メンタルヘルスの悪化や生活習慣病といった現代社会に生きる人々を苦しめる問題の多くは、急速な技術の進歩や近代化によって生じていると指摘されています。こうした問題の背景には、人類の進化と文化の変化が食い違う進化論的ミスマッチがあると、イギリスのノーサンブリア大学で心理学助教を務めるホセ・ヨン氏が解説しています。

Human culture is changing too fast for evolution to catch up - here’s how it may affect you

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進化論的ミスマッチは、進化して身につけた形質や性質が身体的・心理的に環境とズレた時に生じます。たとえば、ガなどの夜行性昆虫は暗闇の中を飛行するため、月の光を方向指示器として飛行する走光性を身につけました。ところが現代では、人間が作った街灯や照明が夜間も光っているため、多くの夜行性昆虫がこれらの光に引き寄せられてしまっています。これと同様のズレが人類にも起きているとのこと。

多くの人々が経験している進化論的ミスマッチのひとつに、「甘い物が好き」という傾向があります。甘い物はカロリーを豊富に含んでいることが多いため、甘い物好きという性質は人類の祖先がカロリーの多い食品を探す役に立ちました。しかし現代では、食品会社が精製された砂糖や脂肪を多く含む食品を大量生産して甘い物を好む消費者を引きつけ、虫歯や糖尿病などの患者を増大させる結果となっています。この点で、甘い物が好きという人類の性質は、進化論的ミスマッチを起こしているというわけです。



人類が長い時間をかけて適応してきた環境は現代社会とかなり異なったものであるため、進化論的ミスマッチは社会の至るところに存在しています。たとえば、人類は約50〜150人程度で構成された親族ベースの狩猟採集部族で暮らすように進化しており、人が持つ帰属欲求はこうした比較的小規模な集団でうまく機能します。しかし、現代では数十万人以上が集まる大都市に住む人が多く、こうした環境に置かれた人々は孤独を感じやすいとのこと。

また、これまでの研究では社会的な動物を混雑した空間で飼育すると競争ストレスを経験し、免疫機能や生殖能力の低下といった身体的な悪影響が出ることがわかっています。動物での研究と同様に、混雑した都市に住む人も前例のないレベルのストレスを感じ、人口密度の増加と共に出生率が低下する傾向があります。

さらに、現代社会における社会的不平等は、平等主義的な狩猟採集民の住んでいた環境とも異なっています。人類は社会的地位を気にするように進化しており、比較的格差が小さい狩猟採集社会では、それが個人の力でどうにかなる程度の格差是正の動機となっていました。しかし、現代社会ではあまりにも社会的な格差が激しくなっており、一部の億万長者は一般的な労働者が数十万年働かないと追いつけないほどの資産を持っています。こうした状況では、他者との格差を気にするように進化した人類の性質が、社会的地位の不安を増幅させる悪影響をもたらします。

ソーシャルメディアも社会的格差の比較についての問題を悪化させます。通常、人々はオンラインで自分のいい面について共有しがちであり、ソーシャルメディアで見る他人は実際よりも優れているように感じやすいとのこと。また、「いいね!」の数やフォロワー数による価値の定量化もあり、社会的格差がはっきりわかりやすいのも問題です。



社会的格差における進化論的ミスマッチは、学歴への執着や名誉のある仕事の奪い合い、物質主義といった現代社会の側面に強く結びつきます。その結果、人々は社会的ステータスを誇示する物品や経験を買うために借金を負ったり、一発逆転を狙って危ない投資に走ったりしやすくなるとヨン氏は指摘しています。

国際的な投資専門家組織のCFA協会による2023年の(PDFファイル)レポートでは、Z世代の多くが仮想通貨などリスクの高い投資に目を向けがちであることがわかっています。また、危険な美容整形手術や過激なダイエットなど、現代社会はルッキズムの側面でも人々を競争に駆り立てる可能性があります。

競争が激しくなると、人々はプレッシャーを内面化してしまい、不安や抑うつ症状を経験する場合があります。現代社会の要求に応えることができないと感じる人々が自傷行為に走ったり、うつ病を発症したりする傾向は、日本や韓国など「恥」の文化が強い国で特に顕著だとのこと。

また、「勝ちようがない社会的格差の問題は外部にある」という意識が強まると、皮肉や攻撃性、敵意の増加につながる可能性があります。こうした外部への怒りの表れは、恋愛関係や性的パートナーに恵まれないと感じている男性からなる「インセル」のグループによく見られるとヨン氏は述べています。



ヨン氏は進化論的ミスマッチという視点を持つことで、現代社会の環境を人類が身につけた性質にマッチするよう調整できるかもしれないと主張しています。たとえば、都市環境を変えることで混雑を緩和したり、自然へのアクセスを増やしたりすることで、人々のストレスを軽減して幸福感を向上させられる可能性があるとのこと。

また、消費主義をやめたりソーシャルメディアへの露出を減らしたりする方向にライフスタイルを変えることや、就く仕事を得られる名声ではなく有意義かどうかで判断することも、進化論的ミスマッチを減らす役に立つかもしれないとヨン氏は述べました。