関西で暮らす人は、奈良グルメと聞いて思い巡らすことができるだろう。しかし、名古屋在住の筆者は想像すらできない。あ、「天理スタミナラーメン」と「彩華(さいか)ラーメン」は知っているけど。まぁ、その程度。おそらく関東圏やその…

関西で暮らす人は、奈良グルメと聞いて思い巡らすことができるだろう。しかし、名古屋在住の筆者は想像すらできない。あ、「天理スタミナラーメン」と「彩華(さいか)ラーメン」は知っているけど。まぁ、その程度。おそらく関東圏やその他の地域の方も似たようなものだろう。ただ、人が集まるところには美味しいものを出す店も集まるわけで、それは奈良も例外ではない。今、JR東海では「いざいざ奈良」のキャンペーンで「大和四寺(やまとよじ)」がある奈良県中南部エリアを推していて、先日、筆者も大和四寺巡礼の旅を楽しんだ。その際に立ち寄った老舗の甘味処や人気のカフェなどでいただいたおすすめのスイーツやグルメを紹介しよう。

「長谷寺」「岡寺」「室生寺」「安倍文珠院」を巡る人気コース

大和四寺とは、「長谷寺」(はせでら、桜井市)、「岡寺(おかでら、明日香村)、「室生寺」(むろうじ、宇陀市)、「安倍文殊院」(あべもんじゅいん、桜井市)のこと。

「いざいざ奈良」のキャンペーンのHPによると、「いにしえの宮が置かれ、古来『国中(くんなか)』と呼ばれていた由緒ある地に建ち、古くから厚い信仰を集めています。いずれも創建1200年以上の歴史を誇り、国宝や重要文化財に指定される文化財を多く所有しています」(同HPより)という。「奈良大和四寺巡礼」として、人気の観光コースとなっている。

明治11年の創業時から変わらない「おだんご」

旅の起点としたのは、橿原(かしはら)市にある近鉄大阪線・橿原線の大和八木駅。駅前に是非訪れてほしい店がある。それが『だんご庄 八木店』。本店は同じ橿原市内の近鉄南大阪線坊城駅前にあり、創業は1878(明治11)年。

ここで楽しめるのは、木桶に入っただんごに創業者が苦心の末に完成させた蜜と上質のきな粉をからめて一本一本手作りでつくられた素朴な味わいの「おだんご」(1本90円)。

煎りたてのきな粉の香りとふんわりしこしことした口あたりが秀逸

出来立ては言うまでもなく、時間が経って蜜がきな粉に染み込んだだんごもまた違った美味しさがある。何よりもひと口味わうごとに歴史ある町に来たという実感が湧いてくる。

おだんごの製法は140年以上前から変わっていない

『だんご庄 八木店』
住:奈良県橿原市内膳町1-3-8
電話:0744-25-2922
営:9時半〜17時(売切れ次第終了)
休:火曜、第1・第3水曜

『だんご庄 八木店』

長谷寺の参道で食べ歩きにぴったりの「草福餅」

長谷寺は、この大和八木駅から東に約12kmの桜井市初瀬にある。686年の創建。日本最大の観音像で知られ、四季の花々が咲くことから「花の御寺(みでら)」としても有名だ。

最寄り駅は、近鉄大阪線長谷寺駅で徒歩15分。参詣を終えて参道を歩いていると、蒸し器から湯気が上がっているのを見かけた。『総本舗 白酒屋』の名物「草福餅」に使うもち米を蒸していたのだ。しかも、今から店先でお餅をつくというので見学させてもらうことに。

つき手と返し手の息がぴったりで、臼の中のもち米とヨモギはあっという間にお餅になった。もう、見るからに美味しそう!

店主の谷口裕武郎さんによると、「草福餅に使うヨモギは春先が旬。今がいちばんヨモギの香りを楽します」という。

製造工程において人の力による杵づきを加えることでお餅本来の粘りと食感が生まれるとか

草福餅はあっさりと仕上げたこし餡を職人がひとつずつ手包みした「青」(1個150円)と、小豆本来の風味を楽しめる粒餡を包んで鉄板で焼き目をつけた「お焼き」(1個150円)の2種類を用意。焼いた草餅は食べたことがなかったので、「お焼き」を食べさせてもらった。

出来たての草福餅を鉄板で焼く「お焼き」

焼き目がついた部分は何とも香ばしく、ヨモギの香りが鼻からスッと抜けていく。粒餡の甘さも見事に調和している。旅で歩き疲れた身体がすっかり癒やされた。

焼くことでヨモギの香りがさらに引き立つ

『総本舗 白酒屋』
住:奈良県桜井市初瀬746
電話:0744-47-7988
営:10時〜17時
休:不定休

『総本舗 白酒屋』

写真界の巨匠・土門拳が愛した老舗料理旅館自慢の山菜料理

この日のランチは、室生寺の近くで。宝生寺は、長谷寺からさらに東へ20kmほど。車で30分ほどの宇陀市室生にある。681年の創建と伝わる。女人禁制だった高野山(和歌山県)に対し、古くから受け入れていたことから「女人高野」として知られる名刹だ。

入ったのは、1871(明治4)年創業の老舗料理旅館『橋本屋』。ここは、寺院や仏像を被写体にした作品で有名な写真界の巨匠、土門拳(1909〜90年)が室生寺を撮影するための定宿として利用していたという。1939(昭和14)年に初めて訪れ、室生寺の撮影は土門のライフワークとなった。写真集「室生寺」や「日本の寺─室生寺」、「女人高野室生寺」は写真を学んだ者にとっては教科書のような存在だ。

さて、『橋本屋』の名物は大和芋を使ったとろろが付く山菜料理。筆者がいただいたのは煮合わせと山芋すりおろし、白和え、なす田楽、しめじ酢の物、こんにゃくとうど、わらびのからし和えの6品の小鉢にとろろ汁と香のもの、ご飯が付く「あじさい」(2300円)。

小鉢6品にとろろ汁と香のもの、ご飯が付く山菜料理「あじさい」。ご飯のおかわりは無料

どれも山菜や野菜本来の滋味が口いっぱいに広がる。関西らしく全体的に味付けが薄いため、若い頃に物足りなさを感じていたかもしれない。しかし、五十路となった今ではこの素朴な味わいがたまらないから不思議。年齢とともに味覚も変わっていくのだ。

『橋本屋』
住:奈良県宇陀市室生800 室生寺門前
電話:0745-93-2056
営:10時〜16時
休:不定休

『橋本屋』

江戸時代の町並みが残る「今井町」のオススメ店

最後に紹介するのは、今、奈良でもっとも注目されている橿原市の今井町。大和八木駅から、今井町の中心まで、徒歩で20数分。まるでタイムスリップしたかのような江戸時代の町並みが残るエリアだ。

今井町の町並み。観光客が少ないので撮影に集中できる

町内の建物の半分以上が伝統的建造物で、その8割が今も江戸時代の様式を保ち、岐阜県白川村の白川郷や金沢市内の4地区などと同様に「重要伝統的建造物群保存地区」として国に指定されている。

町並みのどこへカメラを向けても「絵」になるにもかかわらず、まだ情報が行き届いていないのか外国人も含めた観光客の少なさに驚いた。間違いなく奈良観光の穴場といえるだろう。そんな今井町には町家をリノベーションしたカフェやレストランも沢山あり、その中でも人気の2軒を紹介しよう。

まずは、2022年8月にオープンした『cafeたまゆら』。ここでいただいたのは、「たまゆらの万華鏡〜飲むチーズケーキ〜」(1100円)。

「たまゆらの万華鏡〜飲むチーズケーキ〜」。チーズケーキそのものの味に誰もが驚く

カラフルなゼリーとクリームチーズのソース、イチゴ、ケーキクラムが層になっていて、カップの表面には万華鏡で覗いた景色のような美しい模様が描かれている。SNS映えするので、注文した客の大半は写真を撮るという。

穴の大きなストローでしっかりと混ぜて吸い込んでみる。おっ、このチーズのコクや酸味はまさにチーズケーキではないか!

ストローでかき混ぜて模様が変化していくところを動画撮影する客も多い

橿原市は飛鳥時代から平安時代、牛乳を特殊な方法で長時間かけて煮詰めて作るチーズのような乳製品、「蘇(そ)」を貴族たちが食していたことから、日本におけるチーズの発祥地といわれる。橿原市内には「蘇」にちなんだチーズグルメを提供する店が数多くあり、ここ『cafeたまゆら』もその一つ。

『cafeたまゆら』
住:奈良県橿原市今井町4-3-22
電話:0744-29-7077
営:11時〜17時(土日祝は11時〜18時)
休:火曜、水曜(祝日の場合は営業)

『cafeたまゆら』

人気のブックカフェの2号店も歴史の町に

岡山県玉野市にある人気のブックカフェの2号店として2018年12月にオープンしたのが『うのまち珈琲店 奈良店』。壁一面の本棚やカウンターに1500冊以上の本が並び、ゆったりとした時間を過ごすことができる。テーブル席のほか、カウンター席もあるので1人でふらっと立ち寄ることもできるのも嬉しい。

従来のクリームソーダとひと味もふた味も違う「うのまちクリームソーダ」

SNSでバズっているのが、あか(柑橘風味)とみどり(キウイ風味)、き(パイン風味)、すみれ(お花風味)、あお(林檎風味)の「うのまちクリームソーダ」(各800円)。

透明なソーダの下に沈むシロップのグラデーションはまさに宝石。色ごとに風味が異なり、甘すぎず、さっぱりとした後味が特徴だ。

『うのまち珈琲店 奈良店』
住:奈良県橿原市今井町4-3-6
電話:0744-41-6645
営:11時〜18時
休:不定休

『うのまち珈琲店 奈良店』

歴史を感じ、“映え”メニューも楽しむ

奈良グルメの特徴は、老舗と新店の共存。最後に紹介した今井町がそれを体現しているように思えた。

老舗の名物を味わいながら奈良の長い歴史に思いを馳せるのもよいし、スマホやカメラ片手に新店のSNS映えするメニューを楽しむのもよいだろう。

筆者が暮らす名古屋から奈良は電車でも車でも2〜3時間ほどなので、また訪れて見ようと思う。

文・写真/永谷正樹

【いざいざ奈良」×EX会員限定「EX旅先予約」プラン】
JR東海では、2024年6月30日(日)まで大和四寺や周辺エリアを存分に楽しめるEX会員限定の「EX旅先予約」プランを展開中。CMの舞台となった長谷寺と室生寺、岡寺、安倍文殊院の4寺院を代表する仏像のアクリルスタンドと拝観券のセットや、東海道新幹線デザインのミニ巡礼札付きのスタンプラリーキットなどを用意。