはあるんじゃないかな。トークテーマはこれから決めるんですけど、海外は日常生活から仕事の仕方も、全然日本と違うと思うんですよ。日本とアメリカではどう価値観が違うのか。そういう話はやっぱり聞きたいですね」と、眼差しに期待を滲ませた。

そして最後に「初めて来られる方もいらっしゃると思いますが、自分たちは単純に最高のライブを披露しようと思っています。イベントに対しての試みは色々あるんですけど、1番は音楽の部分。アーティストとしては、ライブの後のトークで色んな話をするからこそ、今まで書いてきた歌詞の見え方が変わったりするし、お客さんにとっても聴こえ方が変わったりする。もちろん最初から「こうだ」と思って作品をつくる人もいると思うけど、自分は音楽に今の感情や感覚を表現しているので、実は何を表したかわかっていない状態で発表することの方が多いんですよ。だから対話やインタビューで気付くことがあったり。人の音楽も自分の音楽も、見え方が変わってきたりするのかなと思います。そういう意味で2度美味しいことを推奨しているので、その楽しみを持って帰ってもらえれば嬉しいですね」と締め括った。

『Grooving Night #4』はZepp Namba(OSAKA)から場所を移し、初のホール開催となる。ホストのSIRUPとAyumu Imazuの化学反応はいかに。

もしかしたら、社会的な問題について「難しいかも」「気になるけど、自分はそんなに意識が高くないし……」と思う人もいるかもしれない。しかし『Grooving Night』は「誰も取り残さない」場所。音楽を自由に楽しむ場所。どんな参加の仕方でも構わないのだ。トークパートも決して堅苦しくない、楽しい雰囲気だ。SIRUPやゲストも「自分たちも一緒に学んでいっている」と話している通り、みんなで気楽に課題を考える場である。一度足を運んでみれば、何か気付きがあるかもしれない。少しの好奇心と音楽への愛を持って、訪れてくれれば幸いだ。

SIRUPと読売テレビの熱い想い、これからさらに根を張って広がっていくであろう活動を目撃・体感してほしい。

取材・文=久保田瑛理 撮影=浜村晴奈