人間関係や職場環境の変化などによるストレス。つらい気持ちをためこんでしまうと、自分の本来のよさを出せなくなってしまいます。ここでは、女性たちのさまざまな悩みに向き合ってきた産婦人科医・高尾美穂先生に、大人世代の仕事のモヤモヤを手放すヒントを教えてもらいました。

人からいいように使われている気がしてモヤモヤ…

お悩み「仕事や子どもの習い事で頼まれごとが多く、いいように使われている気がしてモヤモヤしています。頼まれにくい雰囲気を出したい訳ではないのですが、なにに気をつけたらいい?」

●本当に自分がしたいことなのか問いかけ、納得した状態で取り組む

この方は、人当たりがよく声をかけやすい方だと思うんです。そして器用でだいたいのことをそれなりのクオリティで終わらせることができるので信頼されているのだと思います。だからもし、頼まれごとでモヤモヤしてしまったときには、それが「本当に自分のしたいことなのか」という問いを、一度自分に投げかけてみるのが大事だと思います。

たとえば、自分がこれから取り組んでいきたい分野であればありがたくお引き受けするのがいいと思いますが、今まで何度もやってきた仕事でそれほど乗り気ではないのであれば、お断りしてもよいでしょう。

私自身の場合は、ご依頼があった際に「私じゃなくてもいいお仕事」なのか、「絶対私がした方がいいお仕事」なのかを考えるようにしています。産婦人科の領域をプラスちょっとはみ出しているようなご依頼の場合は、私が引き受けた方がいいと思いますし、一方で更年期や生理に関することなど、今まで繰り返しお伝えしてきたことは私じゃないほかの産婦人科の先生でもいいのかもしれません。いずれにしても、「自分がしたいことなのか」という自分への問いかけは、いつでもした方がいいと思っています。もし引き受けるのであれば、自分なりに納得した状態で取り組む方が、よい結果を生むでしょうから。

そのためにも、普段から自分が仕事でしていきたいことはなにか、社会においてしていきたいことはなにかを、頭の中でシミュレーションしておくとよいですね。

更年期の不調と仕事の両立が難しい

お悩み「更年期の不調から集中力や判断力が落ち、仕事が滞りがち。更年期障害であることを独身の若い男性上司に相談できずにいます。現在管理職から降格を申し出るか悩んでいます」

●仕事を部下に振る、上司と話すなど、できることから行動を

更年期に調子がよくないのであれば、優先順位を考えて働き方を変える必要があります。この方の場合にできることをいくつか考えてみましょう。

たとえば、自分の仕事量を減らすために、悩まずにとにかく部下に仕事を振り分けるというのはいかがでしょうか。仕事量を減らすことで、心と体に余裕が生まれるかもしれません。

そしてもう1つできることは、上司に相談することです。更年期の症状を話したところで、理解してもらえるかと不安もあるでしょう。でも今の状況を変えるためには、上司にアプローチすることは重要です。

上司が若い男性で結婚もしていない場合、更年期のことを知る機会は、企業研修くらいしかないだろうと思われます。しかし、もしかしたら上司も母親の更年期が重くて、部下である女性の健康問題にちゃんと向き合わなきゃ、と思っておられるかもしれません。上司がどう考えているかは、話してみないとわかりませんよね。もし自分が更年期であることを伝えるのをためらっているのなら、「体調がよくない」と相談してはいかがでしょうか。

更年期に仕事を変え、働き方を調整して仕事以外の楽しみにも向き合えているという方もいらっしゃいます。私はかなりの仕事人間ですから、上司に相談しないまま降格を選んだり、今の仕事を辞めたりするのはもったいないという気持ちが強いです。と同時に、ハードな仕事を辞めてほどほどの仕事につき、自分のしたかったことをして前向きに人生を送ることができるなら、それもよいかもしれないとも考えます。生活の中の優先順位を再度確認してみるのも、1つの選択肢です。

仕事が忙しく、すべて投げ出したい気持ちになってしまう

お悩み「私は公務員で、上司と2人だけの出先機関に異動したばかり。残業や休日出勤が続き、家は荒れ放題です。心おきなく話せる人が近くにおらず、情緒不安定で泣けてしまうことも。すべてを投げ出したい気持ちでいっぱいです」

●忙しいときこそおしゃべりが必要。職場の外に話し相手を

近くに心おきなく話せる人がいないという状況は、ストレスを手放す方法がない状況とも言えます。

ストレス解消の方法としては、まず、昼間によく体を動かして夜よく寝ましょうとお伝えしていますが、もう1つ大切なのが、まさに「心おきなく話せる人とおしゃべりすること」です。このおしゃべりがどれだけストレス発散になっているか、実感していらっしゃる方も多いのではないかと思います。

赤ちゃんとお母さんのスキンシップに代表されるような肌と肌のふれ合いにより、オキシトシンというホルモンが分泌されますが、友達とのおしゃべりでも分泌されることがわかっています。

オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれるもので、心の安定や幸福感をもたらしてくれるホルモンです。上司と2人の職場で近くにお話し相手がいらっしゃらないとのことですが、職場以外でおしゃべりできる場があるとよいですね。仕事のことやグチだけではなく、子どもやパートナーのこと、たわいもないことなどのおしゃべりが、じつはストレスを手放すための助けになっているのです。

異動したばかりで今は慣れない新しい職場でも、だんだんと慣れてくるもの。リズムをつかめれば生活も落ち着き、いずれは穏やかな気持ちで過ごせるようになるでしょう。そんな頃には、気がつけばおしゃべりできる人が近くにいたりするものです。