ソウル首都圏・京畿道で発見された、北朝鮮からの風船。直径が70センチメートルほどある(写真・大韓民国合同参謀本部フェイスブックから)

2024年5月28日、北朝鮮が韓国に向けて汚物やゴミなどを入れた袋を風(以下、ゴミ風船)船につけて大量に送った。それらが翌29日、韓国全国に落ちている。ゴミ風船とその残骸が見つかった地域では、ちょっとした混乱が生じている。

大きさ3〜4メートルほどの白い風船の中には、糞尿をはじめ紙くず、ゴミ、肥料と推定される汚物などが入っていた。

タイマーや起爆装置も

ゴミ風船による被害はまだないが、ゴミ風船の中に何が入っているのか見ただけでは判別が難しく、中にはタイマーや起爆装置などがついているものもあり、市民の中には恐怖と不安を感じている人もいる。

さらに、韓国当局が国民に向けた災害用のお知らせには、「野外活動を自粛し、発見した場合は軍隊に報告する」という表現があるだけ。「開封してはならない」といった、最も大事な内容が含まれていなかったことも、問題になっている。

そのため、爆発物などの危険物質が入っていたら、大きな被害につながりかねなかったという批判が出ている。こういったゴミ風船など未確認の物体に備えた危機管理対応マニュアルの教育や案内を受けた市民もおらず、マニュアルがあっても有名無実だという指摘も出てきた。

飛ばされたこの風船は、ソウル首都圏や江原道などに続き、韓国南部の慶尚南道と全北特別自治道(旧・全羅北道)などでも発見された。ほとんどが白い風船の下に肥料やゴミなどの汚物が入っている袋が付いている形だったが、中身がないものもあった。

韓国軍合同参謀本部と警察などによると、風船は5月29日、外交省庁舎、予備軍訓練場、小学校前の道路、中学校の運動場など全国各地で発見された。

ソウル市鍾路区内の小学校付近で汚物風船が破裂する音を聞いたというチョさん(67)は、「昼食を食べて外に出てくる途中にポンという音がして走ってみると、風船が破裂していた。もしかしたら化学物質や体に有害な物質が入っているかもしれないと思い、すぐにマスクを着用した」と話した。

ナムさん(67)も「破裂した風船の下には、ゴミや排泄物などが混ざっていたものがあった。ソウルにもあんなものが落ちていると思うと怖かった」と話した。

小学校など学校施設にも飛来

ソウル北部・蘆原区の中学校から5月29日午前11時55分ごろ、「正体不明の物体が落ちた」という通報があった。


韓国中部・忠清南道で発見された、北朝鮮から飛来した風船(写真・大韓民国合同参謀本部ホームページ)

学校内の工事現場で働いていたペクさん(65)は、「11時30分頃、ポンという音とともに風船が破裂し、ゴミが散乱していた」と話した。中学生のジ君(15)は「学校の運動場に正体不明のものがあって怖かった。『もし中に変な武器があったらどうしよう』と友達と会話した」と打ち明けた。

汚物風船は、鍾路区と蘆原区のほか、ソウル西部・麻浦区や国会議事堂がある永登浦区など、ソウル市内のあちこちで発見されている。

北朝鮮と軍事境界線で接する京畿道と江原道からも通報が相次いだ。5月29日午後2時ごろ、京畿道所在の予備軍訓練場をはじめ坡州や東豆川、平沢などで発見された風船の中には、肥料や電線と思われる物体が入っていた。江原道でも風船の残骸を発見したという通報があった。

軍事境界線から直線距離で250キロメートル以上離れた慶尚北道の永川でも、風船の残骸があるという通報があった。慶尚南道居昌郡の田んぼで、午前5時45分頃には全北・茂朱郡でも汚物風船が見つかった。

韓国警察庁によると、5月28日午後9時から5月29日午後5時まで、汚物風船に関する通報は全部で299件となった。

全国各地に飛来した汚物風船に市民が恐怖を感じたが、これに対応する行動要領といった案内などがなされなかった。

風船に化学物質が含まれていたら…

韓国消防庁は、汚物風船などの対南チラシは対空業務であるため、国民行動要領などを事前案内しないことを明らかにした。

韓国・行政安全省には危機管理対応マニュアルがあるものの、北朝鮮が韓国に向けて飛ばすチラシに関しては、広報や教育が最近は行われていなかった。

さらに、国民向けの災害用メールにも、主な行動要領である「手を触れないで」といった内容が抜けており、マニュアルに基づく行動要領や事後対応の案内もなかった。

このため、化学テロなど万一の事態に備え、汚物爆弾など未確認の物体に備えた具体的な行動要領をマニュアルに記載し、状況発生時にこれを市民に適切に案内すべきだという声が高まっている。

韓国・光州大学防災安全学科のソン・チャンヨン教授は「風船に化学物質が含まれていたら、大きな被害が発生する可能性があった。災害管理に対する初期対応能力を強化する必要がある」と指摘する。

キョンミン大学消防安全管理学科のイ・ヨンジェ教授は、「単に状況発生の案内にとどまらず、行動要領や対処方法など、具体的な内容を国民に伝える方法を考えるべきだ」と提案する。

ソウル新聞)