連載『山本昌のズバッとスクリュー』<第1回>

 プロ野球の今季序盤、名古屋は優勝したかのような盛り上がりを見せていた。それもそのはず、中日ドラゴンズが8年ぶりの首位に立つほどの快進撃を見せていたからだ。その要因はなんだったのか。

 50歳まで現役生活を送った中日のレジェンド・山本昌氏による新連載『山本昌のズバッとスクリュー』第1回は、序盤のチーム状況について"ズバッと"解説してもらった。


今季の中日打線を引っ張る中田翔 photo by Koike Yoshihiro

【得点力不足を払拭した中田の加入】

 まず、ここ数年のドラゴンズは2年連続でリーグ最下位と、非常に苦しいチーム状態でした。ですが、今季は好調な滑り出しに成功。その1番の要因としては、やはり中田翔選手の加入が大きいと感じています。

 それを象徴するのが、今季序盤、一時リーグ首位に立つなどチーム状態がすごくよかったですよね。それは中田選手が攻撃の起点になったり、ランナーを返したりする場面がすごく多かったからです。昨季までのドラゴンズはピッチャー陣がよくても打線がふるわず、得点力不足が大きな課題で、なんとか接戦に持ち込んで、我慢してリリーフ陣につないでいく野球でした。

 それが、中田選手が加入した今季は、チャンスで得点できるようになりましたし、毎試合大量点まではいかなくても、いい場面で1点取ってくれるというムードがシーズン序盤にはありました。

 印象的なシーンとしては、ヤクルトとの開幕戦(3月29日・神宮球場)。先制するも追いつかれた直後の5回表、1ー1で2死の場面、ヤクルトの開幕投手・サイスニード投手からホームランを打って勝ち越しに成功したんです。そのときに先発だった柳裕也投手の表情がカメラに抜かれたんですが、「今年は、こんなところで点を取っていただけるの?」みたいな顔をしていました(笑)。

 それほど得点力不足に泣いたシーズンが続いていたわけなんです。ここぞという場面で打てるかどうかが、昨季までとはまったく違うということです。先頭バッターとしては出塁して起点になり、チャンスではタイムリーを打ち、ランナーが三塁にいるときはしっかりと犠牲フライを決めてくれる。本当に中田選手の加入は大きいです。

 それに彼は、2ストライクまで追い込まれたら、なんとか逆方向に打とうというバッティングに切り替えますよね。そういう姿勢をクリーンアップを打つバッターが見せているというところが、チーム全体にいい流れを呼び込んでいるのかなと。その影響もあり、細川成也選手も調子を上げてきていきました。

 序盤は4番細川、5番中田という打順で固定していたのですが、後ろに中田選手がいるため、相手は細川選手と勝負せざるを得ないので、彼がポイントゲッターになることができていた。そういう意味でも、いかに中田選手の存在が大きいかがわかります。

 ドラゴンズとしては、中田選手をケガなく1軍で出場させられるかが優勝を狙う上で重要な要素です。彼は足に故障しやすいところが何カ所かあるので、そこは注意してほしい。

 ファーストコーチャー(堂上内野守備走塁コーチ)と冗談混じりに話していたことではあるのですが、二塁打を打った際に、立ったままセカンドに到達するスタンディングダブルだけにして、スライディングでセカンドを狙うのはやめたらどうかと。実際に後者でケガをしているのを何度か見ているので、それは意識してほしいところですね。

【「1・2番コンビ」で盗塁数を増やしてほしい】

 あともうひとり、ドラゴンズ躍進の原動力になっているのが、田中幹也選手です。昨季は開幕前に立浪和義監督から期待を寄せられてはいましたが、右肩の故障でプロ1年目を棒に振る形となりました。今季も体調や体力面でまだ不安があるので、たまに休みを挟んだりしていますが、それでもとくに守備と走塁で、チームにプラスの影響を与えてくれるので、日に日に存在感を増している選手です。

 バッティングにおいても、立浪監督が「ベンチがしてほしい動きを言わなくてもやってくれる」と絶賛していました。ここは初球は見送ってほしいとか、なんとか粘ってほしいとか、そういうベンチが思っていることを簡単にやってくれる。打率は高くないのですが、チームにとってはとても助かる選手です。

 そのなかでも、特筆すべきはやはり守備。ファインプレーが多く、際どい打球でもしっかり捕球できる守備範囲の広さがある。コンビを組むショートには打撃好調の村松開人選手がいますし、今季から加入した山本泰寛選手もポジショニングのうまさや守備の安定感がある。二遊間が徐々に固まりつつあるなと感じています。

 その村松選手に関しては、開幕当初はクリスチャン・ロドリゲス選手が育成から支配下登録後、すぐにレギュラーとして使われていたので、出場機会は少なかったのですが、しっかりと調子を維持し、首位打者を狙えるんじゃないかという勢いで頑張っていました。

 ただ、こういった俊足の選手がいるにも関わらず、チーム全体の盗塁数(22個・6月20日現在)が少ないのは気になるところです。(俊足の)岡林勇希選手が開幕から出遅れたことも要因のひとつではあるのですが、思った以上に走れてないなと。作戦面では手堅く送りバントをしたり、たまにヒットエンドランも仕掛けたりしていますが、そこまで積極的に動いている印象はないんです。

 岡林選手の調子が上がってくれば、出塁率も増えて盗塁機会も増えてくると思いますし、田中選手との1・2番コンビが機能すれば、より足を使った作戦が使えるようになってくる。それによって、もう少し相手ピッチャーやバッテリーを警戒させられれば、クリーンアップの負担も減ると思うので、しっかりと調子を上げてほしいです。

【救援陣はかつての"投手王国時代"を上回る充実ぶり】

 ピッチャー陣は安定しています。これは昨季もそうでしたが、先発にはしっかり球数を投げさせる作戦をとっているんです。ビハインドだからすぐ変えようとか、リリーフ陣がいいから早く変えようとかではなく、先発には最低100球は投げてもらう。この方針が、シーズン通して安定感あるリリーフ陣を形成できている要因かなと思います。

 リリーフに関しては、他のチームも羨む陣容ですよ。絶対的な抑えのライデル・マルティネス投手がいて、その前に清水達也投手や松山晋也投手、藤嶋健人投手に勝野昌慶投手、左腕では齋藤綱記投手がいてと、勝ちパターンのローテーションが組めるぐらい人数は揃っていますから。

 強いていうなら、先発が早いイニングでマウンドを降りた後のピッチャーが足りないぐらいでしょうか。大差で負けているときに、勝ちパターンを使わなければいけない試合もあったので。でもそれぐらい調子のいいピッチャーばかりなんです。勝野投手はやや調子を落としているんですが、状態を上げてくれればより鉄壁の布陣になります。

 清水投手は、昨季セットアッパーを経験したなかで、終盤は不調で2軍落ちもしましたが、今季はコントロールが安定していますね。球種割合の8割が150キロを超えるまっすぐと落差のあるフォークの2種類。そこにスライダーやカーブを交えるスタイルですが、さらにストライクを安定して取れるようになったら、なかなか打てないと思いますよ。

 右内転筋損傷から復帰した藤島投手もマウンド度胸がありますし、いつでもストライクが取れる。多少のビハインドや同点、リードしている場面でもいいピッチングをしてくれる安心感があります。これほどピッチャー陣が揃っていると、相手チームも焦るんじゃないでしょうか。

 というのも、私が現役の頃は岩瀬仁紀とサムソン・リー、落合英二(現投手兼育成コーチ)にソン・ドンヨルという4枚の勝利の方程式が構築されていて、相手チームに「6回ぐらいになると焦るんだよね」「この後、点取れないなぁ」と言わせるほど強力なリリーフ陣でした。

 浅尾拓也(現・2軍投手コーチ)と岩瀬の鉄壁の2枚の時代もありました。要はこれに近い、もしくは上回るほど相手に恐れられる、それぐらいの質量をいまの投手陣は持っているんじゃないかと。僕はそう感じているんです。

【高橋宏斗"制球難"乗り越え「1番安定感ある投手」に】

 あとは先発ですが、小笠原慎之介投手、大野雄大投手、柳投手は実績のあるピッチャーですので、今季はいずれもケガや不調で2軍に行くこともありますが、チームが苦しいときに帰ってきてくれれば、僕はいいかなと思っています。

 そこで期待がかかるのは、やはり高橋宏斗投手です。

 話は少しさかのぼるのですが、じつは彼、昨夏から秋にかけてボールがすっぽ抜けるようになっていたんです。おそらく本人も感じていたと思うんですけど、アウトハイを狙ったボールがインハイに抜けたり、まっすぐにかかるシュート回転が強くなったりと、かなり制球に苦しんでいました。それを修正するべく、オフから自主トレやキャンプでいろんなことを試行錯誤しながら試したはずです。

 その後、オープン戦の最後の登板のとき、立浪監督と話をさせてもらったんですけど、「今日、宏斗が良かったら開幕に指名したい」と言っていて。開幕投手は柳投手が有力だったので驚いたのですが、実際に彼に直接「(開幕を頼むと)言われたか?」と聞いてみると、「いや、本当に言われてないんですよ」と。その瞬間に、立浪監督は本気だったんだな、とわかりました。

 ただ、最終登板で高橋投手はコントロールが安定せず、2軍落ちが決まってしまったんですが、下を向かずにしっかりと調整して、(ウエスタンリーグでの)2試合目ぐらいから無双状態に入り、失点する気配がまったくないぐらいに仕上げて1軍に戻ってきてくれました。

 それからはしっかりとローテーションを回り、先発陣で1番安定感のあるピッチングを見せています。少し出遅れはしたものの、2桁勝てる位置にはいると思いますよ。高橋投手はすでに日本を代表するピッチャーで、近い将来、侍ジャパンのエースになれる素材だと、高校時代から評価していました。それはいまも変わらないので、さらにいいピッチャーへと育ってほしいですね。

 チームとしては借金はありますが、正直、そんなに焦ってはいないなと感じます。そう思えるほどの安定したピッチャー陣に加え、1点をしっかり取れるようになってきた打線、それぞれが自分たちの仕事をしっかりとこなし、よりチーム体制が整っていけば必ず上昇できると思います。

 セ・リーグは、ソフトバンクが首位を独走しているパ・リーグと違い、まだまだ混戦が続くはず。悲観するようなゲーム差ではないし、最後にまくるような展開も十二分にあると思うので、ぜひ頑張ってほしいなと思いますね。

【Profile】
山本昌(やまもと・まさ)/1965年生まれ。神奈川県出身。日大藤沢高から1983年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。2006年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。

佐藤主祥●構成 text by Sato Kazuyoshi