「遊べる本屋」として一時代を築くも、右肩下がりが続くヴィレヴァン。魅力を失ってしまった本質的な要因とは?(写真:ヴィレ全さん提供)

直近決算で大赤字のヴィレヴァン

先日発表された2024年5月期の決算において、かなり「マズい」結果を出してしまったヴィレッジヴァンガード。筆者は以前、そんなヴィレヴァンについて、凋落の理由を考察してきた。


チチカカ売却後も、業績は右肩下がり(編集部作成)

しかし、まだ全国には、そんなヴィレヴァンを愛し復活してほしいと願う人々がいる。Xで活動する、「ヴィレヴァン全店まわるひと」(ヴィレ全)さんも、そんな一人だ。そのアカウント名通り、日本全国にあるヴィレッジヴァンガードを一軒ずつめぐりながら、各店の様子をXで発信し続けている。


(出所:ヴィレ全さんのX

「ヴィレヴァンらしさ」の世代間共有の失敗や、人材教育の失敗についてお伝えした前編ーヴィレヴァン300店巡って見えた「人材育成の失敗」 POPを書けない、サブカルに疎い店員増加の背景ーに続き、後編では、ヴィレヴァンの出店戦略についてお話を伺いながら、リアルなヴィレヴァンの姿に迫っていく。

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もともとヴィレヴァンは、各店舗の店長や店員に商品の仕入れや売り方を任せる、いわゆる「権限委譲」を行う企業だった。だからこそ、その店の独自性が担保され、エッジの効いた世界観にもつながっていた。


どこの店舗でも売れ残っているという、かき氷機(写真:ヴィレ全さん提供)

しかし、2012年に「POSシステム」を導入したことで変化が生まれる。

ヴィレヴァンのPOS導入について調べると、「商品の売れ行きを見て、品揃えを反映して、より儲かるようになった」とする記事もあれば、「POSの導入が品揃えをつまらなくした」とする記事もあり、見解はさまざまだ。

しかし、日本全国さまざまなヴィレヴァンを見てきたヴィレ全さんによると、疑問に思うことも少なくないようだ。

「どの店舗に行っても、かき氷機が売れ残ってるんですよ。それで聞いてみたら、『これは商品本部が送ってきたものだ』と。一番売れそうな、沖縄県の店舗でも売れ残っていたので、需要のない商品なんでしょうね。


流しそうめん機も、多くの店舗で売れ残っているという。商品の在庫は資金繰りを悪化させる要因になるが…(写真:ヴィレ全さん提供)

他にも『沖縄に冬物のアパレル商品が送られてくる』とか『湿気の多い日本海側の店舗に加湿器が送られてくる』などの話も聞きました」(ヴィレ全さん)

地域柄、売れるわけがないものまで統一で送られてきて、ほこりをかぶってしまうということも多いということらしい。

「最近ではまた権限委譲が戻りつつあるらしいんですが、コロナ禍で仕入れがいったんストップしたのを機に、商品本部が送る商品を各店で売る、という時期もあったようです。結果、大量に残ったのが、『オタク』カルチャーのグッズや、YouTuberなどのグッズだったようです。

そういった話を聞いてると、『本部と現場の足並みが揃っていないな』と感じますよね。1週間前に、『来週セールをやる』と言われて、現場が混乱することも少なくないようです」(ヴィレ全さん)

実は利益追求集団(?)なヴィレッジヴァンガード

しかし、ヴィレヴァンといえば「カルチャー」を売りにしている企業で、利益追求については、そこまでこだわりがないようにも映る。「来週セールをやる」という言葉はあまり似合わないような……ここ最近で企業風土が変わったのか?

「そんなことはありません。創業者の菊地さんの存在が強く、『趣味の店』のように思われていますが、ヴィレヴァンはそもそも利益追求集団なんです。そこには巧みな販売手法があって、それで店はうまく回っていました」(ヴィレ全さん)

前回のインタビューでも紹介したように、ヴィレヴァンでは、本を入り口にして、それに関係する商品などを購入させることで利益率を確保する、いわゆる「粗利ミックス」のやり方で利益を上げていた。

誤解がないように言うが、筆者は利益追求を批判しているわけではない。書籍のように利益率の低い商品を扱うには、むしろ適正な利益追求は必要だろう。

だが、利益追求が、働く人に負担をかけることもあったようだ。

「今ではそんなことはありえないのですが、聞いた話だと、かつてイオンモールの店舗だと、イオンモールの中なのに、22〜23時を過ぎても働いていたり、ひどい場合だと朝まで仕事をしている店長が床に寝て、開店まで仮眠して……、なんてこともあったようです」(ヴィレ全さん)

いわゆる「モーレツ」な働き方をしていたのだ。一般に持たれる「サブカル系で、良い意味で浮世離れしている」ヴィレヴァンのイメージとは、少し異なっている。


(写真:ヴィレ全さん提供)

増えすぎた店舗が「ヴィレヴァンらしさ」を失わせた?

こうした利益追求の延長線上に、一時期の強気の出店姿勢があったと、ヴィレ全さんは見ている。

「どんな田舎でも、そこにイオンモールがあれば、以前のヴィレヴァンは出店していました。

お店が増えすぎて、特別感が薄れてしまったのは事実だと思います。2000年代で100店舗ほどだったのが、その後急激に増えて400店舗になり、今ではそれが100店舗ほど潰れて300店舗程度になっています」(ヴィレ全さん)

こうした急激な店舗拡大は、ヴィレヴァンの持っていた「サブカルの空間」としての特権性を失わせてしまったのではないか。筆者は過去の記事で「ヴィレヴァンが知らぬ間にマズいことになってた 『遊べる本屋』はなぜ魅力を失ってしまったのか」でそう指摘しているが、この点についてはヴィレ全さんは異なる見解を持っているという。

「私はむしろ逆で、ヴィレヴァンが『サブカル』の地位を押し上げたのが原因なのではないかと思っています。サブカルを全国に広めることによって、メインストリーム化し、普通のものになっていった。

もともと、消費者はヴィレヴァンに対して『未知のもの』を求めていたと思うんですよね、それがなくなってしまったのが、今の苦境を生んでいるのではないでしょうか」(ヴィレ全さん)

ヴィレ全さんが高校生の頃、ヴィレヴァンで衝撃を受けたのは、「廃墟探索」というジャンルがこの世界にあることだったという。

「高校生ぐらいの頃、ネット発信ではやったんですけど、ホテルや遊園地の廃墟に無断で侵入してそれを2ちゃんねるにアップする、みたいなアングラ文化だったんです。それをヴィレヴァンが扱ったことで、いまや廃墟探索はすっかりオーバーグラウンド化しました」(ヴィレ全さん)

ヴィレヴァンが提供していた「未知のもの」が、だんだんとなくなっていった。ネットの普及などの外部要因ももちろんあるが、ヴィレヴァン自身が推し進めた「イオン出店」は、そのような側面も生み出したのかもしれない。


(写真:ヴィレ全さん提供)

サブカルの図書館」という強みを生かす

ただし、ヴィレ全さんは、イオン出店、ひいては郊外・地方にヴィレヴァンが広がることを肯定的に捉える。


岡崎店のアメリカンな店内(写真:ヴィレ全さん提供)

「僕は、地方にあるヴィレヴァンは守るべきじゃないかと思っているんです。極端ですけど、国がお金を出してでも。地元の雇用の問題もありますが、何よりサブカルチャー文化の“図書館”的な存在としてあるべきじゃないかと思うんです。

僕は、滋賀県の田舎のほうに生まれて、ヴィレヴァンでサブカルというものを知りました。ヴィレヴァンに育てられてきたともいえます」(ヴィレ全さん)

こうした意味で、「地方展開」にこそ、ヴィレヴァンの一つの企業としての価値があるのではないかと言う。

実際、都心での展開はやめて、地方に注力する、という舵の切り方は、企業のストーリーとしてはラディカルで面白いかもしれない。無印良品を展開する「良品計画」なども、最近は地方への出店を加速させているし、都心にこだわるよりも筋がいいように感じる。

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「ヴィレヴァンが、今の店舗数を維持していくのは厳しいんじゃないかと思います。この間、新宿のルミネエストの中にある店舗に行ったんですが、そこはこれからなくなるんです。都心は地価も高騰しているし、厳しいところが出てくるんじゃないか。だからこそ、地方に出店を絞るのもありかもしれないですよね」(ヴィレ全さん)

地方に「サブカル」を伝えてきた役目を、残すべきではないか。そのために、大胆な出店戦略の方針転換をしてもいいのではないか、というのがヴィレ全さんが考えていることだ。

「でも、ヴィレヴァンは先ほども言ったように、基本的には利益追求集団。本部は、基本的に『自分たちがカルチャーを守っている』という意識はなさそうですし、今のヴィレヴァンは田舎の店舗ほど、品揃えも普通なんですよね」(ヴィレ全さん)

ヴィレヴァンを全店巡り、語るのは「店員さんへの恩返し」

ヴィレ全さんの口からは、現在のヴィレヴァンへの率直な感想の数々が出てくる。

しかし、にもかかわらず、ヴィレ全さんが、ヴィレヴァンを巡り続けるのはなぜか。そこには、「ヴィレヴァンへの恩返し」という意味があるという。

「なぜ僕がヴィレヴァンを全店巡っているかというと、恩返しなんですよね。小さい頃からヴィレヴァンにはお世話になっていた。僕のアイデンティティの形成にすごく関わっていると思っていて。ヴィレヴァンという企業というより、あの店とそれを支える店員さんが好きで、彼らに対して恩返ししたかった」(ヴィレ全さん)


(写真:ヴィレ全さん提供)

事実、ヴィレヴァン全店を巡る中でわかったのは、それぞれの店舗の店員さんの奮闘だった。

「イオンタウン宮古南店には、他では見られないようなPOPがあります。売っているほとんどの本に、そこそこ大きめのサイズでその紹介が書いてあるんです。これには驚きました。本を読む手間だけでも大変だと思うのですが、それをうまく要約してお客さんが手に取りやすくする工夫をしていて、感激しました」(ヴィレ全さん)


秀逸なPOPも、まだまだたくさんある(写真:ヴィレ全さん提供)

他にも、ヴィレヴァンの強みの一つである権限委譲が進んでいる店舗もある。

「三重県にあるイオンモール津南店は、とにかく段ボールで作られたイラストポップの量がすごいんです。ここには名物店員である『ゆめちゃん』という店員さんがいます。彼女は、YouTuberのまあたそという人が好きで、自分でまあたそコーナーを作ってしまったんです。テレビにも呼ばれたり、ヴィレヴァンの公式TikTokにも登場したりしています」(ヴィレ全さん)

このように、全体としては「マズい」ことになっていても、それぞれの店舗・店員さんは個性があったり、それぞれヴィレヴァンらしさを演出しようとしたりしているのだ。

「現場の店員さんたちは、本当に頑張っていると思います。バイト店長から店長になろうと奮闘したり、本のPOPを必死で書いたり……。自分のアカウントも、ヴィレヴァンの他の店舗がどういうことをしているのか、そのデータベースみたいに使ってほしいなと思ってるんですよね。本当は勤務時間中に見てほしいんです。なかなかその時間はないかもしれませんが……本部には、現場の頑張りを見てほしいと思います。知らず知らずのうちに、地方にも文化を届ける役割を果たしている」(ヴィレ全さん)


(写真:ヴィレ全さん提供)

ヴィレヴァンへの「恩返し」は成功するのか

「繰り返しになりますが、現場の店員さんは本当に頑張っています。ただ、最低賃金で重労働、長く働くことができずに、辞めていった人が多いのもまた事実なんです」


ヴィレ全さんが述べるのは、とても辛辣に見えるヴィレヴァンに対する評価。しかし、それもこれも、ヴィレ全さんがヴィレヴァンに育てられてきて、その「恩返し」をしたいと切に願っているからこそ。

実は、ヴィレヴァンの株主でもあるというヴィレ全さん。8月末の株主総会では、今回のインタビューで話したような疑問を、率直に幹部にぶつけるつもりだという。

ヴィレヴァンは、この「恩返し」を受け止めることができるのだろうか。

前編記事はこちら:ヴィレヴァン300店巡って見えた「人材育成の失敗」 POPを書けない、サブカルに疎い店員増加の背景

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)