2戦で12ゴール「決定力過剰」の森保ジャパンに死角はあるのか?アジア予選で”一番やりづらい”相手とは
CF上田のシュート技術は非凡。三笘や伊東の突破力もアジアレベルを遥かに超越している(C)Getty Images
ホームで中国に7−0、アウェーでバーレーンに5−0と、最高のスタートを切ったワールドカップ・アジア最終予選。かつて「決定力不足」と叫ばれた日本代表は何処へやら? 今や森保ジャパンは、対戦相手に「決定力過剰」を嘆かれるほど、得点力に事欠かない状態だ。
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バーレーンと中国。両チームの守備は共に、自陣でブロックを構えるものだった。バーレーンは中国よりラインが高く、アグレッシブだったが、大枠では同じ。どちらも自陣で構える守備を敷いた。
「引いて守るチームから得点を取るのは難しい」というのはサッカーの定説であり、実際に今回の最終予選でも、オーストラリアや韓国をはじめ、ほとんどの強豪が苦戦している。特に近年はアジアの中堅国が欧州から監督を招聘し、守備を洗練させているため、力任せに崩すのは困難になってきた。日本くらいだ。そんな中でも7ゴール、5ゴールと景気の良い試合をしているのは。
なぜ、日本の得点力はこれほど突出しているのか?
要因の一つに、チームの成熟が挙げられる。7年目を迎えた森保ジャパンの主力は、すでにカタールワールドカップの時点で大半が固まった。共にプレーし、連係が積み重なっているので、想定外の状況に柔軟に対応できる。
中国とバーレーンは、日本の攻撃を入念に分析してきた。やり方は多少違うが、どちらも日本のショートパスを警戒して真ん中をクローズし、スピードを警戒して空いたサイドから背後を取られることを避ける。そこからカウンター狙いだ。ゾーンでスペースを守る箇所、素早くアプローチする箇所、マンツーマンで対処する箇所、ダブルチームで対処する箇所など、各人のタスクを組み合わせ、全体を構築していた。過去にアジアのチームにありがちだった、やる気マンツーマンの守備とは様子が違う。
それに対し、日本は序盤こそハマりかけたが、手を変え品を変え、相手のゲームプランを破壊した。真ん中が封じられたら、両サイドから三笘薫や伊東純也が仕掛ける。両サイドが消されたら、ハーフレーンから南野拓実や鎌田大地が飛び出す。それも封じられたら、守田英正や鎌田がライン間へ潜ってスルーパス。このように相手の分析を上回る攻め手を、次々に繰り出して行く。中国は2つ目のハーフレーンで決壊、バーレーンは持ち堪えたが、3つ目のライン間、守田や鎌田で決壊した。
両サイド、ハーフレーン、ライン間。どんなに分析しても、ピッチ上のスペース全部を同時に消すのは不可能である。何処かを封じれば、何処かが空くのは必定だ。日本はその隙を丁寧かつ柔軟に突き、得点を重ねた。
相手の守備は決して悪くなかった。しかし、そのやり方を見極めながら、試合中に攻め手を変化させられるのは、森保ジャパンの成熟度がなせる業だ。第二次、7年目は伊達じゃない。加えて、これまで得点源として心許なかったセットプレーも改善され、中国戦ではCKのサインプレーから先制点を挙げた。こうしたチームの継続的な積み上げは、日本の得点力に確変が起きた要因と言える。
二つ目の要因は、個人のレベルだ。
日本の「決定力不足」が強く取り上げられた試合と言えば、2015年のアジアカップが印象深い。また、その大会が最後だったのではないか。当時の準々決勝UAE戦はシュート30本を放ちながらも柴崎岳のゴール1点に留まり、日本はPK戦の末に敗退した。もう9年も前の話だ。当時はメディアで「決定力不足」が大きく叫ばれたが、今にして思えば、底だった。
その後は大迫勇也という大舞台で決定的なゴールを奪うFWが台頭し、今は上田綺世がいる。この少年時代からシュート練習に明け暮れ、「1本のスーパーゴールは要らない。普通のゴールを9本決めれば、それでいい」と大学生時代に堂々と言い切った生粋のストライカーは、バーレーン戦で強烈なPKをゴール隅に叩き込み、さらに2点目も強烈な反転シュートでゴールポストを強襲した。彼のシュート力は規格外だ。過去のJリーグで言えば、助っ人外国人クラス。上田だけでなく、守田も冷静なフィニッシュを見せたし、堂安律や南野もゴールやアシスト共にこう着をぶち破るクオリティを持っている。
9年前に叫ばれた「決定力不足」。
問題というものは、それを見つけ、意識した時点で半分は解決している。当時のアジアカップ敗退をきっかけに、元柏や甲府のFWだった長谷川太郎は、W杯得点王になる日本人ストライカーを育てようと、『TRE2030 STRIKER PROJECT』を立ち上げた。長谷川だけでなく、「決定力不足」に刺激を受け、何かを変えようとした選手や指導者は少なくなかったのではないか。
スピードやデュエルも同じだ。10年前、20年前はどちらも日本の弱点だった。世界と戦う上では明らかに見劣りしたが、その克服を目指して奮闘し、今は逆に武器になった。バーレーン戦の1点目、2点目はカウンタープレスによるボール奪回から生まれたもの。その効果は多岐にわたる。
話はそれるが、GKもそう。日本人GKの不足が叫ばれた時期は断続的にあったが、近年の日本は鈴木彩艶をはじめ、190cm越えのGKが多く育ち、タレントの宝庫だ。解決は間近だろう。
問題は見つけた時点で半分解決している。課題を明確にし、取り組みを続けてきた結果、今の日本代表がある。決定力の驚くべき改善も、その一つだ。
ただ、こうして歩みを振り返ると、最近は内容が良すぎて問題点が挙がらないのが、逆に不安でもある。年初のアジアカップではイランとイラクに、ハイプレスとロングボールで苦しめられた敗戦が記憶に新しいが、その課題を克服する機会は今のところない。
バーレーンと中国は戦術的に優れていたが、戦略的には間違っていたと個人的には思う。今の日本を相手に、自陣に構えて守るのは下策だ。日本の変幻自在のポゼッション攻撃とカウンタープレスに晒され、勝機がない。一方的になってしまう。
ハイプレスでもロングボールでも、手段は何でもいいが、戦略として敵陣に押し込もうと強い圧力をかけるチームこそ、日本にとっては一番やりづらい相手だ。これほど日本の攻撃が変幻自在で、相手を見て変化できるのは、時間があるからでもある。3バックにボールを持たせてくれる、その時間を日本から奪って押し込もうとするチームが現れれば、別の問題が起きるのではないか。プレス回避の課題、ロングボール対処の課題。それは次の成長のチャンスになる。
来月に対戦するサウジアラビアとオーストラリアは、そうした点で日本に問題を突きつけるだろうか。勝ち点と成長、両方がほしい。
[文:清水英斗]