10月末閉館のumeda TRADで四星球・セクマシ・ボイガルが最後の大激突ーーABCテレビ主催イベント『ええハコええオトいらっしゃーい!! 』レポート
『ええハコええオトいらっしゃーい!! ~バイバイTRAD編~』2024.8.4(SUN)大阪・umeda TRAD
ABCテレビ主催のイベント『ええハコええオトいらっしゃーい!! ~バイバイTRAD編~』が、8月4日(日)に大阪・umeda TRADにて開催された。『ええハコええオトいらっしゃーい!!』は初開催のイベントであるが、10月末でumeda TRADが閉館されるため、「~バイバイTRAD編~」と副題が付けられている。四星球、セックスマシーン!!(以下、セクマシ)、THE BOYS&GIRLS(以下、ボイガル)という長い付き合いがある3組による対バンとなった。
MCのABCテレビ 武田和歌子アナウンサー、鈴木淳史氏(ライター、ラジオパーソナリティ)
THE BOYS&GIRLS
ABCテレビ 武田和歌子アナウンサーらによる前説の後、トップバッターのボイガルが登場。初っ端からボーカルのワタナベシンゴは、イベント名を「耳馴染の無い言葉!」と言い切り、「いいハコいいオト!」と言い換えたり、北海道から来たことを強調する。武田アナが司会でTRADにて収録された事前盛り上げ番組に、徳島在住の四星球や神戸在住のセクマシという西日本在住の2組は出演するも、自分だけがリモート出演だったことを根に持っているというのも真っ直ぐな感情表現で清々しかった。とにかく頭から喋りまくり、凄い勢いで1曲目「よーいドン」に突入。
TRADに対しても「愛と憎しみを込めて!」や「北海道のバンドが土足でズカズカやって来た!」と真っ直ぐに感情をぶつける。いや真っ直ぐというか捻くれてるというか、そんなにトゲトゲしくなくても、みんなボイガルを愛しているよとは思うのだが、「ライク・ア・ローリングソング」の如く、めちゃくちゃ転がりながら、やれるだけやる&残すだけ残すの精神で真正面からぶちかましにきていることは、嫌ってほど伝わってくる。3組の中で一番年下でもあるし、トップバッターということもあり、死ぬ気で爪痕を残しに来ている。
TRADには1年に1回の片手で数えられるくらいしか来ていなく、良い想い出がないと言い放つ。半分本気半分冗談と言いながらも、「“音を楽しむ”と書いて音楽だが、ここ(TRAD)に来る時は楽でも楽しくも無くて、苦しかった」と吐露する。四星球とセクマシに初めて逢った時の話もしながら、「四星球とセクマシに楯突く人がいないんです! 俺しかいないんです!」と訴える。「今日喋りたいことを曲にしてなかったから喋ります!」と潔く喋りつづける。そんなに喋るかというくらいに喋り続けて、「先輩をぶん殴るつもりで!」と強気にかます。でも最後には、四星球とセクマシ、この日も運営で入っている関西の名物イベンターである清水音泉、TRAD青木店長たちに感謝を述べる。憎まれ口を叩きながらも、それは好きな相手だからであり、しっかり締めるところは締めるから、みんなから可愛がられるのだろう。
「パレードは続く」では、曲の途中に「この会場にこんなにお客さんが入っているのを初めて観ました!」と言って、少し間が置かれながら顔をぬぐうワタナベ。汗をぬぐっているのか、涙をぬぐっているのか、どちらかはわからなかったし、ライブ後に本人に聴いたら「汗です!」と断言していたが、私には涙をぬぐっていたように見えたし、この場面では周りで泣いている人もいた。
ラストナンバー「最初で最後のアデュー」では、観客フロアに下りて、清水音泉制作のバンド名が入ったのぼりを観客に持たせたり、他の観客たちも可能な限り舞台に上がらせたりと、やれる限り暴れまくっていた。憎めない可愛らしい悪童だなと改めて思っていたら、最後に「ふたつのバンドに悪態ついてスミマセンでした。本当は、そんなことは思ってません。みんな大好きです」と〆る。それはズルいよと思いながらも、そこが魅力的であり、とにかく大爆発させて、素晴らしく掻き乱しに来たトップバッターであった。
セックスマシーン!!
セカンドバッターは、セックスマシーン!!。モーリーこと森田剛史もボイガルから刺激を受けまくったのか、いつも以上に初っ端から異様にかかりまくっているのがわかる。「俺の言いたいことの行間は、みんなで補って下さい!」という謎の投げっぱなし感もモーリーならではであるし、1曲目「サルでもわかるラブソング」を楽しそうにジャンプしながら歌う。「ボーカルに必要なのはヤケクソさなんだよ!」と言うなど、かかりきっているとはいえ、キャリアが長いバンドではあるので、冷静であるし、威風堂々感もある。観客をゲストボーカルと捉えて、その場にいる全員でライブしていくセクマシだが、この場所に来たのが久しぶりだからと「久しぶり!」に繋げたりとライブ運びが滅法に上手い。
「お盆に先祖が来るぜ!」と言って、新曲「先祖にラブソングを」へ。愉快な歌詞ながら、讃歌であり、アンセムであり、ゴスペルであり、だからこそ響きまくるし、何だか楽しくて聴いているだけで笑ってしまう。ボイガルに対しても「怒っている奴がいたじゃん! でも先輩とか後輩とかじゃなくて同輩! そういうのを歌にしてみました!」と、これまた新曲「微差誤差僅差」へ。喋りの途中に曲を挟むという驚くべき逆転発想でライブを進めながら、「あれ変な声しない?!」という素敵な小芝居から、これまた新曲「祟りじゃ」へ。物騒なタイトルなのにリズミカルなナンバーであり、モーリーも「なんちゅう曲だ! でも、こういう遊べるところが好きなんです! ライブハウスって言うんですけど!」と嬉しそうに話す。
勢いで飛ばしまくりながらも、一転して「何にもない日々」では情感たっぷりに歌う。モーリーが弾く鍵盤サウンドもたまらないし、何よりもグッドメロディー。誠にポップなミディアムバラッドであるし、UKロック×J-POPというスケールのデカいナンバー。CDを売る為や、どこそこでワンマンライブをやる宣伝目的では無く、ただただTRADでライブをやりたいから来たというシンプルな目的……。まさにライブハウスバンド。そんな想いは<目的地なんて目的じゃなかった>と歌われる、続く「この先で落ち合おうぜ」でも見事に表現されていた。
「君を失ってWow」では、お馴染みの長い長いマイクケーブルで気付くと観客フロアの一番後ろにいるモーリー。観客全員を後ろに向かせて、まるで大統領演説の様に訴えかける……。最後はモーリーも後ろを向いて、PA卓を覗き込みながら歌う。観客全員をゲストボーカルとして引き連れて歌う総力の凄み。ラストナンバー「あそび足りない」は、まさに今この場にふさわしい歌。ピンスポが当たる舞台上のモーリーは格好良すぎた。
「叫んでた俺たち! 叫んでくれたあんたたち! 全部まとめてセックスマシーン!!」
圧倒的な存在感を魅せつけたセカンドバッター。そしてラストバッターの四星球へと続く。
四星球
北島康雄は落ち着き払って登場して、「シンゴ君は、とりあえず最後に「大好きです」と言えば許されると思ってますね!」とひとこと。あれだけトップバッターが掻き乱しに来て、セカンドバッターが焚きつけに来ても、全く意に介さず自分たちのペースで進めていく。商品名が出まくりの小道具で遊んでいくが、康雄は「ABC朝日放送主催だったら、テレビカメラが入るはずなのにテレビカメラ入ってません! そりゃ入らないですよね!」と笑う。映像には残らないが、この場に来た人の心にだけ残るのが生のライブの良さ。それを見事に康雄は言い表していたと思う。
長年お世話になったライブハウスであれば思い出の曲をやりたいはずなのに、新曲「ロックンロールケーキ」を序盤からぶつけてきたのも良かった。ポップでキャッチーなロックンロールナンバーながら、終盤で荒れ狂う感じもロックンロールバンドならではでグッとくる。そこから「ふざけてナイト」へとなだれ込むが、どこかで冷静さは忘れていないし、「テレビカメラ入っていないし、無くなっちゃうライブハウスなので、次の1曲だけ撮ってください!」と「リンネリンネ」へ。エモーショナルなストーリーを築き上げていくという意味では流石であった。
「たくさんのバンドがTRADの閉館に間に合わなかったと思っている。調子に乗っているわけじゃないけど、そのバンドの分も歌います!」そう力強く言ったと思いきや、こんな気持ちも素直に打ち明ける。
「10月31日の面子を観て悔しかったです。素晴らしい先輩たちで嫉妬しました……。もし、その日を超えられるとしたら今日やと想っています!」
10月31日(木)のTRAD閉館最終公演がSCOOBIE DO、バンドTOMOVSKY、フラワーカンパニーズであることへの素直すぎる悔しい嫉妬を恥ずかしげもなく明かすから、このバンドは常に成長し続けるのだと思えた。また、事前盛り上げ番組で、司会の武田アナから「TRADに人格があるとしたら何と声をかけますか?」という頭が愉快な質問をされたことにも触れて、ここにきて「僕はTRADを笑わせたい!」と質問へのアンサーも。この一連のやり取り全ては「クラーク博士と僕」の曲中で起きているし、いつの間にやらシンゴは舞台に上がって、ギターのまさやんからギターを奪い取りギターを弾いている。こんな入り乱れる様こそがTHEライブハウス。
「人格がある歌を歌います!」から「薬草」へ。「クラーク博士と僕」からの流れは一気にギアが入った感じで、敢えて序盤から落ち着き払って進めていたフリが見事に決まっていた。
「残り2曲はちょっとしっとりした感傷的なので終わります」
そんな言葉通り、まずは新曲「カーネーション」を歌ったが、終盤の畳みかけで、しっとりした新曲を歌うのは、従来のセットリストと比べると珍しいことである。だが康雄の言葉を借りるならば、「(週末に)フェスを選ばず、TRADに来てくれた」からこそのセットリストなのだろう。夏のフェスシーズンの敢えてライブハウスを選んでくれた観客に、特別なセットリストを楽しんで欲しいという誠実真摯な心構え。これぞライブハウスバンドの鏡である。
<50になっても自由にこの歌を歌っていたいな>
ラストナンバー「豪華客船ドロ船号」では、こう歌われている。この曲には四星球がTRADで届けたい全てが詰まっていた。
アンコールは康雄に似ているヒーロー“ちょんまげマン”が登場して、ABCのキャラクター“エビシー”を持って大暴れ! ライブハウスでしか観られない暴れっぷりは、めちゃくちゃ痛快すぎた。最後はセクマシとボイガルを呼び込み、ライブハウスを讃える歌「ライブハウス音頭」へ。<ええとこ ええとこよ>と繰り返し歌われる歌は『ええハコええオトいらっしゃーい!!』というイベントにもピッタリすぎた。そして、青木店長も呼び込み、出演者全員で胴上げ。
テレビ局という大きなメディアが地元のライブハウスとガッツリ組むというのは、素晴らしく理想的なメディアミックスなので心から大興奮できた。まさに『ええハコええオトいらっしゃーい!!』。まだまだ始まったばかりのイベントであるが、ずっと永遠に続けてほしい。何故ならば、ライブハウスはええとこなので。
取材・文=鈴木淳史 撮影=オイケカオリ