飼育員さんも思わず触りたくなる「ふわふわ」…新江ノ島水族館、みんなで見守った待望の「赤ちゃんアザラシ」がかわいすぎる

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20年の歴史で初!アザラシの赤ちゃん誕生

今年4月19日、神奈川県・新江ノ島水族館(以下、えのすい)にてゴマフアザラシの赤ちゃんが誕生しました。同館でアザラシの繁殖に成功したのは2004年の開館以来はじめてのことです。「待望の赤ちゃんアザラシ」誕生に至るまでの道のりを、同館展示飼育部展示飼育チームの遠山忠晃さんに伺いました。

静岡の水族館でアザラシの飼育に携わってきた遠山さんは2015年にえのすいに入社しました。そのとき、えのすいにはメスのワカとオスのオガという2頭のアザラシがいましたが、交尾に至ることはありませんでした。臆病で繊細なアザラシにとって、より過ごしやすい環境を構築するほかに、もう1頭のアザラシを秋田県の男鹿水族館GAOから迎え入れることにしました。それが今回出産した、メスのココです。

ココを迎え入れるも……

「動物にも相性があるんです。繁殖の可能性を広げるためにも、メスを新たに迎え入れたいと思っていました。

そのタイミングで全国の水族館・動物園でアザラシの飼育に関わっている人たちが集まる会議があって、男鹿水族館GAOにちょうど搬出先を探している若いメスのアザラシがいることが分かりました。話し合いを重ねて、ココがえのすいにやってきたのが2017年の2月4日です」

健康面のチェックを済ませたあと、2頭のいる展示プールへ合流させました。アザラシは基本的に内気な性格で、新しい仲間や物に対して、積極的には興味を示しません。そこから2020年ごろまでは交尾の兆候は見られませんでした。そこで遠山さんはあることに気がつきます。

「ずっと屋内のプールで飼育をしていて、水温が1年を通して一定だったんです。なるべく自然に近づくように、水温に変化を付けました。

あとは、アザラシは繁殖サイクルとして、繁殖の時期を過ぎると換毛の時期が来ます。ココはどこかでバランスが崩れたのか、換毛が止まってしまっていたんです。獣医と相談のうえ身体の免疫力を高める薬をあげました。そうして、2019年ごろにやっと換毛が見られました。そのあともしっかりとした身体づくりを意識して、餌の魚の種類を増やし、いろいろな栄養素を摂らせるようにしていました」

もしかしたら妊娠しているかも?

そうした努力が実り、2021年ごろからはオガとココのあいだで交尾が見られるようになりました。しかし、なかなか妊娠には至りませんでした。遠山さんはその原因をオガの体内で作られる精子の量が妊娠に至るほどの十分な量ではなかったからなのではないか、と分析します。オガの成長を待てば、妊娠するのではないか、と考えていました。

「今年の4月に入って、もしかしたら妊娠をしているかもしれない、という瞬間があったんです。そこで獣医が、交尾をしたあとのココの生殖孔にスポイトを入れてオガの精液を取り出しました。それを顕微鏡で見ると、精子を確認する事が出来たんです。

ココが妊娠をしているかもしれない、という期待もありつつ、アザラシは見た目ではほぼ妊娠が分からないので定期的にエコー検査をしていました。すると8月ごろに3mmほどの小さな塊が見えました。それがその1週間後には6mmに成長をしていたので、妊娠していることが確実になりました。その日は本当に嬉しかったのですが、同時にしっかりと出産まで持っていけるか、という不安も大きかったです」

みんなでココを見守った

えのすいでアザラシの出産を経験したことがあるスタッフは遠山さんのみであったうえに、ココも初産でした。体重をコントロールしつつ、定期的に採血をして健康状態とホルモンの値を細かくチェックしました。ホルモンの値の変化からおおよその出産の時期が分かります。飼育プールに監視カメラを設置して、ココを見守ります。魚を食べなくなったり、陸に上がる頻度が高くなったりするのが出産の兆候です。

「ココはいつも、20〜21時に陸にあがって寝て、5〜6時には起きてプールに入って泳ぐんです。だけどある日、僕が7時半ごろに出勤するとまだ陸にいたんです。そこから、陸に上がるのと、プールに入るのをせわしく繰り返していました。これはもしかすると産む場所を決めているのかもしれない、と思ったんです。

昼過ぎになると陸に上がる頻度がさらに高くなったので、13時ごろから観覧制限を設けました。そこから24時間交代で見守る体制を整えはじめた矢先、18時05分に赤ちゃんが産まれました」

ちゃんと母乳をあげられるのか

産まれたばかりの赤ちゃんアザラシに人間が近づくと、お母さんアザラシが警戒をしてしまいます。特別な事情がない限りは、しばらく遠くから見守ります。初産のアザラシは産まれた子どもを自分の子どもだと認識できずに、育児放棄をしてしまうケースもあるそうですが、ココはその日のうちに授乳をする姿が見られました。

赤ちゃんアザラシの体重も順調に増えていて、ココがしっかりとミルクをあげられていることが分かりました。これで遠山さんもひと安心をしたそうです。アザラシの子育ては3週間ほどで終わります。

「普通、アザラシの子育ては、母親の方が子どもを遠ざけるんです。子どもがミルクを飲みたくて近寄ってきているのに、母親がそれを避ける、みたいなことが続いて、子育てが終わります。

ココの場合はなぜか逆で、ココはずっとミルクをあげようとしているのに、赤ちゃんの方が『もうミルクはいらないよ』といった感じでココから離れていったんです。自分から親離れしたんですね。ココは初産なのに、子育てが上手でした」

公募していた赤ちゃんアザラシの名前は6月30日に発表となります。

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