GoogleやOpenAIなどのハイテク企業は従業員や採用候補者が「中国のスパイ」かどうかの調査を強化している
アメリカと中国の地政学的な緊張が高まる中で、中国のスパイが大手テクノロジー企業に社員として潜入し、機密情報を盗み出すという事件がたびたび報告されています。そんな中、GoogleやOpenAIなどのテクノロジー企業が、スタッフや採用候補者が中国のスパイかどうかを調べるセキュリティ審査を強化していると、経済紙のフィナンシャル・タイムズが報じました。
Silicon Valley steps up staff screening over Chinese espionage threat
Tech Firms Tighten Staff Scrutiny Over China Spying Concerns
https://www.pymnts.com/technology/2024/tech-firms-tighten-staff-scrutiny-over-china-spying-concerns/
フィナンシャル・タイムズは複数の関係者からの情報として、Googleなどのテクノロジー大手やOpenAIなどの知名度が高いスタートアップが人材のスクリーニングを強化していると報じました。この動きは、「外国政府が知的財産や企業データにアクセスするため、企業内部の労働者を利用しようとしている」という懸念の高まりの中で行われています。
数多くのテクノロジー企業に投資を行ってきたベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルも、外国の情報機関がアメリカのハイテク労働者を標的にしているという警告を受け、ポートフォリオに含まれる企業に対してスタッフのセキュリティ審査を強化するよう奨励しているとのこと。なお、セコイア・キャピタルはアメリカと中国の対立激化に備え、2023年に中国事業を分離するという措置を講じました。
フィナンシャル・タイムズの問い合わせに対し、Googleは「私たちは商業上の機密情報や企業秘密の盗難を防止するため、厳格な保護措置を講じています」と述べました。一方、セコイア・キャピタルはコメントを控え、OpenAIはコメントの要求に応じませんでした。
アメリカの防衛機関にデータ分析プラットフォームを提供しているPalantir Technologiesのアレックス・カープCEOは、中国がアメリカのハイテク企業をスパイしていることは商用ソフトウェア・大規模言語モデル・兵器システムのメーカーにとって大きな問題だと指摘。中国は今後1000年にわたりアメリカと競う可能性があり、スパイからアメリカ企業を守ることは重要だとしています。
また、元国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ハイテク企業や投資会社にスパイのリスクについて助言してきたハーバート・マクマスター氏は、中国の情報機関による脅威は現実のものであると主張しています。マクマスター氏は、「私が話をしたり一緒に仕事をしたりしている企業は、このことをよく理解しており、リスクを減らすためにできることをすべてやっています」と述べました。
すでに一部の民間企業は、中国によるスパイ活動に関する戦略的情報を企業に提供するサービスを開始しています。ユタ州を拠点とするStrider Technologiesは、AIを使用して外国の情報機関が企業とその従業員を標的にする手法のデータを収集し、従業員や採用候補者に危険な兆候があればフラグを立てるとのこと。フラグが立った場合、企業はその個人の家族や海外との金銭的なつながり、渡航歴といった追加のスクリーニングを行うことができます。
Strider Technologiesのグレッグ・レベスクCEOによると、近頃は量子コンピューティングやAI、合成生物学といた新興技術に取り組むスタートアップにおいて、Striderのシステムの採用が広がっているそうです。これらの技術は中国のような国にとって重要なターゲットですが、レベスク氏は「この動きはフォーチュン500全体で見られます。誰もが狙われているのです。産業界は地政学的な闘いの最前線になっています」とコメントしました。
アメリカと中国との対立はますます激化しており、2024年4月にはTikTokの親会社であるByteDanceに対してTikTok売却を義務づける法案が成立。TikTokは表現・言論の自由を保障するアメリカ合衆国憲法修正第1条を根拠に異議申し立てを行っています。
その一方で、フィナンシャル・タイムズは一連の動きにより、アメリカのハイテク企業による外国人排斥の高まりにつながる可能性もあるという懸念があると指摘しました。