パ・リーグNo.1投手候補・平良海馬の目標は160km超え「一番の喜びは球速が出た時。沢村賞は興味ない」
埼玉西武ライオンズ
平良海馬インタビュー後編
◆平良海馬・前編>>最先端を走る投手の最新理論「アウトコース低めはまったく意味がない」
今季のパ・リーグで注目されるのが、過去3年続けて沢村賞に輝いた山本由伸がオリックスからロサンゼルス・ドジャースに移籍し、誰が「ナンバーワン投手」の座を受け継ぐのか、だ。
候補のひとりと見られるのが、先発転向2年目を迎える平良海馬(西武)。ウエイトトレーニングで筋骨隆々の肉体に仕上げ、テクノロジーを使いこなす右腕投手に今季、そして今後、目指すものを訊いた。
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平良海馬は3月の侍ジャパンにも選出された photo by Getty Images
── 男子200メートル障害の元アジア最高記録保持者で、西武でスプリントコーチを務める秋本真吾さんが、平良投手の視野の広さに驚いていました。「去年は心拍数について聞かれ、今年は睡眠の質をどうしているのですかと聞かれた」と。「そんなことを聞いてくる選手はなかなかいません」と話していましたが、1年を見据えてよりよいコンディショニングを求めてのことですか。
「もちろんそうですね。そこはわからない部分なんで、僕も。いろんな方にお聞きしながら、学んでいきたいなっていうところではあります」
── 春季キャンプではスマートウォッチを着けて、消費したカロリーをすぐに補給するほど自己管理を徹底しているとニュースになりました。目的は同じことですか。
「同じことですね。調整です」
── ここまで細かく取り組むようになったのは、先発に転向してからですか。
「そうですね。中継ぎのほうが正直、ラクな感じがありましたし。そういうことを突き詰めなくても、できちゃっていた部分があるので。先発になってより高いレベルを目指そうとなった時に、やっぱりそういうことが必要かなって思いました」
── 先発はやりがいがありますか。
「やりがいはありますね。中継ぎと比べると、やっぱりきついですし。本当にラクでもないんですけど、自分で(先発したいと)言ったことですし、ちゃんとその先の目標もあるので。やりがいは大きいですね」
── 昨季開幕前、評論家の里崎智也さんが「山本由伸になれる」と評していたという話をしたら、「そう言われるのはうれしいですし、それ以上になれるようにがんばります」というのが平良投手の答えでした。昨季先発をやって、ご自身のピッチャーとしての可能性は大きく膨らんだと感じましたか。
「そうですね、だいぶ。でも、想像していたよりやっぱりきつかったです。中継ぎのような感じでいけば大丈夫かなと思っていたけど、なかなかそうはいかなかったですね。でも、無理だと思ったら無理なんで。できると思って行動することが大事だと思うので。そこはやっぱり変えずに、それぐらいの選手になれると思ってやっています」
── 大変だった部分は疲労感?
「疲労ですね。中継ぎは週に2、3回、多くて4回くらいの登板で、少ない球数をちょっとずつ投げる感じだと思いますけど、先発は1回ですごい量を投げるので。たとえると、溜め込んでいた仕事を1日でやる、みたいなものなので。それはきついよなっていう感じもあるし(笑)」
── そのなかでパフォーマンスを上げるには、やっぱり回復が大事になると?
「そういうような感覚がありますね」
── 平良投手の向上心の高さは昔からですか。あるいは、プロ1年目を終えた2018年オフに菊池雄星投手(現トロント・ブルージェイズ)の自主トレに参加したことが大きかったのか。
「いや、もともとの性格がたぶんそういう感じです。雄星さんの影響も大きいですし。あとは周りの人、自主トレを一緒にしている(郄橋)光成さんとか、いろんな人の影響もありますね」
── 「もともと」というのは、沖縄ですごした学生時代からということですか。
「そうですね。高校の時にウエイトトレーニングを始めて154キロくらい投げて『プロになれるな』って思ったくらいの時から『プロで絶対に活躍したい』と思っていました。がんばったらがんばった分だけ、ちゃんと対価があるので。本当にそれは魅力だなと思いました」
── ピッチャーをしていてよかったと思うのはどんな時ですか。やりがいを感じる部分というか。
「やりがいは、なんですかね。三振を取るために......三振を取るためにというか、いいピッチャーになるためにどうしていくかというところで、やっぱり三振を取りたい。
じゃあ、三振を取るためにどうするか。『こういう種類の球を使って三振を取っていきたい』と考えて、実行できた時がやっぱりうれしいかなと思います。でも......うれしさはそんなにないかな。ただ、実行できたなっていうだけです」
── 目標を立てて実行して、できたら満足感がある?
「そうだし、言うなら......でも、一番うれしいのは、たぶん球速が出た時ですかね」
── 自己最速は160キロですが、もっと出せますか。
「160を先発になって出したことがないんで。それがもし出たとしたら、その時がたぶん一番うれしい時だと思います」
── それだけ出していたら、打たれる確率が低いから?
「低くなりますね。球速が上がるとともに、空振りする割合も上がっていくので。そういう意味では、球速は絶対に速いほうがいいです」
── 出す気になれば、もっといけるわけですか。
「いや、そういうわけではないです。僕は軽く投げているわけではないです、決して。昨日、3月12日のオープン戦でも思いきり投げて、153キロが最速だったので。このままだと去年と一緒なので、もっと上げていかないといけないなっていうところですね」
── 先発になってストレートを投げる割合はそんなに多くなくなったでしょうけど、160キロがコンスタントに出ていたら満足できますか。
「満足ですね」
── 昨季、先発投手として残したスタッツを振り返ると、満足度はどれくらいですか(23試合で150回、11勝7敗、防御率2.40、153奪三振)。
「去年の段階だと、やっぱり規定(投球回)を投げたいとか。あとは先発として成功......成功って何を持って成功って言うかわからないですけど、中継ぎより活躍できたら成功だと思うので。
去年で言うと、中継ぎの時よりイニングも投げましたし、チームの勝利に貢献できたと思います。そういう意味で大満足ではありましたけど。やっぱり今年、また先発2年目ということで、新たに考えた結果、去年の状態だと普通の先発ピッチャーになってしまうので、もうちょっとレベルアップしたいなと思いますね」
── 普通ではないと思いますけど。
「まあ(笑)。でも、そのクラスの先発ピッチャーって何人もいると思うので。西武だとみんな、そういう感じなので、やっぱりもう1歩、2歩、いいピッチャーになりたいなと思います」
── 沢村賞投手がアメリカに移籍して日本プロ野球からいなくなり、「次は誰が獲るんだ?」という目でメディア側は見ます。プレーする選手として、興味はあるものですか。
「沢村賞は......あまりないですかね」
── 賞は興味ない?
「ないですね。さっき言ったように、一番の喜びはやっぱり、球速が出た時だと思うので。完封してみたいとは思いますけど、たとえば平均球速が150キロくらいで、三振も少なくて、完封をできたとしても、あまりうれしくないので。
そういう意味では、クオリティスタートと目標を決めておいて、試合で実際にそれができたなかで、球速も160キロ近く出ていて、三振も1試合で12、13個取っている時のほうが喜びも大きいですね」
── 自身のなかで基準がブレないんですね、一切。
「そうですね。賞とか興味もあまりないですね」
── 自分の頭の栄養になる、野球の情報はどう摂っているのですか。
「あるひとつの目標があって、それをするために何をしないといけないか。また、目標を達成するために、何が必要なのか。それをどんどん派生させていった結果で必要なことが見えてきて、それを専門家に聞いてみたり、ということをしています」
── ピッチングなら、國學院大学でバイオメカニクスを研究している神事努准教授に聞くとか?
「神事さんに聞いたりしています。栄養については栄養士さんに聞いたり。睡眠はなかなか難しいんですけど、ほかの先発ピッチャーの方に聞いたりしていますね」
── 考え方で参考にする人はいますか。
「あまりないですけど、まず何がしたいのかっていう目標がひとつないと、次に何をしていいかわからないという状態になるので。まずは目標を立てることが大事かなと思います」
── 究極的な目標は、世界一のピッチャーですか。
「うーん......また別の目標が大きくあるので。言いませんけど(笑)。一応あるので、それに向けて何が必要なのか。それを達成するために、また何が必要なのかを派生させて分析してやっています、今は」
── 自分をよりよいピッチャーにしていくには、アメリカにプレーする舞台を移すとかもありますよね?
「そうですね。まずは日本でいいピッチャーというか、しっかり活躍しないとなれないと思うので。そこは大事かなと思います」
<了>
【profile】
平良海馬(たいら・かいま)
1999年11月15日生まれ、沖縄県石垣市出身。八重山商工から2017年ドラフト4位指名で西武ライオンズに入団。2年目に一軍入りを果たし、同年8月に初ホールド&初セーブを記録。2020年はセットアッパーに定着して沖縄県出身初の新人王を受賞する。2022年は34ホールドで最優秀中継ぎ投手を獲得するも、2023年は先発に転向して11勝をマーク。日本代表としては東京五輪メンバーに選ばれて金メダルを獲得。ポジション=投手。身長173cm、体重93kg。