チキンラーメン・ラ王・マルちゃん・サッポロ一番など…全面戦争! 最強の「袋麺ブランド」はどこだ?

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またしても、即日完売だった。

5月末、人気ユーチューバーのHIKAKIN(35)監修のカップ麺『みそきん』が全国のセブンイレブンで再販されたことが大きな話題を呼んだ。買い占めや高額転売といった問題まで発生。お湯を注ぐだけですぐに食べられ、食器も必要ない即席カップ麺が庶民フードの王者だ――そう考える読者諸氏は少なくないだろう。ところが現在、カップ麺を凌ぐ勢いで、袋麺が躍進している。

全国のスーパーなどの販売データを集めた「日経POS情報」によれば、即席袋麺の販売金額の伸び率は前年同月比6.1%増と、カップ麺の5.1%を上回っているのだ(’24年3月時点)。

袋麺は、茹でる→盛り付けるという工程を経なければ食べることができない。カップ麺より幾分か″不便″な食べ物と言えよう。それでも売り上げを伸ばしているのはなぜなのか。インスタント麺ハンターの大和イチロウ氏が話す。

「大きな要因は″安さ″でしょう。袋麺は具がなく、ほとんど麺、つまり小麦粉で構成されている。小麦粉には統制価格があるので、他の輸入品よりも価格が安定しています。また、袋麺はパッケージの隙間が少なく、トラックにたくさん積めるので輸送コストが低い。カップ麺は麺以外に様々な具が個包装で入っている上、量に対して容器が大きいので、袋麺よりも高い。コロナ禍を経て在宅時間が増えたことで、トッピングを工夫するなど袋麺をアレンジして食べるという楽しみ方も定着しました」

昨今のK-POP人気も、袋麺市場を後押ししている。

「韓国はインスタントラーメンの消費量がベトナムに次ぐ世界2位の即席麺大国。そのほとんどが袋麺なのです。人気K-POPアーティストたちのトークで袋麺の話題がよく挙がりますし、番組で食べている様子が放映されるのは日常茶飯事。そしてその様子をユーチューブで観て影響された日本の若者たちが、袋麺を食べ始めたというわけです」(同前)

世界初の袋麺といえば日清食品の『チキンラーメン』だが、業界を長らく牽引してきたのは、群馬県の製麺会社をルーツに持つサンヨー食品の『サッポロ一番』だ。’66年に『しょうゆ味』、’68年に『みそラーメン』、’71年に『塩らーめん』を発売。『サッポロ一番』シリーズは当時のどさん子ラーメンブーム、そして’72年の札幌オリンピックによる北海道ブームの追い風に乗り、同社は瞬(またた)く間に日本一の袋麺企業へと成長していった。

「『塩らーめん』のスープは目隠しして飲んでもすぐにわかるほど独特で、カレーに使うようなスパイスを入れて味にキレを出している。『しょうゆ味』の麺には醤油を、『みそラーメン』の麺には味噌を、『塩らーめん』の麺には山芋粉を練り込んで唯一無二の食感を生み出すなど、それぞれのスープに適した麺を使用していることも特徴です」(即席ラーメン評論家の大山即席斎氏)

現在の袋麺売り上げランキングでも『塩らーめん』が1位、『みそラーメン』が2位と『サッポロ一番』シリーズが上位を占めている。

’58年発売で売り上げランキング3位の『チキンラーメン』と、’66年発売の『サッポロ一番』。老舗の看板商品による2強時代は、なんと’10年代まで半世紀近く続いた。ところが’11年、そんな袋麺業界に革命児が現れる。

″マルちゃんショック″の影響

「東洋水産が送り出した『マルちゃん正麺』は、業界を震撼させました。それまで軽食や夜食のイメージが強かったインスタント麺を、″食事″にまで押し上げたのです。袋麺と店のラーメンの違いは、麺の食感とスープの風味。東洋水産は切り出した麺をそのまま乾燥させる『生麺うまいまま製法』という特許技術を用い、生麺本来のもちもちとした食感でコシを再現しました。加えて、スープを粉ではなく液体にすることで、醤油の風味を感じられるようになった。
昔ながらの町中華の味に近づけるため、鶏油やポークエキス、野菜エキスのみでスープを組み立て、あえて得意の魚介系を封印したことも功を奏しました。『チキンラーメン』に次ぐ、エポックメイキングな商品と言えるでしょう」(自作ラーメン研究家の神田武郎氏)

″マルちゃんショック″と呼ばれた東洋水産の会心の一手に続けとばかり、各社が商品開発を競うなか、’66年発売の『明星チャルメラ』を擁する明星食品は、’20年発売の『麺神』で「太麺革命」を成し遂げた。

「即席麺と太麺は相性が悪い。太くなればなるほど、茹で時間が長くなり、茹で時間が長いほど食感の維持が難しいからです。ところが、明星は麺に含まれる空気の量を増やしたり減らしたりとコントロールすることに成功。さらに、一本の麺を3つの層で構成する『新・生めん風3層極太製法』を編み出して、店で食べる太麺の食感を再現しつつ、茹で時間を7分に留めることに成功したのです。太麺の開発は、即席麺のスープのバリエーション増加に繋がります。たとえば濃厚な豚骨醤油ラーメン、いわゆる家系は人気ジャンルの一つですが、細麺ではスープの存在感に麺が負けてしまうため、再現が難しかった。現在の『太麺×濃厚スープの袋麺』というトレンドは、『麺神』が作り出したものと言えるでしょう」(前出・大和氏)

圧倒的ナンバーワンブランドを擁するサンヨー食品に、技術革新で売り上げを伸ばした東洋水産と明星食品。強力なライバルに対し、即席麺の元祖・日清食品は総合力で業界シェア1位をキープしている。

「『マルちゃん正麺』を追うような形で日清が’12年に発売した『日清ラ王』のウリは、コピーのとおり『まるで、生めん。』の食感でした。明星が太麺ブームを生み出すと、『日清これ絶対うまいやつ♪』を『麺神』と同じ’20年に発売。ライバルの独走を許さない″負けず嫌いの王様″と言ったところでしょう。
もちろん、他社の追随だけに勤しんでいるわけではない。明星や東洋水産が起こしたような革命を、近い未来に日清も起こすかもしれません。具体的には、人間に必要な33種類の栄養素がバランスよく入った日清が手掛けるカップ式の新商品『完全メシ』を、袋麺に落とし込むのではないかと言われている。それが実現すれば、コスパ、タイパ、栄養の三拍子が揃った完全無欠の袋麺となり、他ブランドを圧倒する可能性があります。日清のことですから、数年以内に第1弾が出てくるのではないか」(同前)

伝統と革新の攻勢を迎え撃つディフェンディングチャンピオン――好況に沸く袋麺業界で、四天王″全麺戦争″が始まろうとしている。

『FRIDAY』2024年6月21日号より