●ダンプ松本役の肉体改造で涙も「太るのってこんなに大変なんや」

『女芸人No.1決定戦 THE W』と『R-1グランプリ』を制した実力の持ち主で、世界的スターを目指して12月からアメリカに拠点を移すことを発表しているお笑い芸人のゆりやんレトリィバァ。1980年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描くNetflixシリーズ「極悪女王」(9月19日世界独占配信)では、体重を40kg増やして主人公・ダンプ松本を熱演し、ヒロインの葛藤やヒールとしての覚醒を見事に表現した。ゆりやんにインタビューし、人生観にも影響を与えたという本作について話を聞くとともに、渡米後の抱負も語ってもらった。

ゆりやんレトリィバァ 撮影:蔦野裕


女子プロレスの大ファンでレスラーになりたいと憧れを抱いていた普通の少女「松本香」が、いかにして日本中を震撼させる最恐ヒールになったのかを描く本作。日本中から嫌われていたダンプとは対照的に、すさまじい人気を得ていた国民的アイドルレスラー「クラッシュ・ギャルズ」の当時の輝きも再現されており、落ちこぼれとしてスタートしながらスターの階段を駆け上がる長与千種を唐田えりか、同期でも最も運動能力が高く技術に秀でていたライオネス飛鳥を剛力彩芽が演じた。

「世界で活躍する芸人になりたい」との思いで、今年12月に活動拠点をアメリカに移すと宣言しているゆりやんは、本作の企画はもちろん、Netflix作品ということにも魅力を感じオーディション参加を決意。だが当時はダイエットで約45kg減量した直後で、また体重を増やすことに不安を抱き、マネージャーに一度オーディションを受けないと断ったという。

「Netflix、そして白石和彌監督作品の主役なんて、将来アメリカで売れたいと思っている自分にとっては、絶対につかみにいくべきだと思いましたが、自分の体を考えると、もう1回体重を増やして戻すのは健康面で大丈夫なのかなと思って、マネージャーに1回『やめておきます』と言ったんです」

だが改めて考え直し、ずっと減量をサポートしてくれていたトレーナーに「体を大きくするとしたらサポートお願いできますか?」と相談。すると快諾してくれ、「それやったら頑張ろうと心に決めて、覚悟して、マネージャーに『やっぱりやらせてください』と言いました」とオーディション挑戦を決意した。

2020年秋にオーディションに参加して合格をつかむと、2022年7月の撮影開始まで約2年間、肉体改造とプロレス練習に励んだ。

「まずは体作りから始めたんですけど、ただ体を大きくするのではなく、ダンプさんの当時の体に近くしないといけなくて。ダンプさんは前の太ももがすごい筋肉あるからそこを鍛えたり、肩や背中を鍛えたり、トレーナーさんと相談しながら体を作っていきました」



筋トレだけでなく、もちろん食事面でも増量を目指したが、想像以上に大変で苦しい日々だったと明かす。

「太りやすい体質なので増量は簡単だと思っていましたが、実際はとても大変でした。食べても食べても痩せていくような気がして焦りも出てきて。一生懸命お肉とご飯をいっぱい食べて、お腹いっぱいでもう食べられないって涙を流して、太るのってこんなに大変なんやと人生で初めて思いました」

結果的に40kgの増量に成功し、撮影終了後にまた減量に励んだゆりやん。すでに30キロ減量し、これから10キロ減らしてオーディション前の体重に戻す予定だという。

とはいえ、「数字に捉われているわけではない」とのことで、「見た目が自分の好きな体になれればいいので、もともと65kgでしたが、70kgでも筋量があればいいと思っています。でも、数字を見て『体重戻ってないじゃないか』と言ってくる人を黙らせるために、数字は戻そうと思っています(笑)」と自身の考えを述べた。

プロレスシーンもほぼすべて出演者が自ら演じた本作。プロレス練習は、プロレススーパーバイザーの長与千種をはじめ、長与が代表を務める女子プロレス団体・Marvelousのプロレスラーの指導のもとで行われた。

「みんなで毎日集まって、バスで道場まで行って、汗を流して。なかなかできなくて涙を流したり、できるようになって喜んだり、本当に部活みたいな感じでした」

●試合シーンで当時にタイムスリップした感覚に「不思議な体験でした」



長きにわたる肉体改造とプロレス練習を経てクランクイン。衣装もメイクも、そしてセットも見事に80年代が再現され、「私は90年生まれなので80年代の雰囲気は実体験してないですが、当時にタイムスリップしたような気持ちになりました」とゆりやんは振り返る。

ダンプと長与の壮絶な「敗者髪切りデスマッチ」など、観客役として大勢のエキストラも参加した試合シーンは、特に印象に残っているという。

「本当に信じられない時間で、不思議な体験をしました。ベテランの俳優さんも『その時代にダンプさんの試合を見ているようで、こんな体験は初めてです』とおっしゃっていて。それぞれが役になり切っていたというより、全員がその時代に魂だけタイムスリップしたような感覚になって、一体感がすごかったです。ダンプさんも長与さんも『当時のままだ』とおっしゃってくれて、本当に不思議な世界をみんなで体験できてうれしったです」

2022年10月にはゆりやんが演技中に背中と頭を打ち、医者の診断を受けたところ大事をみて2週間の安静の指示を受け、それに伴い撮影が一部延期となった。

この件について、ゆりやんは「ケガについて『動けない状態』という記事が出たこともありましたが、普通に買い物に行っていましたし、大げさに盛られていました」と当時の状況を説明。「安全に配慮してやっていただいていたんですけど、私が受け身をうまくとれなかったというだけで。人の命もケガも容赦ない過酷な現場だと思われるのが悔しくて、そうではなく、熱い現場でしたが安全な現場だったということはお伝えしたいです」と語った。

撮影中断を経て、再集結したキャスト・スタッフが魂を込めて作り上げた本作。当時の熱狂、そして知られざる裏側のドラマを見事に表現した。

「『極悪女王』に出られて本当によかった」と心の底から感じているゆりやん。「もしこの作品に出させてもらってなかったら、私の人生はどうなっていたんだろうと。そんな人生は信じられないというほど、すべての人生観が変わったというか、アップデートされたというか、本当に感謝しかないです」と語る。

人生観がどのように変わったのか尋ねると、「1人ではできないことが、同じ目標に向かって頑張る仲間がいたら頑張れるんだと身をもって感じましたし、お芝居にこんなに長い期間参加させてもらうことがなかったので、俳優の皆さんの役作りやお芝居に対する姿勢を目の当たりにできたことが大きかったです。監督や各セクションのプロの方たちのお仕事を見てモノ作りへの熱量やお互いへの尊敬を感じられたことも大きく、貴重な体験になりました。この作品に関わった皆さんと出会えて感謝しています」と答えた。

日本中を熱狂させたダンプや長与らを知り、その人物を演じられたことにも感謝しているという。

「こんなにも日本を熱狂させた方々のことをちゃんと知ることができたこともうれしかったですし、そんな偉大な方を演じさせてもらい、私が生まれる前に起きていた当時の熱狂を体験できたことも感謝しています。撮影が終わってダンプさんに『ありがとうございました』と連絡したときに『ゆりやんにやってもらって良かったよ』と言っていただけて、本当にうれしかったです。うれしかったことやすごかったことが多すぎて、もしこの作品に出演させてもらっていなかったら、めっちゃ薄っぺらい人生になっていたんじゃないかと思うくらい厚みがすごかったです」

また、ダンプ役を通じて「お芝居のやりがいを非常に感じました」と言い、「自分の殻を破れた」とも語る。

「今まで出したことのなかった感情をさらけ出すことができるようになったのは非常に財産になりましたし、自信になったと思います。ただ、本当に1人ではできなかったことだなと感じていて、撮影はもちろん、体作りやメンタル的なところも、1人だったらくじけてしまうところを皆さんにサポートしてもらってできたので、本当に感謝していますし、人のありがたみをものすごく感じました」

●役者や監督業にも意欲「やりたいこと何でもやってビッグスターに」



自身に大きな影響を与えた本作。9月19日に配信を迎えるが、世界中の人たちに見てもらいたいと期待している。

「世界に配信されるというのがうれしいです。12月にアメリカに拠点を移したら、Netflixの『極悪女王』の画面を見せて『This is me!』と売り込んでいくつもりです(笑)」

12月からアメリカで新生活が始まる。目指すは「世界的な大スター」だ。

「ハリウッドに住んで、素敵な家で朝食を作って、ジムに行って、カフェに行って、そのままオーディションを受けに行ったりして、ハリウッドスターになって売れまくって、アカデミー賞も受賞して、テレビにも映画にもコマーシャルにも出て、セレブになりたいと思っています(笑)」

映画監督デビューも発表されているゆりやん。テレビ番組で「映画監督になりたい」と発言したら、それを見ていたK2 Picturesの高橋大典プロデューサーから声がかかったという。

「極悪女王」で白石和彌監督らの姿を目の当たりにし、「私はなんと軽々しく『映画監督をやりたい』と言ったんだろう」と反省するも、目指す監督像も見えてきたと語る。

「白石監督も茂木(克仁)監督も現場でおっしゃることがとても面白くて、しかも笑いながら言ってくれるので楽しくて、監督に喜んでもらいたいという気持ちがすごく強くなりました。なので私も俳優さんが笑ってくれるような演出ができるような監督になれたら。恐れ多いですけど、白石監督や茂木監督の背中を追いかけていきたいです」

お笑い、役者、監督と幅広い活躍が期待されるが、特にどの分野においてスターになりたいのか尋ねると、「すべて団子にして、やりたいこと何でもやっちゃって、ゆりやんレトリィバァとしてビッグスターになりたいです」と笑顔全開でコメント。「『極悪女王』を経験し、エンターテインメントに対する情熱は間違いなく、強く、分厚くなりました」と目を輝かせていた。

■ゆりやんレトリィバァ

1990年11月1日生まれ、奈良県出身。関西大学4年生のときに、NSC(吉本総合芸能学院)大阪校の35期生として入学し、首席で卒業。2017年に「第47回NHK上方漫才コンテスト」で女性ピン芸人初の優勝を果たし、同年、第1回『女芸人No.1決定戦 THE W』でも優勝。2019年にはアメリカのオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出場し、米国旗柄の水着を着て手首を回すダンスで世界から注目される。『R-1グランプリ2021』では初優勝。2023年にはラッパーとしてもデビュー。お笑いの活動のみならず、マルチに活躍している。

ヘアメイク:星野加奈子 スタイリスト:伊藤ミカ ジャケット、パンツ/ともにアレキサンダーワン ピアス、ネックレス、ゴールドリング/以上全てアンダー ザ ローズ ブーツ/ALM. その他/スタイリスト私物