2017年に引退した陸上選手のウサイン・ボルトは「100m:9秒58」「150m:14秒35」「200m:19秒19」という3つの世界記録を持っています。走りの速さには遺伝的な部分もあり、誰もがウサイン・ボルトになれるわけではありませんが、本人がコントロール可能な部分もあるということで、テネシー大学で運動科学を教えるドーン・P・コー准教授とエリザベス・ウェブスター准教授がその要因やコツを明かしています。

Why are some people faster than others? 2 exercise scientists explain the secrets of running speed

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人が走る速さを決める要因は「どういった筋肉を持っているか」にあります。人間の体にある600以上の筋肉は、ざっくりと「速筋」「遅筋」の2つの筋肉繊維の組み合わせでできています。走りに関わってくるふくらはぎの代表的な筋肉である下腿三頭筋の場合、速筋の腓腹筋と遅筋のヒラメ筋で構成されていて、腓腹筋はスプリントやジャンプに、ヒラメ筋はウォーキングやジョギングで使われます。

「速筋」は体を素早く動かすのに役立つ筋肉で、スプリンターは速筋が豊富です。ただし、瞬発的な動きには強いものの、疲れやすいため、トップスピードで走れる距離はそれほど長くありません。

一方の「遅筋」は疲れにくく、長く走るのに役立つ筋肉で、長距離ランナーや競技サイクリストは遅筋が豊富です。

コー准教授らによれば、それぞれの筋繊維をどれぐらい持っているかというのはほとんどが遺伝子で決まるものだとのこと。ただし、走りの速さはすべてが先天的なわけではなく、トレーニングによって鍛えられる部分があります。



まず前提として、コー准教授らは「身体能力とは筋肉だけではなく脳も必要」と説いています。骨格筋は脳にコントロールされて動作を実行するからで、最高のランニングテクニックを体に教え込むには、まず脳が必要というわけです。

そして求められるのは、全身を使ったランニングフォームの改善です。正しい姿勢で背筋を伸ばし、経済的なストライドで、前に出した足をスピードが落ちる前に降ろし、腕は脚の振りとは反対に振ること。つま先立ちになり、地面が両足から離れる飛行時間を最大にすること。こうして正しい走り方をすると、筋肉が連動して大きな力を生み出すので、より速く走れるようになります。

ただ、トレーニングに関しては「誤った神話」もあるということで、コー准教授らは以下の4つの間違いを挙げています。

1:より速くなるためには、できるだけ速く走らなければいけない

これは間違いで、走りが速くなるために全力疾走する必要はないとのこと。また、走りの合間に取る小休止も有効です。

2:速くなるためには重いウェイトを持ち上げられなければならない

これも間違い。ウェイトを使わないというわけではありませんが、必要なのは特定の動作をうまく行えるようにするための機能向上トレーニングで、ウェイトは中程度か自重でOK。ランニングに重要な筋肉を鍛えるトレーニングとしてはプランク、ランジ、ステップアップ、ジャンプスクワットなどがいいそうです。

3:速いランナーになるためには、若いうちからランニングに特化する必要がある

若いうちから1つの運動に特化してしまうと、能力を制限することになりかねないとのこと。たとえば、サッカーの動き方や持久力が走りに役立つことが出てくるように、いろいろな運動がランニング能力向上につながる可能性を秘めています。

4:トレーニングは楽しくない

トレーニングといっても、友達とのかけっこや、ラダーを使ったフットワーク強化、障害物走などいろいろな形があり、モチベーションを高めるには健全な競争が一番だとのこと。コー准教授らは、大切なのは楽しみながらトレーニングすることと。ランニング速度を伸ばすようなアクティビティに定期的に参加することだと述べました。