(左から)三浦宏規、川平慈英

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ミュージカル『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』が2024年5月18日(土)から東京・日比谷シアタークリエで開幕する。

才能はあるが夢を見失った青年と70歳を過ぎて夢を見出した男とのバレエを通して生まれる絆と成長を描いた物語。2016年に韓国のポータルサイト「Daum」でWEB漫画の連載が開始され、Netflixでもドラマ化されて話題となった本作は、2019年に韓国文化体育観光庁傘下のソウル芸術団によりミュージカル化。今回、劇団KAKUTAを主宰する桑原裕子を上演台本・演出に迎え、初めて日本版が上演される。

一流バレエダンサーを目指すイ・チェロク役を演じるのは、舞台『千と千尋の神隠し』でハク役を務め、舞台『キングダム』信役で主演を果たし、ミュージカル『のだめカンタービレ』での千秋真一役の好演も記憶に新しい、三浦宏規。そして、幼い頃からバレエを踊ることを夢見ながら断念し、郵便局員を定年退職後、一度は諦めていた想いを叶えようとするシム・ドクチュル役を演じるのは、ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』の演技で第45回菊田一夫演劇賞を受賞し、NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』やオリジナルミュージカル『カラフル』など大作・話題作に出演している川平慈英。

今回が初共演となる三浦と川平に稽古の様子や作品の魅力を聞いた。

「エポックメイキングなミュージカルになる」

ーー出演が決まって、お稽古が始まっています。今どんな心境か教えてください。

三浦宏規(以下、三浦):すごい作品が出来上がるかもしれないと思って! まだ稽古が始まって2週間も経たないぐらいなんですけど、本読みの段階から、すごい作品が生まれようとしているのかもという期待感が高まっています。今はシーンの演出をつけていただいている段階なので、全体像が分かるのはまだ先ですが、毎日ドキドキしています。

川平慈英(以下、川平):ね! 僕、本読みであんなに涙があふれてきたことなんてないよ。いや、年々涙もろくなっているとは思いつつも、「慈英、何でそんな泣いているんだよ」って自分で思うほど(笑)。普通のお稽古なんですけどね。宏規くんと目線を合わせて歌う歌があるんですけども、特に泣かせるような状況でも歌詞でもなく、ただ明るい曲なんですけど、もう涙があふれるんだよなぁ。

三浦:やっぱり音楽の美しさからですかねぇ?

川平:うん、メロディの強さというか、琴線に触れる圧倒的なメロディ力というか。僕らキャストがビービー泣いてはいけないと分かっているんですけども……人間って我慢しているときによりこみ上げてくるものじゃないですか。これから稽古でまだまだ悪戦苦闘すると思うんですけども、なんか浄化される話なんですよ。

三浦:そうですね、確かに浄化される。

(左から)三浦宏規、川平慈英

川平:お稽古はセリフや歌詞を覚えたり、段取りを間違えてはいけなかったり、いろいろテクニカルなことのストレスがあるじゃないですか。でもそういうのが、浄化されるんですよ。

三浦:本読み稽古は基本的にみんなで台本を読むんですけど、ポイントポイントで本から目を離して、会話している人物を見たりもするんですね。それで、最後のシーンで慈英さんを見たら……もうセリフが喋れないし、見られない(笑)。それぐらい、僕はこのストーリーが心にぶっ刺さっています。

バレエが題材のミュージカルということもあって、自分にはとても親近感のある話というのもあるのかもしれないですけど、それを抜きにしてもいろいろな人の心が揺さぶられるストーリーだと思います。老若男女に楽しんで観てもらえる作品になる気がしますね。

川平:うんうん。お客様も「あ、あの人は私だ」とか「家族/肉親の○○を思い出す」とか思ったりして、自分が当事者になれるような展開だからね。こんなに勇気をもらえる作品はなかなかないなと思うよ。……(ドクチュルの妻役である)岡まゆみさんとのシーンなんて……あああ……と思ったら、プロデューサーも演出家も泣いているんだから!(笑)

三浦:プロデューサーさんはもっと達観した目で見てくれているのかと思ったら(笑)。あんなに泣いているの、僕、初めて見ましたよ(笑)。

川平:嗚咽していたよね。まぁ、それに甘えてはいけないんですけど、丁寧に作っていけば、エポックメイキングなミュージカルになると思うし、なってほしいよね。

三浦:はい。本当にそう思います。

「宏規くんの代表作になってほしいし、なるであろう」

ーー最初にお一人で脚本を読んでいたときは、そこまで泣いたわけではなかったのでしょうか?

三浦:僕は泣きました。で、実際に人の声で本読みをしたら……もう耐えられない。ここから稽古が後半になったら、心と身体が保つか心配ですよ(笑)。

川平:また宏規くんの感情表現がね、圧倒的なエネルギーとパッションがあって、感受性もカラフル。僕はそれをいただいて、また返すわけですけど、そのキャッチボールができるのが本当に楽しみ。いやぁ、この作品が宏規くんの代表作になってほしいし、なるであろうと思う。

僕が彼を見て、夢や勇気、もう1回生きる喜びや生きるパワーをもらえるように、そのままお客様にも「生ききるって素晴らしいことなんだ」というエネルギーが伝われば、きっとすごく癒される作品になるんじゃないかな。今は、人と人の距離とかさ、いろいろ難しい時代じゃないですか。なかなか寛容になれない社会だけども、この作品を通じて、寛容であることの素晴らしさや大切さ、自分の大切な人や関わりを持っている人に尽力することの素晴らしさなんかも出せたらいいと思います。

(左から)三浦宏規、川平慈英

ーー三浦さんも川平さんからもらうものはありますか?

三浦:慈英さんとはご一緒するのは今回が初めてですけど、昔から大好きな俳優さんですし、憧れていました。今回、チラシに二人で写っているのも不思議な感じがしますし、こういう“バディもの”で慈英さんとタッグを組んでいることにも喜びを感じています。

僕はチェロクという役でバレエをやっている役ですけど、話としてはもうこれはドクチュルのお話なので! 慈英さんを見て、僕は結末を知っているからこそもう見ていられないというか……今は明るいシーンを作っているんですけども……。

川平:しかも演出家のバラさん(※桑原さんのこと)も伏線を散りばめてね。「あ、あれはあそこから始まっていたんだ」ってね。ぜひリピートしていただければ分かると思います。

三浦:そうですね、作りが細かいですよね。

十八番を封印して、老いをどう表現するか

ーーそれぞれのお役について、改めて共感する部分や今課題に感じている部分はありますか?

三浦:ほぼ共感なので、逆にどこがと語るのは難しいんですけど……チェロクにとってドクチュルの存在は本当に大きかったと思うんですね。お母さんが病気で、お父さんも原作では過干渉なんですけど、今回の舞台ではその逆で父親は息子を放置していて、興味がないという設定なので、すごく孤独に生きてきた人物なんです。

そしてドクチュルと出会って、バレエを教えることになり、最初は煙たがっているんですけど……ドクチュルは、というかもう慈英さんなんですけども(笑)、前向きなエネルギーがあって。70歳でバレエを始めるという設定なので自分の身体や老いとも戦いながらも、明るく、今までのやってきたことも全部取っ払って、ただまっすぐに希望を持って生きている。

ドクチュルはチェロクを見て勇気をもらった、生きる希望になったと言うんですけど、それは逆も同じ。僕側としてもドクチュルを見て「僕もやらなきゃ」と強く思います。……実際、ストーリー上はまだそう思っちゃいけないところ、つまり「このじいさん、面倒くさいな」と思っているところですら、僕はもう慈英さんのドクチュルに心動かされているので(笑)。

慈英さんのドクチュル、可愛いんですよ。すごくチャーミングに役を作られていて、その姿を見ると、僕も頑張んなきゃいけないという気持ちになる。役としてそう思っているのか、自分自身として思っているのか分からないぐらい、役に入り込みすぎていますけど……でもドクチュルの存在が彼にとって大きかったことは確かですね。

川平:僕は今、バラさんと一緒に、どこまで老いというのを表現するのか考えています。僕は今年で62歳になりますが、世の中のイメージ的に僕は「元気」とか「ムードメーカー」とか「陽」じゃないですか。死にはしないですけど、どちらかというと消えかかっていくような70歳のおじいさんをどう演劇的に表すか。特にバレエを始めたばかりのおじいさんですからね、どうそれを見せていくか。

僕はこれまでミュージカルをずっとやってきて、「どうだ! 年を重ねてもこんなに踊れるぜ!」という方向の見せ方ばかりだったから。それが今回禁じ手となるわけですよ。最後、どこまでチェロクとのコラボになるのか……。そこはワクワクよりも、どこまで自分が表現できるかなと思っているところです。

確かに『ビッグ・フィッシュ』で老けた役はあったんですけど、全編ではなかったのでね。今回は徹頭徹尾おじいちゃんですし、今まで僕が十八番としていたもの、例えばテンポのいい喋り方とか、それらを一旦封印していかなくてはいけない。そこはまだまだ僕が慣れないところで、苦戦しています。まぁ、かといって「本当におじいちゃんに見えた」とはしたくないんです。70歳でも元気な人はたくさんいますから。そういうことも含めて、どう老いていく老人を見せられるかが課題ですね。

(左から)三浦宏規、川平慈英

離れたからこそ分かった 「バレエが自分の軸だ」と

ーー川平さんはタップダンスがお得意なイメージが強いのですが、バレエの経験はどれほどあられるのですか?

川平:昔、ヒップホップやジャズを学んでいたんですけど、ジャズの先生も最初にちょっとバレエをやるんですよ。いやぁ、バレエは嫌いだった(笑)。タイツ履いてさ、なんでピルエットも難しい回り方をするんだろうってさ。ジャズの方が格好いいじゃん! と思っていた。素晴らしいバレエダンサーを見ると「すごいな」とは思っていたけど、いざ自分がやるとなったら……毛嫌いしてたジャンルでしたね。だから今回、絶対に踊れなくてはいけない役ではなくてよかった(笑)。

今回、事前にバレエレッスンをしてもらったんですけど、身体のラインとか姿勢が良くなるのかな? 腰痛がちょっと楽になって。レッスンの後に腰痛がちょっと軽減されて、リハビリにいいんだと気づきました(笑)。

三浦:あはは、バレエ様様じゃないですか(笑)。

川平:とはいえ、僕も若くないのでね。本番が始まったらとにかくコンディション! 喉と体とコンディションを大切にしたいと思います。

ーー三浦さんは5歳からバレエをやられていますが、改めてバレエに魅せられる理由は。

三浦:なんでしょうね。もう本当に好きなんですよ、バレエが。5歳から自分の意志で始めて。14歳ぐらいまでバレエ一筋でした。舞台の活動を始めて、バレエから少し離れて他のジャンルにも触れたことによって、バレエに対する偏見や「バレエが苦手」という人の気持ちが分かるようになりました。一方で、バレエの美しさや格好よさもより感じているんですよね。

自分で言うのもアレなんですけど、僕、この10年ぐらいのブランクの間に自分のバレエに成長を感じているんですよ。バレエは基礎が大事だから、バーレッスンをずっとやっていなくてはいけないし、この『ナビレラ』への出演が決まってからなおのこと丁寧にレッスンを重ねてきたんですけど、それにしてもいろいろなことを吸収したことによって、表現の仕方が自分的にはすごくいい方向に変わったような気がしていて。

本当はバレエだけを突き詰める人生が良かったんです。でも怪我をして、そういうわけにはいかなくなって、舞台の世界に来て、こちらの世界でやっていきたい! という夢ができて、今に至るんですね。本来だったらバレエの道に進むはずだった自分が、違う世界に行って、いろいろなものを吸収しているうちに、またバレエと関わるようになって、ますますバレエが好きになって。バレエが自分の軸だなと改めて思いますし、今、とても幸せですね。

(左から)三浦宏規、川平慈英


 

■三浦宏規
ヘアメイク:AKi 

■川平慈英
ヘアメイク:森川英展(NOV)

■三浦宏規・川平慈英
スタイリング:小田優士

■三浦宏規衣装クレジット
KOH(03-6416-0897)


取材・文=五月女菜穂      撮影=山崎ユミ