育てやすさに関係する「子どもの気質」 心理学的な分類とは?

写真拡大 (全5枚)

子どもの育てやすさや性格はどのような要素で決まるのでしょうか?子どもの性格や気性を表す言葉として「気質」というものがありますが、どのような要素があるのでしょう。子どもの「気質」について児童精神科医の岡琢哉先生に回答してもらいました。

≫ 1歳を過ぎてもなかなか歩かない赤ちゃん、これって病気? 受診したほうがいい?

監修医師:
岡 琢哉(株式会社カケミチプロジェクト)

児童精神科医。不登校・発達障がい等を支援する児童精神特化型の訪問看護ステーション ナンナルを運営する株式会社カケミチプロジェクト代表取締役。岐阜大学医学部附属病院精神神経科、東京都立小児総合医療センター児童思春期・精神科、医療法人社団神尾陽子記念会発達障害クリニック(現・神尾陽子クリニック)、岐阜大学医学系研究科博士課程を経て現職。NPO法人カケルとミチル理事、医療法人社団あやなり理事。

「気質」ってどんなもの?

編集部

はじめに「気質」とは具体的にはどういうものか教えてください。

岡先生

気質は、人が生まれながらに持っている性格の基礎と考えられています。これは生理的な要素や初期の反応スタイルを含んでいて、人のパーソナリティ(性格や人格)の基礎を形成します。

編集部

「気質」はどのように分類されますか?

岡先生

アメリカの心理学者、A.トマスらは、136人の子どもの乳児期から青年期の成長過程を追跡調査し、気質を9つの基準に分類しました。この分類では「活動レベル」「生理的リズム」「新規場面への反応」「変化への順応性」「反応の強さ」「刺激への敏感さ」「全般的な機嫌」「気の散りやすさ」「目標に向けての粘り強さ」の9つの基準に分けられます。

編集部

それは、子どもの育てやすさにどう影響するのでしょうか?

岡先生

先ほどお話した9つの気質の強弱や高低によって子どもの「育てやすさ」が3つのグループに分けられるとされています。それは「育てやすい(easy)」「適応がゆっくり(slow to warm up)」「反応が強い(difficult)」の3つです。気質の強弱によって影響されるこれらのグループ毎に子ども達への関わり方や環境への配慮が異なります。

気質の違いによって何が変わる?

編集部

それぞれの気質タイプについて、もう少し詳しく教えてください。

岡先生

はじめに「育てやすい」タイプの子どもは、新しい環境や変化に柔軟に適応しやすく、機嫌が悪くなることも多くありません。そして、これらの子どもたちは周囲の人々との関わりをスムーズにおこなうことができるため、育てる側が対応に困ることが少ないのが特徴です。

編集部

「適応がゆっくり」タイプはどうですか?

岡先生

このタイプの子どもたちは、新しい環境や人々に慣れるのに時間がかかります。最初は消極的かもしれませんが、時間が経つにつれて温まり、安心して行動できるようになります。家族やよく知っている人の前では特に問題がないのに見知らぬ人や新しい場所ではまるで別人のように固まってしまうことがあります。

編集部

そして、「反応が強い」タイプは?

岡先生

このグループの子どもたちは、感情の波が激しく、不快な状況に遭遇すると強く反応することがあります。柔軟性が低く、状況に適応するのが難しいため、育てる側もじっくりと時間をかけて、対応をしっかり考えていく必要があります。

気質や性格は一生変わらない?

編集部

これらの気質タイプが将来の性格やパーソナリティにどのような影響を与えるのですか?

岡先生

子どもの気質は、その後の人格形成の土台となりますが、絶対的ではありません。生活環境や受ける教育、親や教師・友人や出会う色々な大人との関係など、様々な要因が複合的に作用することで、最終的なパーソナリティが形成されます。気質がパーソナリティに与える影響は大きいですが、成長の過程で変化する余地が十分にあります。

編集部

では、どのようにすれば子どもの気質に適した育児をおこなうことができるのでしょうか?

岡先生

重要なのは、子どもの気質を理解し、それに合わせた対応をおこなうことです。例えば、「反応が強い」タイプの子どもには、一貫したルールと落ち着いた環境を提供することが効果的とされています。一方、「適応がゆっくり」タイプの子どもには、新しい環境に慣れるための時間を与え、穏やかにサポートすることが重要です。また、これらの気質の問題と発達障害の特性とは全く別の概念なのでその点にも注意しましょう。

編集部

気質はその後、どのように変わっていくのでしょうか?

岡先生

繰り返しになりますが、気質は生涯を通じて一定ではありません。成長と共に変化することもあり、子どもの反応に対して周囲がどのように対応したか、そしてそれに対して子どもがどのように応じたかという相互交流を通して気質をコントロールする術を身につけます。このように気質を調整させることで人間は社会に適応する準備が進みます。その過程の中で得られるのが「パーソナリティ(人格)」です。パーソナリティや性格は変化しない、あるいは生まれつき決まっているかのように考えられることもありますが、周囲の環境と触れ合い、交流が進む時間経過の中で少しずつ形を変えるものだと理解しましょう。

編集部まとめ

子どもの性格の基礎である「気質」は、生まれながらにして個々に異なります。気質は特定の基準に基づき、「育てやすい」「適応がゆっくり」「反応が強い」という3つのタイプに分類できますが、単にラベリングするのではなく、これらの気質を理解し適切な対応を知ることで、子ども達の社会との関わり方や感情面の成長を促します。子どもの気質を知ることで、子ども達との関わり方や適切な環境を一緒に考えていく素地を作っていきましょう。

参考文献:

1. Rutter M et al.: Rutter’s Child and Adolescent Psychiatry 6th edition/ 長尾圭造ら(監訳).新版児童青年精神医学.東京:明石書店;2018

2.トドラーの心理学1・2・3歳児の情緒的体験と親子の関係性援助を考える/アリシア・F・リーバーマン(著), 青木紀久代(監修・訳), 西澤奈穂子(監修・訳), 伊藤晶子(訳). 東京:福村出版; 2021

近くの小児科を探す