「奈良といえば?」という問いかけに、きっと多くの人は「東大寺の大仏」や「奈良公園の鹿」など修学旅行で訪れたことのある定番の観光スポットを挙げるだろう。愛知県在住の筆者もやはり奈良を訪れたのは小学校の修学旅行だった。とはい…

「奈良といえば?」という問いかけに、きっと多くの人は「東大寺の大仏」や「奈良公園の鹿」など修学旅行で訪れたことのある定番の観光スポットを挙げるだろう。愛知県在住の筆者もやはり奈良を訪れたのは小学校の修学旅行だった。とはいえ、あくまでも旅のメインは京都で、奈良はオマケ的な扱いだったのは否めなかった。京都は町並みも寺社仏閣もすべてがきらびやかで思い出に残るからだろう。

「いざいざ奈良」キャンペーンで行く「奈良大和四寺巡礼」

歳を重ねるうちにそれまで見向きもしなかった奈良県のお寺に安置されている仏像に心惹かれている自分がいた。また、修学旅行のコースに入っていなかった橿原(かしはら)神宮(橿原市)とその近くにある神武天皇陵(橿原市)、飛鳥寺の飛鳥大仏や石舞台古墳(明日香村)へ行ったのも40歳を過ぎてから。正直、大仏や鹿のいる奈良市も見どころは沢山あるが、むしろ奈良県中部や南部の方が私は惹かれる。

そんな中、JR東海では「いざいざ奈良」のキャンペーンで奈良県の中南部地域にスポットを当てている。

古くから多くの人々の厚い信仰を集める長谷寺(はせでら、桜井市)と室生寺(むろうじ、宇陀市)、岡寺(おかでら、明日香村)、安倍文殊院(あべもんじゅいん、桜井市)の「大和四寺(やまとよじ)」などを巡る「奈良大和巡礼スタンプラリー」(4月1日から6月30日まで開催、東海道新幹線デザインのミニ巡礼札付き)もキャンペーンの1つ。

長谷寺の仁王門

桜や牡丹、石楠花(しゃくなげ)、天竺牡丹(ダリア)など春の花々が見頃を迎える。そこで今回は大和四寺とそれぞれのご本尊をご紹介。春の旅の参考にしていただければ幸いである。

岡寺の「花手水」(岡寺提供)

NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場する長谷寺

最初に向かったのは、奈良時代に創建された長谷寺。桜井市初瀬(はせ)にある。

「平安時代以降は貴族などが泊りがけで長谷寺を参る『初瀬詣』がブームとなりました。今年の大河ドラマ『光る君へ』でも長谷寺が登場します」と長谷寺の僧侶、瀧口光記さん。

仁王門から本堂までは399段の石段からなる参道「登廊(のぼりろう)」を上っていく。その両側には牡丹が植えられていた。四季折々の花々を目にすることができるため、「花の御寺(みでら)」としても知られる。筆者が訪れた日は、牡丹の花はまだ蕾だったが、これからの季節は訪れた人々を楽しませてくれることだろう。

長谷寺の登廊

399段もの石段は五十路でしかも運動不足の筆者にとって過酷そのものだが、長年にわたって蓄積された「穢れ」が落ちていくと念じながら石段を一段ずつ上る。本堂に着く頃にはすっかり心が洗われたような気がした。

長谷寺の周辺には山桜や染井吉野、八重桜など千本を超える桜が植えられている(長谷寺提供)

初瀬山(標高548m)の中腹の斜面に経つ本堂は何度も建て替えられて、現在で八代目。江戸幕府の三代将軍、徳川家光の寄進によって1650年に造営された。清水の舞台と同様に、長い柱や貫で床下を固定してその上に建物を建てる「懸造(かけづくり)」で、舞台がせり出しているのが特徴だ。

長谷寺の本尊、十一面観音菩薩立像(特別な許可を得て撮影しています)

舞台からの眺望を堪能した後は、いよいよ本尊とご対面。本堂に安置されているのは、高さ10メートルを超える十一面観音菩薩立像(じゅういちめんかんぜおんぼさつりゅうぞう)。6世紀の初め頃に洪水が起こり、琵琶湖のほとりに巨木が流れ着いた。長谷寺を建立した徳道上人(とくどうしょうにん)がそれを貰い受け、万人の幸せを願って十一面観音を造ろうと誓い、729年に完成したと伝えられている。

方形の大盤石という台座に立ち、右手に衆生を救う錫杖、左手に水瓶を持つ姿は威厳があり、思わず手を合わせてしまう。

「日本で最初の厄除け霊場」岡寺の日本三大仏の1つ

長谷寺を後にして向かったのは、「日本で最初の厄除け霊場」として知られる岡寺。長谷寺から南西に約15km、車で30分ほどの明日香村岡にある。

正式名は『龍蓋寺(りゅうがいじ)』。その名は人々を苦しませていた龍を義淵僧正が退治して、寺の池に閉じ込めたという伝承が由来とか。その後、龍は改心して今でも池に眠るといわれる。

633年に天智天皇により草壁皇子とともに養育された義淵(ぎえん)僧正が皇子の住まいがあった岡宮の跡地に建立したことから、岡にあるお寺=岡寺と親しみを込めて呼ばれている。

岡寺の本堂

岡寺の境内には約3000株もの石楠花が植えられていて、毎年4月半ばから5月のゴールデンウイーク(GW)にかけて咲いて境内を鮮やかなピンク色に彩る。また、仁王門から入ってすぐの手水舎の水面に花を浮かべる「花手水」も有名。実際に目の当たりにすると、あまりにもキレイで、ここで撮った写真をSNSへ投稿したくなる気持ちがよくわかる。GWには境内にある池に天竺牡丹(ダリア)を浮かべて参拝客を出迎えてくれるとか。

GW中、参詣に訪れた人々の目を楽しませてくれる岡寺の天竺牡丹(ボタン)池(岡寺提供)

岡寺の本堂に祀られている本尊は4.85メートルの如意輪観音坐像(にょいりんかんのんざぞう)。塑像(土でできた仏像)としては日本最大で、銅像の東大寺の大仏と木像の長谷寺の十一面観音とともに日本三大仏の1つに数えられている。

岡寺に安置されている如意輪観音坐像(特別な許可を得て撮影しています)

弘法大師が仏教伝来の日本と中国、インドの三国の土でこの像を造られたといわれる。
「今では色彩が剥離して全身真っ白な姿になってしまっていますが、頭髪や瞼の部分をよく見ると、わずかながら色彩が残っています。そこから造立当時の華やかな装飾を想像できます」と、副住職の川俣海雄さん。

お顔の所々にわずかながら色彩が残っている(特別な許可を得て撮影しています)

仏教も仏像も門外漢の筆者でもこの迫力というか、発しているオーラに圧倒される。古来より現代に至るまで多くの人々から信仰を集めているのも十分頷ける。

倭鴨(やまとがも)鍋と〆の蕎麦で“大満腹”

さて、ここで少し別の話題を。今回の奈良の旅で筆者が泊まったのは、近鉄大阪線・橿原線大和八木駅前の『カンデオホテルズ奈良橿原』。橿原市に位置する香具山(かぐやま)と畝傍山(うねびやま)、耳成山(みみなしやま)の大和三山を望む最上階のスカイスパは、旅の疲れを癒やすには最高。

『カンデオホテルズ奈良橿原』のダブルルーム。広さは17平方m〜18平方m

で、この日はホテル近くの居酒屋『八向(やこう)』で夕食を摂った。ここは「春夏は焼きもの、秋冬は鍋」がコンセプト。筆者が訪れた3月中旬は倭鴨(やまとがも)の鍋がメインのコース。倭鴨は奈良県御所市の葛城山麓で飼育された合鴨肉だ。

「鴨肉はあまり煮込みすぎるとかたくなってしまうので、鍋にくぐらせて色が変わったところでお召し上がりください」と、店員さん。

居酒屋『八向』の倭鴨鍋。しゃぶしゃぶのように出汁にくぐらせていただく

鴨肉特有のくさみはまったくなく、とてもやわらかい。噛むごとに芳醇な旨味が口の中に広がる。ネギは言うまでもなく、白菜や椎茸、揚げなどの具材との相性も良い。

圧巻だったのは、鴨肉や野菜の旨味が溶け出したつゆでいただく〆の蕎麦だ。こんなの、美味しいに決まっている。大満腹の大満足で店を後にした。

倭鴨鍋を締めくくる蕎麦

国宝や重要文化財指定の希少な仏像に会える室生寺

翌朝、向かったのは「女人高野」の別称を持つ室生寺。大和八木駅から東へ約30km。車で1時間ほどの宇陀市室生にある。

女人禁制だった高野山(和歌山県)に対し、女性の参詣が許されていたことからそう呼ばれ、女性の信仰を集めたという。そこには徳川幕府五代将軍徳川綱吉の生母、桂昌院(けいしょういん)が大きく関わっている。

室生寺の本堂周辺には石楠花が咲く(室生寺提供)

桂昌院といえば、映画やドラマでは綱吉を溺愛する親として描かれることが多いが、当時衰退していた室生寺に巨額の浄財を寄進し、復興を進めたのが桂昌院だったのだ。現在も石楠花の季節や紅葉の頃になると多くの女性がお参りに訪れる。

室生寺の見どころは、数多く安置されている国宝や重要文化財指定の希少な仏像。金堂の中央に立つのは、平安時代初期に造立された国宝の中尊釈迦如来立像だ。特に朱色の衣の流れるような衣紋は、漣波式(れんぱしき)と呼ばれる独特のもので、この様式を室生寺様(むろうじよう)とも称される。

室生寺の本尊、中尊釈迦如来立像(中央)と文殊菩薩立像(左)、薬師如来立像(右)、十二神将立像(手前)(特別な許可を得て撮影しています)

さらに、中尊釈迦如来立像の左右には文殊菩薩立像と薬師如来立像が、その前には十二神将立像が安置されている。これらはすべて重要文化財である。

圧巻だったのは、本堂正面の厨子に安置されている如意輪観音菩薩。あらゆる願いごとを叶えてくれる如意宝珠(にょいほうじゅ)と煩悩を打ち砕く輪宝(りんぼう)を持ち、女性的な優しさに満ちた表情を浮かべる姿に思わず引き込まれてしまう。

室生寺の如意輪観音菩薩(特別な許可を得て撮影しています)

如意輪観音菩薩像は、一本の木材から像を掘りだした一木造(いちぼくづくり)で、継ぎ目がないのが特徴である。造立されたのは平安時代中期で、その技術力の高さにも驚いた。
諸願成就に功徳があるそうで、筆者もカメラマン、ライターとしてもっと大成できるようにと祈りを捧げた。

奈良県屈指の桜の名所・安倍文殊院

大和四寺巡礼の旅の最後に訪れたのは、安倍文殊院。西に約25km、車で約40分の桜井市阿部にある。近鉄大阪線桜井駅、JR桜井線桜井駅から徒歩で20分ほど。

創建は大和四寺の中で最も古い645年。大化の改新を推進した後の左大臣、阿倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)が、阿倍一族の氏寺として建立した安倍山崇敬寺(安倍寺)が始まりとか。

安倍文殊院は県内屈指の桜の名所として知られ、花見シーズンを迎える3月下旬から4月上旬にかけて境内の約500本に及ぶ桜が咲き乱れる。境内は拝見自由ということもあり、多くの人々がカメラやスマホを片手に桜を楽しんでいるという。

安倍文殊院・金閣浮御堂と桜。池の水面に映る桜も美しい(安倍文殊院提供)

安倍文殊院の本尊は、高さ約7メートル、日本最大の騎獅(きし)文殊菩薩像。鎌倉時代の大仏師、快慶(かいけい)によって造立された菩薩像だ。右手に魔を断ち切るという降魔の利剣(ごうまのりけん)を、左手に慈悲・慈愛を象徴する蓮華を持ち、凛々しい姿が印象的。騎獅とは獅子に乗っているという意味で、雲海を渡り、人々に智恵を授けるための説法の旅に出かける姿を表している。

安倍文殊院の「渡海文殊群像」(特別な許可を得て撮影しています)
どの仏像も見応えがある(特別な許可を得て撮影しています)

文殊菩薩が従えるのは、左側に頭巾を被った維摩居士(ゆいまこじ)と須菩提(しゅぼだい)、右側に獅子の手綱を持つ優填王(うでんのう)と、振り返る姿が愛らしい先導役の善財童子(ぜんざいどうじ)。これらは「渡海文殊群像(とかいもんじゅぐんぞう)」として国宝に指定されている。

新たな環境が始まるこの時に訪れてみる

安倍文殊院は人々のあらゆる願いを叶える場所として沢山の人々から信仰を集めている。筆者も家族の健康と安全、商売繁盛を祈願した。

安倍文殊院の本堂

これから新年度を迎えるにあたって、進学や就職、転勤、異動などで新たな環境で生活がスタートする人も多いはず。奈良の大和四寺を訪ねて、周囲に咲く花や仏像を眺めて心を落ち着かせてみてはいかがだろうか。

文・写真/永谷正樹

【「いざいざ奈良」×EX会員限定「EX旅先予約」プラン】
JR東海では、2024年6月30日(日)まで大和四寺や周辺エリアを存分に楽しめるEX会員限定の「EX旅先予約」プランを展開中。CMの舞台となった長谷寺と室生寺、岡寺、安倍文殊院の4寺院を代表する仏像のアクリルスタンドと拝観券のセットや、東海道新幹線デザインのミニ巡礼札付きのスタンプラリーキットなどを用意。