アメリカ司法省はGoogleが「広告技術市場を違法に独占している」と主張し、反トラスト法(独占禁止法)違反でGoogleを提訴しており、2024年9月9日から裁判が行われています。この裁判で、検察側証人として招喚されたNews Corp元幹部が「まるでGoogleに広告取引を人質に取られているように感じた」と証言していたと報道されています。

News Corp would have lost $9 million in 2017 by ditching Google ads, ex-exec testifies | Reuters

https://www.reuters.com/technology/news-corp-would-lose-9-million-by-ditching-google-ads-ex-exec-testifies-2024-09-10/



Google dominates online ads, says antitrust trial witness, but publishers are feeling ‘stuck’ - The Verge

https://www.theverge.com/2024/9/11/24241386/former-news-corp-executive-google-doj-ad-tech-trial



The DOJ vs. Google, Day Two: Tales From The Underbelly Of Ad Tech | AdExchanger

https://www.adexchanger.com/antitrust/the-doj-vs-google-day-two-tales-from-the-underbelly-of-ad-tech/

アメリカ司法省は、広告主とパブリッシャーを仲介する広告取引所のGoogle Ad Exchange(AdX)とGoogle Ad Managerなどの広告技術ツールと結び付けることでGoogleが市場を支配し、競争を阻害していると主張しています。

Googleの広告事業に対するアメリカ司法省の独占禁止法訴訟が2024年9月9日から開始予定 - GIGAZINE



Google Ad Managerはパブリッシャーが広告を管理・配信・追跡するためのツールで、もともとは1996年に設立された広告技術企業・DoubleClockの「DoubleClick for Publishers(DFP)」として知られていました。しかし、DoubleClickが2007年に31億ドル(当時約3300億円)でGoogleに買収され、2018年にGoogleがDoubleClickブランドを廃止したことで、DFPは「Google Ad Manager」という名前に変わりました。

News Corpのプログラマティック広告部門の元幹部で、記事作成時点でAmazon Web Servicesに勤務しているステファニー・レイザー氏はアメリカ司法省側の証人として証言台に立ち、「パブリッシャーのほとんどがGoogle Ad Managerを使用していますが、その結果、『パブリッシャーのプロフェッショナルがキャリアを通じて使ったことがあるのはGoogle製のツールのみ』という状況が生まれています」と述べました。

さらに、レイザー氏はGoogle Ad Managerを「25〜30年前の技術が使われており、遅くて扱いにくい」と評価。加えて、広告のタイムスタンプや配置場所、入札額や落札額、広告主の情報などを記録したログレベルデータをGoogleが提供せず、Google Ad Managerの制限によって収益を最大化するようなプロジェクトを実施できなかったと証言しています。



特にレイザー氏は、2019年にGoogleが導入した統一価格設定ルール(UPR)についても言及しています。UPR導入以前では、パブリッシャーは異なる広告取引所に対して異なる最低価格を設定でき、GoogleのAdXに対しては他の取引所よりも高い最低価格を設定することが可能でした。

しかし、UPRの導入により、パブリッシャーはすべての広告取引所に対して同じ最低価格を設定しなければならなくなり、AdXに他よりも高い最低価格を設定することができなくなりました。一方で、他の取引所に対しては、それぞれのシステム内で異なる最低価格を設定することは依然として可能だったとのこと。

UPRの導入に強く反対したレイザー氏はGoogleの幹部との会合を設定し、「UPRの導入はGoogleの利益を最優先するものであって、顧客の利益を最優先するものではありません」と訴えたそうですが、結果としてUPRは導入されました。

しかし、Googleが抱える巨大な広告主基盤にリアルタイムの価格でアクセスするためにはGoogle Ad Managerを使わざるを得ず、他のツールに切り替えることは現実的な選択肢ではなかったとレイザー氏は証言しています。

裁判で提出されたNews Corpの資料によると、News Corpは2016年にGoogle Ad Managerを通じて販売された広告で8380万ドル(当時約91億円)の収益を得たと推定されています。これらの取引の半分以上はAdXを通じて行われ、そのうち1840万ドル(約20億円)はGoogleの広告主からのものでした。News Corpはそのうち半分、つまり900万ドル(約10億円)がGoogle独占であり、Google Ad Managerから他のツールに切り替えると失われると見積もっていました。レイザー氏は、自身が退社するまでにNews Corpの広告取引の約70〜80%がAdXを経由していたと証言し、「まるで人質に取られているようでした」とコメントしています。

Google側の弁護士は反対尋問で、News Corpが一部の分野でGoogleと競合していると認識していたことを指摘しました。また、News Corpが他のツールへの切り替えを検討した際の分析で、Googleがメディアビジネスを所有しているため、長期的にはGoogleとの利害が一致しない可能性が高いと考えていたことも示しました。

なお、検察はGoogleがパブリッシャー広告サーバーとGoogle Ad Managerを売却することを要求しており、裁判は数週間つづくと予想されています。レイザー氏以外にも、証人リストにはGoogleの元社員や元幹部、現職を含む20名以上が名を連ねているとのことです。