恐怖を感じる脳の「扁桃体」が普通の人よりも小さい…サイコパスが「出世しやすく政治家に多い」理由
※本稿は、内藤誼人『面白すぎて時間を忘れるサイコパスの謎』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■サイコパスの方が優れた政治家になれる可能性
サイコパスが持つ特性は、決してネガティブな面ばかりではありません。人類にとってサイコパスの存在が不利益しかないのであれば、そういう特性は、進化の途中ではるか昔に淘汰されていたはずです。
淘汰されずにいまだに残されているということは、サイコパスであることにも何らかのよい面があるはずでしょう。
本稿では、サイコパスであることのメリットについてお話ししていきます。
サイコパスは、思いやりに欠けて自己中心的で、自分の衝動を抑制できず、恐怖を感じにくい、といった特性があるわけですが、ある種の職業においてはそういう特性を持っているほうが望ましいことがあります。
たとえば、政治家。
他人の顔色をうかがってばかりいたら、自分のやりたい政策を実行できません。断固とした態度で政策を実行するにあたっては、他人の気持ちなどをいちいち配慮しないほうがよいこともあるのです。
いくら反対派に意見されても自分の信念や主張を押し通す政治家は、考え方によっては強烈なリーダーシップがあることになります。
したがって、サイコパスのほうが、そうでない人よりも優れた政治家になれる可能性を秘めているのです。
■「大胆不敵なリーダーシップ」にも通じる
米国エモリー大学のスコット・リリエンフェルドは、42名の米国大統領(第43代ジョージ・ブッシュ大統領まで。第44代バラク・オバマ大統領はデータが少ないので分析に含めなかった)について、歴史の専門家や、各大統領に関する伝記を書いているジャーナリストや作家に、彼らがサイコパスかどうかを評価してもらいました。
その結果、サイコパスの特性のうち、恐怖を感じにくく、支配性が高い(人の上に立ちたいという気持ちが強い)、大胆さがある、という特性を持つ大統領は民衆から高い評価を受けることがわかりました。
他にも、リーダーシップがある、大衆を鼓舞する説得力がある、危機管理能力がある、議会との折衝がうまい、新しい計画を実行できる、といった面で高評価を得ていたことも、サイコパスの特性と関連があります。
では、サイコパスの特性がネガティブに働くことはないのでしょうか。
もちろん、ありました。衝動的であることと、反社会的であることです。こういう特性が目立つと、政治家としての評価は低くなりました。
ちなみに、サイコパスと疑われる大統領で、評価が一番高かったのは第26代セオドア・ルーズベルト、2位は第35代ジョン・F・ケネディ、3位は第32代フランクリン・ルーズベルトでした。
最下位はというと、第27代ウィリアム・H・タフトで、下から2番目は第6代ジョン・Q・アダムズ、3番目は第30代カルビン・クーリッジという結果になったそうです。
いつでも必ずというわけではありませんが、政治家の場合は、サイコパスであることでその特性を活かせることもあるのです。
■ビジネスシーンでは「カリスマで魅力的」に見える
サイコパスが成功しやすいのは政治の世界だけではありません。
ビジネスの世界においても、その特性をポジティブに発揮できることが、数多くの研究で明らかにされています。
米国ノース・テキサス大学のポール・バビアクは、従業員数が150人から4万人規模の7つの会社のマネジャー、CEO、副社長、重役たち計203名に、サイコパステストを受けてもらいました。また、それぞれの360度評価(上司からだけでなく、部下や同僚からも評価してもらう形式の人事評価)の記録も教えてもらいました。
すると、サイコパス度の高い人ほど、カリスマ的で、魅力的で、コミュニケーション能力が高い、という評価を受けていることがわかりました。
サイコパスは、いつでも堂々としていて、自信たっぷりに振る舞うので、カリスマ性があるように見えますし、魅力的にも見えます。
また、サイコパスには「ウソつき」という特性もあり、平然とウソをつくことができます。そのため、コミュニケーション能力が高いと周囲の人に思われるのでしょう。
■組織の序列が上の人ほどサイコパス度が高い
ただし、バビアクの調査では、サイコパスが悪く評価されている点もありました。
それは、一匹狼としてならよいけれども、チームの一員として周囲とうまく歩調を合わせることができない、というところです。
つまり、サイコパスはリーダーには向いているものの、チーム一丸となり、同じ目標に向かって邁進する仕事には向いていないようです。要するに、チームプレイが苦手なのです。
また、サイコパスには「無責任」というネガティブな評価もありました。サイコパスは、自分の好きなことには全力を出しますが、気に入らない仕事は手を抜きます。
そういう点が、いいかげんだと思われることもあるのでしょう。
もうひとつ、別の研究もご紹介します。
英国の国立大学であるアングリア・ラスキン大学のクリーブ・ボディは、サイコパスは難しい仕事にも果敢に挑戦することができるので出世しやすいのではないか、という仮説を立てました。
この仮説を検証するため、346名のホワイトカラーについて調査をした結果、やはり組織の序列でいうと、上の階層になればなるほど、サイコパス度が高くなることがわかりました。
下のマネジャーよりはミドル、ミドルよりはさらに上のシニア・マネジャーのほうが、よりサイコパスの度合いが高くなっていたのです。
つまり、どんどん出世していけるという点では、サイコパスは羨ましい特性を持っている人だと言えるでしょう。
■「誇大妄想狂で自信家」ゆえのチャレンジ意欲
サイコパスは、恐怖を感じる脳の領域である扁桃体が普通の人よりも小さいので、あまり恐怖を感じません。
どんな業種でもそうですが、臆することなく、ときには向こう見ずなくらい突き進んでいかなければ、大きな成功は得られないものです。失敗を恐れて、何もチャレンジしなければ、成功できるはずがありません。
サイコパスは「恐怖を感じにくい」という特性があるため、失敗を恐れずチャレンジし、仕事もうまくいくのでしょう。
米国エモリー大学のスコット・リリエンフェルドは、インターネットで募集した3388名にサイコパステストを受けてもらうとともに、職場でのポジションを教えてもらいました。
するとサイコパス度の高い人ほど、職場でのポジションが高かったそうです。
「失敗の恐怖を感じにくく、リスクを恐れない」というサイコパスの特性も、やはり出世に役立つと言えます。
■根拠もないのに「自分ならうまくできるはず!」
サイコパスには「誇大妄想」という特性もあります。
彼らは、何の根拠もないのに、「自分ならうまくできるはず!」という強烈な思い込みを持っているのです。
「宝くじは買わないと当たらない」とは、よく言われます。
普通の人は、リスクばかりが頭に浮かんでしまい、「失敗するのはイヤだから、何もしないで大人しくしていよう」と考えることのほうが多いでしょう。しかし、サイコパスはリスクが大きい場面でも遠慮はしません。
自分なら絶対にうまくいくと信じ、果敢に挑戦することができるので、ビジネスでの成功や出世につながりやすいのです。
どんなに若かろうが、経験が浅かろうが、サイコパスは自信を持って取り組みます。「念ずれば通ず」という言葉もありますが、自分ならうまくやれると信じてがむしゃらに取り組んでいると、本当にうまくいってしまうことも少なくありません。
■緊張せず「交渉ごと」に強気で臨める
難しい交渉になると予想される場合、交渉の担当者にサイコパスを割り当てると、うまくいく見込みが高くなります。
交渉相手が、自社よりも大きな企業であったりすると、普通の人であれば緊張してうまく交渉できませんが、サイコパスなら大丈夫。大企業を相手にしても、緊張することがありません。もともと無感情ですので、相手の目を平然と見つめて堂々と交渉してくれるはずです。
カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学のリサ・クロスレイは、106名の大学生にサイコパステストを受けてもらい、その後、コンサートのチケットの売り手と買い手に分かれて、20分間の擬似的な交渉をしてもらいました。
その際、対面での交渉と、コンピューターのチャット機能を使った交渉の両方を行なってもらいました。
その結果、サイコパス度の高い人ほど、対面での交渉では自分のほうが有利になるように交渉をまとめることがわかりました。サイコパスは、売り手としても買い手としても、厚かましいくらいに強気にガンガン攻めていくので、利益を勝ち取ることができるのです。
一方、サイコパスでない人は、コンピューターを介したときのほうが交渉結果はよくなりました。対面でないほうが、緊張せずにうまく話をまとめられるのです。
■外交官には「ノー!」を突きつけられるサイコパスを
また、米国ウィスコンシン大学のマイケル・コーニグスは、サイコパス度の高い人ほど交渉の行方が気に入らないときには、きっぱり「拒絶」をすることも明らかにしています。
普通の人は、「はっきりと拒絶すると相手の気分を害してしまうかも……」と慮り、交渉に手心を加えることもありますが、サイコパスは気に入らないときには堂々と「ノー!」を突きつけます。サイコパスが交渉に向いている理由は、そういうところにもあるのです。
日本人は、外交がヘタだとよく言われます。
その理由は、性格的にやさしすぎて、相手との衝突を避けるためです。「和を以て貴しとなす」という国民性があるので、どうしても弱気になってしまうのでしょう。これでは、「ノー!」と言えるわけがありません。
その意味でいうと、重大な国益を背負って交渉に臨まねばならない外交官には、サイコパスを配置するとよいのかもしれません。
サイコパスなら、どんな交渉においても臆せずに堂々と強気な要求をぶつけられるでしょうし、その結果として、日本の国益に貢献してくれる可能性も大いにあります。
外交官を採用するときにはサイコパステストを受けてもらい、高得点の人を採用するのは、なかなかいいアイデアだと思うのですが、いかがでしょうか。
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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人)