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2024.4.23(Tue)XAI 2nd Live 『xaichicpanic!』@Spotify O-WEST

しとしとと雨が降る中、会場となるSpotify O-WESTの前には開場を待つ観客が大勢集まっていた。

XAIの2回目となるワンマンライブ『xaichicpanic!』。キャリア7年を迎えている彼女のワンマンがまだ2回目というのも少し驚きがあるが、コロナ禍も超え、それだけの時間を溜め込んだ彼女のエネルギーが放出された素晴らしいライブだった。

開演前の客入れBGMからXAIの世界感が垣間見れる。Aiobahnの「Heart 2 Heart (feat. 茶太)」、菅野よう子の「星と翼のパラドクス (feat. Chelly)」、やなぎなぎの「Tachyon」、ORIGAの「Inner Universe」とインターネットミュージックとアニメソングが好きな人間ならどこか「ニヤリ」としたくなる選曲のおかげで、会場は既に心躍る空間。心のビートが少しづつ高まるのを感じていると、静かに舞台は暗転、そして轟音。宇宙船の内部のようなSEと共に、XAIの時間が始まる。

一曲目は「To the mothership」。どこかチリチリとした緊張感をまといながら登場したXAIは、それでもステージで歌える喜びを抑えきれないように笑顔を見せる。確実に本人の発するスケール感は大きくなっている。

撮影:nishinaga "saicho" isao

撮影:nishinaga "saicho" isao

「XAIです、今日はよろしく!」

一声発して「THE SKY FALLS」へ。映画『GODZILLA 決戦機動増殖都市』主題歌としてドロップされたこの曲も、ライブで聴くとぐっと曲の強さが増す。リリースから6年、曲も本人も進化しているようだ。

流れで「JINX」「Waves」と楽曲が続くなか、とにかく笑顔で楽しそうなXAIを見ながら、彼女のこれまでの歩みを思った。

説得力のある低音、伸びのあるファルセット、歌う言葉一つ一つに意味を込められる歌唱力。XAIはありあまるほどの才能を持つシンガーだと思う。だが、その才能を今まで使いこなせていなかったような気もしていた、むしろその才能と「歌う」という思いに振り回されていたような気すらする。

ライブ直前にXAIにインタビューを行ったが、地に足をつけて立てるようになるまで凄く時間がかかったと語っていた、それは実際そうなのだろう。このあと歌われた最新シングル「Rain Bird」は、前に発表した「live and die」から実に5年の間が空いている。これほど耐えたシンガーも少ないのではないかと思えるくらいの時間をXAIは耐えてきた。その長い期間を支えたのは「歌いたい」という思いなのだろうし、重ねた時間は確実にXAIの血肉となり、ステージに結実していた。強い力には正しい使い方が必要で、それを身に付け出しているようなパフォーマンスの側には、解き放たれた笑顔がある。

撮影:nishinaga "saicho" isao

撮影:nishinaga "saicho" isao

「SILENT BIRD」では激しいリズムもしっかりと乗りこなし、体でビートを捉える姿は頼もしさすらある。続く「Feeling Alive」でもスケール感のある歌唱を見せつけ、満員の客席もそれに呼応して跳ね続ける。

そしてアニメーション映画『GODZILLA 星を喰う者』主題歌であり、GODZILLA三部作の最後を飾った「live and die」の歌唱を聴いて、やはりどこか神秘的な印象を持って現れたアーティストだったのだと改めて思う。だが今日のXAIは確実にそこにいて、歌うことを楽しんでいる、ようやく本当のXAIという人間に触れることが出来たような感覚。

MCでは作曲家・澤野弘之との出会いを語り、そこから映画『七つの大罪 怨嗟のエジンバラ 前編』主題歌である「LEMONADE」をアコースティックスタイルで歌う。澤野の楽曲らしくソリッドでスリリングな楽曲もこの編成だと、どこかシティポップに聴こえるような心地よい軽さで降り注ぐ。改めて楽曲を捉える掴み方が抜群に良い。握りしめるでもなく、撫でるでもなく、まるでポケットからスマホを手に取るように、軽やかに自分の歌を楽曲に乗せていく。

撮影:nishinaga "saicho" isao

TVアニメ『薬屋のひとりごと』第9話挿入歌として話題になった「明日を訪ねて」から、ファンクラブのカバー楽曲リクエストの一位となったAimerの「StarRingChild」を歌った時は歓声が上がった。ギターを奏でるGLIM SPANKYの亀本寛貴のどこか枯れた哀愁のある音色と共に歌われるそれは、Aimerとはまるで違う、どこか切実さを感じる「StarRingChild」になっていた。自分事として歌を届ける姿は感動を誘う。

歌い終わってからの暗転中、XAIがギターを取った瞬間に客席から「頑張れ!」と声が飛ぶ、それに「早いよ!」と切り返すXAI。昨年、下北沢のライブハウスで対バンに出演した時に披露して、緊張のあまり弾き直しをしたというGirls Dead Monsterの「一番の宝物」。この日一番XAIが緊張していたのがこの一曲だと思う。隣でサポートをする亀本のギターと比べてしまえば、それは拙いのかもしれないが、それでも必死に伝えようという歌と演奏が胸を打つ。歌いきった姿にはかすかな疲労感すら感じたが、それすらも自身のリベンジを果たすという意味では必要なものだったのかもしれない。

「5年ぶりのリリースということで、たくさん聴いていただけたらと思います」

ここで前述の「Rain Bird」を遂にドロップ。初めて聴く生歌での「Rain Bird」の迫力は素晴らしかった。「たった一つ願いが叶うなら、迷わないで貴方を見つけたい」という歌詞が今のXAIそのものの言葉のように響く。目を見て歌える喜びがライブの熱狂を加速させていく。

撮影:nishinaga "saicho" isao

撮影:nishinaga "saicho" isao

そして今のXAIを語るなら、『ヘブンバーンズレッド(以下ヘブバン)』、そしてShe is Legendの存在は外せないと思う。主人公である茅森月歌のボーカルをXAIが担当していること、その派生として生まれたラウドロックユニットShe is Legendで、鈴木このみとダブルボーカルを担当していることは、彼女のシンガー人生の中で、間違いなくエポックメイキングな事なのだと思う。

そこでXAIと出会い、ファンになった人も多いだろうし、彼女自体もステージに立つ、楽曲を歌うという経験を加速度的に積んでいる。そして『マクロスF』のシェリル・ノームに憧れてシンガーになった彼女は今、茅森月歌というキャラクターと運命共同体として歌い続けている。

インタビューでXAIは「茅森月歌は、私にとっては一つになった存在ではなく、超えなきゃいけない、私の前にいる存在」と語ってくれた。続いて披露された「贅沢な感情」で、XAIはまた茅森の背中を垣間見たのだろうか? この日は茅森月歌ではない、XAIが自分自身の歌として「贅沢な感情」を表現していた。それを聴いた茅森はXAIに振り返ったのか、そんな妄想が脳裏に浮かぶ時間。もはやアニメ、ゲームのコンテンツの楽曲を担うシンガーたちにとって、三次元も二次元も大した代わりはないのだと痛感する。麻枝准の創作物である茅森月歌は間違いなくそこにいて、存在を感じる媒介としての音楽や声がある、ただそれだけなのだろう。

本編ラストはTVアニメ『アニマエール!』挿入歌「LOVE&JOY」で楽しく激しい時間。物販で販売されていたペンライトを本人も振りかざし、観客と一体化して思い切り楽しんでいた。何度も書いているが、本当にこの日のXAIは終始笑顔で、それを抑えきれないのが手に取るようにわかるくらいだった。「歌が好き」と「歌える幸せ」が一致した空間は熱くも心地よい。

撮影:nishinaga "saicho" isao

アンコールのタイミングではファンの音頭で「Rain Bird」のサビをリフレインして歌うという時間があった。どうやら突発的に行われたものらしく、最初は恐る恐る歌うか…というものが、2度、3度と歌うたびに声があってくるのが感動的ですらあった。こういうものはなかなか見られるものではない。その後のアンコールも相当な温度感で割れんばかりの声量が響き渡る、こんなにもファンの熱量が高いというのがどこか嬉しい。

撮影:nishinaga "saicho" isao

ライブシャツに着替えてのアンコール一曲目はヘブバンから「Before I Rise」。ここでも弾き語りを披露したが、XAIが天性で持つ、身を引き裂かれるような切なさを内包した声に、会場には涙を浮かべる観客の姿も。残り少くなってきたライブの時間だが、XAIの

「今日はXAIの2ndライブということで、やっちゃっていいだろうということで特別なカバーを!」

という宣言から繰り出されたのは「Alchemy」。元々は『Angel Beats!』に登場するGirls Dead Monsterの楽曲だが、今年ヘブバンで実施されたヘブンバーンズレッド × Angel Beats!のコラボイベント第2弾「Beautiful the Blood」の中でShe is Legendも歌唱している。とは言えこの楽曲は観客も予想外だったらしく。曲名を聞いた瞬間この日一番の大歓声が上がった。勿論演奏中も爆発するように盛り上がるO-WEST。

ここまで楽曲の力も借りて舞い上がるように歌い続けてきたXAIがこの記念すべきライブの最後に選んだのは、自身のデビュー曲「WHITE OUT」。完全に一体化して“出来上がった”フロアに、一気に求心力と世界観を叩きつけてくる。一発でこれを提示出来る今のXAIは、本当の強さを身に着けたと実感できる。

撮影:nishinaga "saicho" isao

ライブが終わり、思ったのはシンガーとしての「ライトスタッフ」をXAIが手に入れた、ということだ。ライトスタッフとは正しい資質、姿勢という意味の造語だが、長い助走を超えてきたXAIにはその資質が遂に身についたのだと思えるライブになっていた。

歌うのが好きなだけでこの世界に飛び込んできた少女は、臥薪嘗胆の時期を超え今飛び立とうとしている。だが決して気負うことも力むこともない。帰り際、何度も何度も投げキッスを飛ばして笑顔で去った今のXAIは微笑みを絶やさず100分間歌い続けた。余韻も甘く感じるような充実したライブをファンに投下して、なお楽しめる今の彼女は恐ろしく軽やかで、そして“強い”。

撮影:nishinaga "saicho" isao

レポート・文=加東岳史 撮影:nishinaga "saicho" isao