自分の気持ちや出来事を、電話よりもメールやLINE、SNSで文字にして伝えることが多い時代。仕事やプライベートで書く機会が圧倒的に増えているからこそ、文章をうまく書きたい。ライター歴25年でライティングゼミを主宰している佐藤友美さん(以下さとゆみさん)に「文章が上達するコツ」を3つ聞きました。過日行った「ESSEonline読者限定・文章が上達するセミナー」から紹介します。この記事を読むだけで、文章力がアップすること間違いなし。

 

「日本語だから伝わる」という思い込みは捨てる

新聞や雑誌、WEBやメール、広告など、日々目に飛び込んでくる文章は無数にあります。そんななかでも、『書く仕事がしたい』『本を出したい』(ともにCCCメディアハウス刊)の著者であるさとゆみさんが考える、読みたくなる「いい文章」の条件とは?

「まず“わかりやすい文”であること。そして、“人を動かす力がある文”です。つまり、最後までするすると読めて、読後、読み手の心が動く文章。これは仕事として文章を書くライターに限られたものではありません。ビジネスや友人間でやりとりするメールやLINEでも、あるいは不特定多数に向けて書くSNSやブログでも、すべての文章に同じことが言えると思います」

「文章は日本語で書けば伝わる」と思ったら大間違い。時系列でつらつらと事実関係を述べるだけの無味乾燥な文章は、おもしろくないばかりか読んだそばから忘れられてしまいます。

自分のメッセージを第三者に伝え、できることなら共感してもらい、思いを分かち合いたい。そんな心に刺さる文章を書くには、日本語をより伝わりやすい日本語に変換する翻訳のような作業が必要なのです。

「今、AIで安易に文章を作成できる時代になりました。そんな時代において人が書く意義とは? 伝えられないことは一体なにか? そこに文章上達のヒントがあるのです」

人を巻き込める文章は「犯人しか知らない言葉」だけ

AIが重宝されている一方で人の手を加えた解像度の高い文章は、AIには超えられない価値あるものとして、あらゆる場所で求められているのだとか。では、AIにも超えられない、共感力を持つ解像度の高い文章を書くには、具体的にどうしたらいいでしょう?

その方法のひとつが「生」の言葉を使うこと。これこそが、さとゆみさんが今回教えくれた「犯人しか知らない言葉」を使うテクニックです。

これは、事件現場の状況や心情を犯人だけが克明に語れるように、現場にいた書き手だけが知り得ることを文章に織り込む技術のこと。それにより文章にリアルなインパクトを与え、読み手と共感を分かち合うことができるのです。

コツはいくつもありますが、覚えておきたのは主に以下の3つです。

心に残る文章を書くコツ1:数字を使う

あなたが好きな感動的な映画を、自分以外の人におすすめするとき、どう伝えますか?

・「映画よかったよー。感動できるからぜひ、観て! 観て!」
…これでも間違いではありません。では、このように伝えたらどうでしょう?

・「この映画は、私が人生で一番感動したドキュメンタリー。1週間で3回も観ちゃったほど!」
…どうですか? 短期間に繰り返し観たくなる映画ってどんな内容か気になりますよね。

これこそが「犯人しか知らない言葉」です。数字を使うことでネタバレしなくても「すごい映画」であることが伝わってきて、興味がそそられます。

ちなみにさとゆみさんは「飽きっぽい性格」であることを説明するために「先日、大掃除をしたら家にNHKラジオ英会話の4月号だけが8年分ありました」と言っているそうです。「飽きる」というワードを直接使わなくても、状況から飽き性なのが十分伝わってきますよね。

心に残る文章を書くコツ2:五感を使って得た情報を伝える

次に、五感をフルに使って表現をしてみましょう。目で見た情報(視覚)だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚を織り込むと臨場感がアップし、読者は書き手と一緒に体感したような気持ちになります。

では、ここで問題。会社に盛況だったイベントの報告をするとき、あなたはどう伝えますか?

・「イベントは、すごく盛り上がって大盛況でした!」
…これでも間違いではありません。では、このように伝えたらどうでしょう?

・「質疑応答の時間、20人ぐらいの手がサッと挙がったんですよ。しかも一斉に!」
・「どっかんどっかん笑いが起こって、会議室が揺れたように感じました」
…情景が目に浮かびますよね? そのとき五感で感じた音を、表現することで臨場感がある文章になります。

心に残る文章を書くコツ3:「オンリー」という言葉を効果的に使う

そして、「たったひとつ」、「唯一」の経験を加えると特別感が増します。「最後/最初」といった最上級の言葉を入れるのも効果的です。
たとえば、こんな表現です。

・「読書が苦手な私が、生まれて初めて最後まで読めた本です」
…読みやすそう。本が苦手な私でも読んでみようかな? と思いませんか?

・「これは、普段なにを食べても反応しない夫が唯一、『これ、どこのふりかけ?』と聞いてきたふりかけです」
…どうです? このふりかけ、どんな味か気になり、食べてみたくなりますよね。

ちなみに「オンリー」を使うときは、ほかのものを貶める必要はありません。たとえば「私、K-POPは超苦手なんだけど、このグループの曲は聴けるんだよね」という具合です。K-POPファンの人が読んだら、ちょっとがっかりしてしまうかもしれません。不特定多数人が目にするSNSのような場で書くときには、とくに注意しましょう。

いい文章は、人の心を動かす

「書くことのゴールは、自分以外のだれかの態度や考えを変えること。読んだ人の心を動かすこと。だれかを変えることが、文章を書くことのゴールです。文章が書けるとSNSで集客ができるし、仕事でも信頼されます」とさとゆみさん。

なお、今回紹介した3つのコツのほかにも人の気持ちを動かす文章を書くには、「気持ちを書くのではなく、どんなことがあったか事実を書く」、「実行した結果を伝える」、「初対面の人から話を引き出すには『徹子で触って、タモリで脱がせる作戦』がいい」などいくつもあるそう。すぐにまねできそうなものから取り入れてみてください。