「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」を、Stripeのソフトウェアエンジニアであるビル・メイさんが解説しています。

Psychological tricks rich people use to look generous (without actually spending more money) | Bill Mei

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もしも誰かがあなたに8000円のコートをプレゼントした場合、あなたは「安いコートをもらった」と思うかもしれません。なぜなら、コートにしては「8000円」という値段は安いためです。しかし、プレゼントされたのが7000円のハンカチだった場合、「高価なものをもらった」と感じるかもしれません。その理由は単純で、ハンカチにしては「7000円」という値段は高額だからです。

このように、限られた予算で何かしらのプレゼントを贈る場合、コートのような高価なものよりも、ハンカチのような比較的安価なものをプレゼントする方が、実際にお金を使うことなく太っ腹な人だと思われる可能性があります。



このような「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」には、実用性重視の製品と趣味嗜好重視の製品の対立が存在すると、メイさんは語りました。

例えば自動車の購入を考える場合、実用性を重視して選ぶなら、信頼性が高く、快適で、荷物を置くスペースが広く、燃費が良い自動車を選ぶことになります。その場合の選択肢としてメイさんはホンダのフィットを挙げていますが、「実際には誰も欲しがっていない」と指摘。

実用主義的な考えは、昔の自動車の広告でも多く見られ、リクライニングシートの有無や燃費など、具体的な利点を宣伝するものが多く存在しました。



これに対して、近年の自動車広告では性能面を宣伝するものの代わりに、「自動車のオーナーになるとどんなライフスタイルを送ることになるのか」や「このような自動車を購入する人はどんな種類の人間なのか」を宣伝するような、シグナリングベースの広告がほとんどです。

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これは「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」につながる考え方であるとして、メイさんはシグナルを伝達するための3つの要素である無駄・精度・評判について解説しています。

1:無駄

無駄は、裕福な人々が自らのステータスを誇示するための方法です。ベルサイユ宮殿やギザの大ピラミッド、中国の兵馬俑はすべて無駄を誇示するようなものの代表例と言えます。

現代における無駄の事例として、メイさんは「大きくてうるさく、煙を吐き出すフォードのF-150」や「派手なカジノ」、「砂漠の真ん中にあるゴルフコース」「Bass Pro Shop(アウトドア用品店)のピラミッド型の記念碑」などを挙げました。



無駄は最も単純なシグナルの伝達方法ですが、同時に最も露骨な方法でもあります。メイさんは「廃棄されたアルミホイルで鳥が巣を作るのと同じくらいの知性しか必要としないため、無駄を押し出すとしばしば『安っぽい』印象を与えてしまいます」と記しています。

近年は世界中で環境に配慮した取り組みが推進されているため、無駄を用いたシグナルの伝達は廃れつつあります。それでも無駄はシグナルの伝達方法として「最も正直な方法」であるとメイさんは指摘。

そんな無駄を用いて「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」のひとつとして、メイさんは「天然の木材よりも安価な人工木材で作られた、見た目がゴージャスなデザイナーズ家具」などを購入することを挙げています。



2:精度

精度は、製品にどれだけの労力・努力・職人技などが注がれているかを誇示することです。

例えば、掃除が難しい職人手作りの家具や、馬の毛で作られた手作りのマットレスなどは、実用性に欠けていても「手作り」であることが価値として重視されます。他にも、スマート冷蔵庫やスマート電球、スマート歯ブラシなど、近年頻繁に見かける「スマート」製品も、実用性よりも精度を重視したものであるとメイさんは指摘。

また、精度は無駄よりも「環境に優しい回答」であるとメイさん。例えば自動車の場合、「大きくてうるさくて煙を吐き出しまくるトラック」が無駄の代表例と言えますが、精度の代表例となるのは「高性能な自動運転センサーとダイナミックヘッドライトを備えたゼロエミッションの電気自動車」です。どちらも乗り物としての性能は変わりありませんが、違う方向で贅沢さを楽しむ選択肢であるというわけ。

つまり、「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」として精度を活用する場合は、同じ値段でも「手作りのもの」を購入することや、「大量の機能が盛り込まれた最先端の製品」を購入することであるというわけ。



3:評判

評判は、実際の製品とは何の関係もない「購入する商品のブランドや知名度」を指します。例えば、ただの時計ではなく「ロレックス」、ただの学位ではなく「ハーバード大学の学位」、最も人気のある大統領候補に投票することや、YouTubeのチャンネル登録者数でコンテンツを測ることも、評判を重視した考え方であると言えます。

ロレックスの時計がTIMEXの時計よりも正確に時間を計ることに優れているということはありません。グッチのハンドバッグがその他のバッグよりも耐久性が高く、持ち物を入れるのに優れているということはありません。それでもロレックスやグッチを重視するのは、まさに評判を重視して物を選んでいるからに他ならないというわけです。

評判は無駄や精度よりも圧倒的に環境に優しいですが、評判を得るには他よりも多くの広告費を投じ、熾烈な競争に勝利する必要があります。実際、世界で最も有名な飲料ブランドであるコカ・コーラは、2023年に50億ドル(約7800億円)もの広告費を費やしており、これは誰にでもできる戦略ではないことは明らかです。

「ケチで嫌な人でもお金を使わずにお金持ちのふりをする方法」として評判を活用する場合は、「同じ値段でもブランド物を選ぶ」ということになります。