日本人の睡眠時間は世界一短い…もっと寝たいけれど寝られない日本人を救う「20分間の昼寝」のやり方
※本稿は、遠藤拓郎『最強の昼寝法「スーパーパワーナップ」 日本人の睡眠処方箋』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■日本人女性の平均睡眠時間は7時間15分
図表1のグラフは、1998年から2019年までOECDが行った睡眠時間に関する調査結果(※1)です。OECDに加盟している33カ国の睡眠時間を調査しています。一番上が日本で、日本のデータは2016年のものです。
一目瞭然ですが、日本は突出して睡眠時間が短い国であることがわかります。一番睡眠が長い国は、一番下の南アフリカで、女性の睡眠時間は9時間17分にも及びます。日本の女性は7時間15分なので、南アフリカの女性よりも2時間も睡眠が短いのです。
男女ともに加盟国の中で日本がもっとも睡眠時間が短い結果となっています。
ちなみに、このグラフのグレーが女性で黒が男性です。ほとんどの加盟国で女性のほうが男性より睡眠時間が長いのですが、日本は女性のほうが男性よりも睡眠時間が短く、そのような国は33カ国中7カ国しかありません。
※1 OECD「Multinational Time Use Study」
■短い昼寝が「短眠国家・日本」を救う
パワーナップ(power-nap)(※2)とは、一般的に15〜30分程度の短い仮眠のことで、コーネル大学の社会心理学者ジェームズ・マース先生が、1998年に著書『Power Sleep』に紹介しています。私は、このパワーナップこそが、短眠国家である日本を救う方法であると思っています。
図表2を見てください。広島大学の林光緒先生や堀忠雄先生らが行った実験結果(※3)です。
黒いバーは、昼の12時過ぎの20分間の昼寝を表しています。白丸点線が昼寝なし、黒丸実線が昼寝ありです。上段が計算能力ですが、昼寝をすると計算能力が回復していることがわかります。中段は本人が感じている眠気ですが、昼寝により眠気も減っています。下段が目を閉じた時の脳波のアルファー波の量です。
リラックスした時に出る脳波であるアルファー波の量が多いと、すぐにうたた寝状態になることから、客観的な眠気の指標とされています。昼寝により客観的な眠気も軽減することがわかります。
※2 Maas JB, Wherry ML. Power Sleep: The Revolutionary Program that Prepares Your Mind for Peak Performance. Villard, 1998.
※3 The effects of a 20-min nap at noon on sleepiness, performance and EEG activity. Hayashi M, Ito S, Hori T. Int J Psychophysiol. 1999 May;32(2):173-80.
■1〜2時間はアウト、鉄則は「20分以内」
パワーナップは、この「20分間の昼寝」を実践しようという試みなのです。特に慢性的に睡眠が不足しているシニアビジネスパーソンには効果的です。三菱地所は30分間のパワーナップを実践したところ、日中の集中力が向上し眠気を軽減させています(※4)。福岡県の県立明善高等学校では、昼食後15分のパワーナップを導入したところ、大学入試センターの成績が1.15倍から1.20倍まで上昇しました(※5)。
パワーナップをとる上での大原則として、まず守っていただきたいのが、「夜にとる質の良い睡眠を邪魔しない、20分程度の短い睡眠」を心がけることです。間違っても1〜2時間の長い昼寝をとってはいけません。
その理由は眠りの深さにあります。人は、寝付くときには浅い状態で眠りに入ります。浅い眠りは20分かけて深い眠りへと移っていきます。したがって、20分以上眠り続けると、深い眠りへと入ってしまうのです。
※4 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000020114.html
※5 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-18603010/18603010seika.pdf
■深い眠りから起きるまでは時間がかかる
一度深い眠りに入ってしまうと目を覚ますのに時間がかかります。深い眠りから無理やり起きようとすると脳が眠りから目覚め切らず、目が覚めてもパフォーマンスを復活させるまでに時間がかかります。そうなれば、せっかくパワーナップを取ったのに、その効果を発揮させることはできません。
だからこそ、昼寝をするときは、深い眠りに入る前の浅い眠りの段階、すなわち20分以内で、目覚めるように心がけてください。
また、20分程度の睡眠にとどめることで、夜の睡眠を邪魔しないという効果もあります。食欲に置き換えてみるとわかりやすいと思います。今日の夜は豪華にお寿司というときに、3時にカップラーメンを食べてしまったとしましょう。夜お寿司を食べるときにお腹が空かない、食欲が出ないなど残念な結果になります。
もしも、3時に紅茶1杯とビスケットを1枚程度にしていれば残念な結果にはならずに済んだと思います。ビスケット1枚がパワーナップ、カップラーメンが長い昼寝になります。当然、お寿司が夜の睡眠になります。夜ぐっすり眠りたければパワーナップ程度で眠気をしのいでいくことが大切になります。
■「15時より前」なら何度でもOK
いくら「眠たいから」「気持ちがよいから」と数時間単位の仮眠をとってしまうと、肝心の夜の睡眠の質を下げてしまいます。
20分程度の“ビスケット1枚”のような昼寝にとどめておけば、夜の睡眠の質を損なわず、なおかつ日中の眠気を取り除き、高いパフォーマンスを維持できるようになるのです。
ただ、パワーナップは、1日のうちに何度とっても構いません。1度のパワーナップでは物足りなければ、2回、3回、4回と複数回にわたって取ってもいいのです。
とはいえ、パワーナップをとる時間帯としては、できれば15時までに取るようにしましょう。これも先ほどの食欲に置き換えるとわかりやすいと思いますが、18時に夕飯が控えている状態で、16時や17時におやつを食べたらどうなるでしょうか? 空腹感が下がってしまい、せっかくの夕飯がおいしく食べられなくなってしまいます。
睡眠についてもこれと同じで、15時以降にパワーナップを取って、夜の睡眠を邪魔してしまうと本末転倒です。“メインディッシュ”である夜の睡眠をより一層良質なものにするためにも、“おやつ”であるパワーナップは15時以降は控えることが望ましいのです。
■パワーナップと「うたた寝」は違う
よく勘違いされるのですが、パワーナップはうたた寝とは違います。
たとえば、夕食後などにテレビをダラダラ観ていたら、いつの間にか「うたた寝」をしてしまったということがよくあります。夕食後で、体も温まり、血糖値も上がり、気持ちもリラックスしているので、つい眠りたくなってしまう気持ちもわかります。
さらに、人は適当な雑音があったほうが、眠くなりやすくなるのです。その点、テレビの音はまさに子守唄です。
覚えのある方も多いと思いますが、人は眠ろうと思うとなかなか眠れません。逆に、眠りたくないときに眠くなります。夕食後テレビドラマを今日は最後まで見ようと思っていても、途中で気を失い大事なところを見落としてしまう場合があります。
■夜のうたた寝があぶない理由
これは、人間の脳には、同じ刺激を受け続けていると、次第にその刺激を感じなくなる「馴化(順化)」という現象があるからです。テレビの映像や音声は、最初のうちは刺激的で、脳は興味のある映像や音声に集中します。すると脳は「起きていなければいけない」という意識がだんだん薄れてきます。
この状況が長く続くと、脳がマンネリ化(馴化)を起こして、だんだん映像や音声の刺激が弱くなっていきます。実際には観たり聴いたりしているのですが、映像や音声が単なるBGMとなり脳が眠り始めます。
これが「うたた寝」です。「うたた寝」と自発的に短い睡眠をとる「パワーナップ」とはまったく別のものです。特に夕食後の「うたた寝」は時間も長く、眠りも深く、夜の睡眠の直前なのでとても危険です。例えて言うならば「お寿司」を食べる前の「大きなショートケーキ」に匹敵します。
特に高齢者は「うたた寝」をしてしまうと夜は眠れません。
■「二度寝」は睡眠不足をカバーするもの
一般的には、睡眠は分割せずに一つにまとめて長く取ったほうが良いとされています。
夜7時間しっかり眠って、昼間は眠気も疲労感も感じずに生活できる。これが理想的です。しかし、夜勤の看護師さんや、朝5時に起きてお弁当を作らなければならない主婦など、夜十分に睡眠が確保できない場合もあります。
そうした場合に、理想的ではありませんが睡眠は分割して取ることも可能です。「午前中の長い仮眠」は、前の睡眠と足し合わせることができるのです。例えば、夜勤中3時間の仮眠を取った場合、家に帰ってすぐに3時間仮眠した場合、計6時間の睡眠になります。
お弁当作りで1時間早めに起きた場合、子供を送り出した後1時間「二度寝」をすれば睡眠不足を取り戻すことができます。
逆に、「午後の長い仮眠」は次の睡眠の「まえがり」になります。夜勤の看護師さんなど夜勤前に長い「午後寝」ができると、勤務中の眠気が減って楽になると言っています。一方、パワーナップは、あくまで日中の眠気や疲労感を取り除き、日中の作業効率を上げるツールです。繰り返しになりますが、パワーナップは「20分以内・15時まで」であば、1日に何度とっても問題ありません。
「疲れている」「日中に眠気がとれない」などの悩みを抱えている方は、ぜひ日常に取り入れてみてください。
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遠藤 拓郎(えんどう・たくろう)
スリープクリニック調布院長
スタンフォード大学医学部客員教授、医学博士。東京慈恵会医科大学卒業、同大学院医学研究科修了、スタンフォード大学、チューリッヒ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校へ留学。東京慈恵会医科大学助手、北海道大学医学部講師を経て、現職。祖父(青木義作)は、小説『楡家の人びと』のモデルとなった青山脳病院で副院長をしていた時代に不眠症の治療を始めた。父(遠藤四郎)は、日本航空の協賛で初めて時差ボケを研究。祖父、父、本人の3代で100年以上、睡眠の研究を続けている「世界で最も古い睡眠研究一家」である。
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(スリープクリニック調布院長 遠藤 拓郎)