スズキの世界戦略車種「スイフト」が2023年12月、7年ぶり5世代目となるフルモデルチェンジを果たしました。世界累計販売台数は900万台ともなり、スイフトはまさにスズキを牽引するグローバルカーとして位置付けられています。新型となったスイフトはZ世代を意識した作りになっていると感じました。その実力を、試乗を通して体験レポートします。

↑新型「スイフト」ハイブリッドMZ(2WD・CVT)

 

■今回紹介するクルマ

スズキ スイフト(試乗グレード:ハイブリッドMZ/2WD・CVT)

価格:216万7000円(税込)

 

目指したのは“スイフト=走り屋のクルマ”からの脱却?

スイフトは2000年に登場した初代からコンスタントに売れ続ける根強い人気を保ってきました。それだけに5代目となる新型もキープコンセプトとなったようで、一目見ただけでは先代と大きく変わらない印象を受けます。しかし、よく見ると新型ならではの進化が随所に見られます。

 

実はここに新型に課せられた大きな命題がありました。商品企画の担当者によれば、メインターゲットであるZ世代から少し上の子育て世代にアンケートを取ったところ、“スイフト=走り屋のクルマ”という印象をもつ人が多かったそうです。これは走り屋をイメージしがちな“スイスポ”がスイフト全体の約半分に迫っていたことが影響しているとも言えます。そのため、「普通に乗れる乗用車が欲しい」人たちからスイフトは敬遠されることが少なくなかったらしいのです。

 

一方でファミリー層のウケを狙うばかりに柔なイメージを作れば、今度は走りを期待するユーザー層が離れてしまいかねません。そんな悩ましい思いの中からこのデザインは誕生したというわけです。

 

エクステリアではヘッドライトとフロントグリルに先代の面影を残しつつも、先代の丸みを帯びていたデザインから直線基調のシャープなボディラインへと変更されています。特に劇的に変わったのがボンネットで、新型は貝殻のように全体を覆うようなクラムシェル型ボンネットを採用。そこからボディサイドへ回り込ませることで、新たなスイフトとしての個性を発揮しています。

↑タイヤはブリヂストンのエコタイヤ「エコピア」を組み合わせる。サイズは185/55R16

 

フロントグリルはクロームメッキとピアノブラック調を組み合わせた凝った造りで、ヘッドランプにはL字型のポジションランプを内蔵。リアテールランプも上質感を伝えるLEDを採用しています。

↑ヘッドランプと組み合わされたLEDポジショニングランプ

 

インテリアは先代のドライバー中心設計の機能性を継承しつつ、インパネとドアトリムをデザイン上でつなげる一体感を演出。インテリアカラーはブラックを取り入れながらも、全体を明るいグレー系でまとめるなどして高品質感と同時に軽快感も生み出しています。特筆すべきはセンタークラスターを運転席側に向けることでドライバーの操作性を高めていること。電動ブレーキが採用されたことも大きなプラスポイントと言えます。

 

【インテリアをギャラリーでチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

新開発1.2LエンジンとCVTの組み合わせでリニアな加速感

パワーユニットは新開発の直列3気筒1.2Lガソリンエンジンで、最高出力82PS、最大トルク108Nmを発揮。これまでのスイフトと同様に、モーター機能を持たせた発電機「ISG」と専用リチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドとなっています。スズキによれば、発電効率と減速時の回生エネルギーを高め、より省エネルギーを図った設計になっているとのことでした。

↑エンジンは新開発「Z12E型」直列3気筒1.2Lガソリンエンジン。最高出力82PS、最大トルク108Nmを発揮する

 

↑モーター機能を持たせた発電機「ISG」と専用リチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドを採用

 

トランスミッションは高効率化と軽量化を進めたCVTを採用。これが主力となるのはいうまでもありませんが、見逃せないのはラインナップに5MTを揃えたことです。スズキによれば、マイルドハイブリッドを組み合わせるのは同社として初めてのことになるそうです。スイスポまでの走りは求めないけど、少しはスポーティな走りも楽しみたい。そんなユーザーにはうってつけの一台となるのかもしれません。

 

プラットフォームは先代から引き継いだ高剛性の「ハーテクト」を採用しつつも、実走行でのテスト走行を繰り返すことで実用域でのフィールを向上させたとのこと。サスペンションは捻り剛性を高め、コーナリングでの車体の傾きを抑えて高い操縦安定性を実現したそうです。また、車体の接合部に減衰力を持たせた接着剤を採用したことや、ダッシュパネルの板厚に厚みを持たせたるなどして騒音対策を徹底。これにより先代よりも高い静粛性を確保したということです。

 

リニアな加速感と高いライントレース性がスポーティさを発揮

走り出してすぐにわかったのが、CVTにありがちなアクセルを踏んだときの加速とエンジン音のずれがほとんどなかったことです。アクセルを軽く踏んだだけでスルスルッと走り出し、そのまま気持ちよくエンジンを回していくことができます。CVT嫌いになる人の多くは、このラバーバンドフィールを要因としていることがほとんどですが、新型スイフトに限ってはそうした感覚はほとんど感じずに済むのはないでしょうか。

↑新型スイフトを試乗する筆者

 

サスペンションも走り出した直後から、足腰のしっかりとした感触が伝わってきました。ステアリングのフィールもシャキッとしていて、ラインのトレース性も高いために思ったとおりのコースを走り抜けることができます。コーナリングでのロールもしっかり抑えられており、これなら絶対的なパワーがあるとは言えないまでも、十分にスポーティな走りが楽しめるでしょう。このフィールは「明らかに“スイスポ”の血筋を引いているな」と思ったほどです。

 

それと新型スイフトは、先進安全装備であるADAS機能の性能向上が図られていることも見逃せません。スズキの予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」は、ミリ波レーダーと単眼カメラ、超音波センサーを組み合わせたもの。衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートII」では画角、検知エリアを拡大し、交差点衝突回避支援では右左折と出会い頭での衝突を検知してブレーキ作動を支援します。

↑ADAS機能はミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせ、検知範囲を広げるなどして安全性能を大幅アップ

 

特に、ACCには車線中央を維持する「車線維持支援機能」以外に、カーブ進入時に速度を抑制したり、車線変更時に方向指示器に連動して自動で加減速したりする機能も装備。さらに先行車や対向車に眩しさを与えない「アダプティブハイビームシステム(AHS)」や後方車両を検知する「ブラインドスポットモニター」のほか、後退時に接近する車両を検知してディスプレイや音などで知らせる「リアクロストラフィックアラート」を装備して、安全装備での先進性は大幅に高められたと言っていいと思います。

↑ACCは停止までサポートできるよう電動パーキングブレ機を採用。ホールド機能も備わる

 

より元気にドライブを楽しむのに最適な仕上がり

新型スイフトの試乗を終えて感じたのは、全体としてシャキッとしたシャープな走りが楽しめるということです。絶対的なパワー感こそ得られませんが、リニアな加速感が味わえることでアクセルを踏み込んだときのストレスはほとんど感じません。乗り心地にしてもタイトなサスペンションが低速域でこそ若干固さを感じさせますが、トレース性も高くロールを抑えていることで、気張らずとも誰でも気持ちよい走りが楽しめます。

↑シャープなハンドリングとリニアな加速感が好印象だった新型スイフト

 

こうした点からも新型スイフトは、乗り心地重視の世代ではなく、より元気にドライブを楽しむことを普通に感じるZ世代向けに開発されたクルマなのです。これをベースとした“スイスポ”の登場がとても楽しみになってきました。

SPEC(ハイブリッドMZ/2WD・CVT)●全長×全幅×全高:3860×1695×1500mm●車両重量:950kg●パワーユニット:Z12E型エンジン+モーター●最高出力:82PS(エンジン)、3.1PS(モーター)●最大トルク:108Nm(エンジン)、60Nm(モーター)●WLTCモード燃費:24.5km/L(ハイブリッド燃費)

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

撮影/松川 忍