『虎に翼』写真提供=NHK

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 NHK連続テレビ小説『虎に翼』は第10週より「裁判官編」に突入。寅子(伊藤沙莉)の法曹界復帰に力添えしたのが、“ライアン”こと久藤頼安(沢村一樹)だ。

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 民法調査室主任という堅苦しい肩書きからは想像もつかないフレンドリーな性格で、胡散臭くもあるスマートな振る舞いぶりで物語に新しい風を吹かせた。一方で、寅子が自分を抑えているのをすぐに見抜き、あの偏屈な桂場(松山ケンイチ)のことも上手く扱うなど、食えない雰囲気が満載の久藤から目が離せない。

 そんな中、さらにもう一人、癖のあるキャラクターが登場となる。家庭裁判所設立準備室室長の多岐川幸四郎(滝藤賢一)だ。多岐川は寅子の上司となり、共に家庭裁判所の設立準備にまい進することになる人物。演じるのは、朝ドラファンにとってはもはや安心感さえある常連俳優の滝藤賢一である。

 滝藤が朝ドラに出演するのは今回が4回目。中でも多くの人の記憶に残っているのが、2018年度前期放送の『半分、青い。』で演じた宇太郎だろう。宇太郎はヒロイン・楡野鈴愛(永野芽郁)の父親。滝藤といえば、日航機墜落事故を追いかける新聞記者が精神的に崩壊していく様を熱演した映画『クライマーズ・ハイ』を皮切りに、身の毛がよだつような狂気じみた演技で観る人に強烈なインパクトを残してきた。

 しかし、宇太郎は影が全くと言っていいほどない爽やかな人物で、朝ドラの中でも屈指の“良い父親”だ。愛妻家で鈴愛に対する言動からも父親としての愛情が滲み出ている。一方で、宇太郎には少年のまま大人になったような純粋さがあり、その一挙一動に滝藤の“遊び心”が効いていて、観ているだけで頬が緩んだ。

 滝藤自身、好奇心旺盛な少年っぽさを残す大人で趣味が多彩。芸能界きってのおしゃれ番長とも知られ、その型破りなファッションは常に注目の的である。おそらく好きなことはとことん極めたいタイプなのだろう。芝居に関しても仕事だからというよりは、心から楽しそうにやっている印象だ。

 特に自身の代表作『探偵が早すぎる』(読売テレビ・日本テレビ系)シリーズの千曲川光を演じる時は、一段と伸び伸びしている。同作は犯罪防御率100%の“早すぎる探偵”千曲川が、巨額な遺産を手にしたヒロイン・一華(広瀬アリス)のもとに次々と送り込まれる凶悪な刺客たちを返り討ちにしていくコメディ。推理の鮮やかさはもとより、最大の見どころとなっているのは立ち位置はヒーローなのに、時折ヴィランに見えてしまうほど自由奔放な千曲川の振る舞いだ。過剰な芝居でしっかりと笑いを取れるのは、演じる滝藤本人が笑わせようとは微塵も思っておらず、良い感じに肩の力が抜けているからだろう。その粋でしなやかな身のこなしが見るものを夢中にさせる。

 寅子が花岡(岩田剛典)の死を告げられる第10週ラストの衝撃も、次回予告で映し出された滝藤演じる多岐川のコミカルな言動で一気に吹き飛んでしまった。本作で制作統括を務める尾崎裕和氏曰く、「(多岐川は)モチーフにしている方にいろいろと面白いエピソードがあり、エキセントリックに見えてしまうキャラクター」(※)とのことで、予告でもなぜか滝に打たれていたり、寅子たち室員に変なポーズを強要したりと、かなりの変わり者のようだ。一方で、彼は家庭裁判所の設立に尽力し、寅子に大きな影響を与える人物でもある。

 そんな滝藤にとっても、おそらく同じく法曹の人間である花岡の死は衝撃だったのではないだろうか。予告で多岐川が「法を司るわれわれは、彼の死を非難して、怒り続けねばならん!」と声を震わせて語る場面だけでも、滝藤の名演が光っており、思わず涙してしまった。確かな演技力に下支えされた俳優・滝藤賢一の自由な暴れっぷりに期待したい。

参照※ https://realsound.jp/movie/2024/06/post-1678658.html(文=苫とり子)