昨年はリーグトップのチーム防御率(2.66)を誇った阪神。盤石のピッチャー陣がリーグ優勝と日本一の大きな原動力となった。今年もそのメンバーは健在だが、岡田彰布監督は「投打ともに新しい戦力が出てこなければ連覇は難しい」と警鐘を鳴らす。

 長らくオリックスで活躍したのちに阪神でもプレーし、引退後の2006年から2009年まで阪神の二軍投手コーチを務めた星野伸之氏に、キャンプやオープン戦などで見た今季の阪神のピッチャー陣について聞いた。


岡田監督も大きな期待をかける門別啓人 photo by Sankei Visual

【リリーフで注目の変則右腕】

――阪神の春季キャンプを視察した際、ピッチャー陣で印象に残ったのは?

星野伸之(以下:星野) 自分が行ったのはキャンプ中盤(2月中旬頃)だったのですが、一番印象に残ったのは西勇輝です。コンディションもよさそうでしたし、いいボールを投げていました。審判も困るぐらいストライクとボールの際どいところへ投げていましたし、コントロールがめちゃくちゃよかったです。

 青柳晃洋も見ましたが、コントロールや球威はまずまずかなと。スライダーを入念に確認しながら投げていたのと、真っすぐもけっこう投げていました。村上頌樹は昨年のいい時に比べるとまだまだかなと思いましたが、それでも指にしっかりかかったボールはすばらしいですし、これから状態を上げていけばいいのかなと。ピッチャー陣は総体的にいいボールを投げていたと思いますよ。

――3年目の岡留英貴投手も評価を上げましたね。春季キャンプで連日のようにアピールし、先発した3月10日の巨人戦では2回1安打無失点と好投しました。

星野 入団したばかりの頃は荒れ球の印象があったのですが、ブルペンで見た時は非常にコントロールがよくてまとまっていました。ブルペンでの安定感が、そのまま試合でも出せていると思います。

――岡留投手の変則の投球フォームをどう見ていますか?

星野 腕の位置が低く、サイドスローのようでサイドスローではない、という投げ方ですね。当初は、その投球フォームがコントロールの乱れにつながっているのかなと思っていましたが、投球フォームは変えずに制球力を向上させました。相当努力したんでしょう。

 阪神は現状でも十分にリリーフ陣の層が厚いですが、彼のような変則のピッチャーが入ってくれるとバッターの目線を変えることができますし、リリーフ陣にバリエーションが生まれます。

リリーフでは桐敷拓馬も、ボールに非常に力がありましたし、コントロールも安定していました。本当に層が厚いですね。

【岡田監督も期待の左腕は「19歳とは思えない」】

――注目の左腕・門別啓人投手はどう見ていますか?

星野 やはり、岡田監督が期待するだけのピッチャーだなと。球威もコントロールも申し分ないですし、球速も150kmを超えてくる。19歳とは思えない落ち着きも感じます。

 それと、投げる時に体が早く開いてしまうと、バッターが球の出どころを見やすくなったり、コントロールがばらついたり、球威が落ちてしまったりするのですが、彼は体が早く開く心配がない。体をひねる動作を含めて投球フォームが常に安定しています。

 岡田彰布監督に「フォアボールで崩れることはなさそうですね」と話したら、「そりゃそうやな」と言っていましたし、首脳陣の評価も高いと思います。自分が視察したのは選手たちに疲れがたまってくるキャンプの中盤だったのですが、それでもいいボールを投げていましたからね。

 ただ、(2月17日の)楽天とのオープン戦で登板した時には疲れが見えました。球速は140km台中盤でしたし、コントロールも多少ばらついていた。それでもフォアボールを出さなかったところは門別の長所ですし、ストライクをいつでも取れるような雰囲気がありますね。

――右バッターの内角に食い込むクロスファイヤー(利き腕と対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)も持ち味ですね。

星野 クロスファイヤーは高校時代からすごく練習していた、と聞いていましたが、本人も自信を持っているだけあって精度は高いと思います。ピッチャープレートの一塁側を踏んで角度をつけて投げていますが、右バッターは対応に苦しむでしょう。

 スライダーもいいです。楽天戦では辰己涼介らからスライダーで三振を取っていましたが、「振らせるスライダー」と「カウントを取るスライダー」がありますね。カーブやツーシームも投げるみたいですけど、まずは球威のある真っすぐとスライダーを磨いていけばいいのかなと。今年、どれぐらい登板機会があるかはわかりませんが、間違いなく一軍の戦力になるでしょうね。

【新外国人のゲラの評価は?】

――新外国人のハビー・ゲラ投手はいかがですか?

星野 当初は制球に難があるという話もありましたが、まとまっていましたし、2月の後半くらいから150km台中盤を出していたのがすごい。スライダーやカットボールの切れ味もいいですし、クイックやけん制も問題ありません。クローザー候補として岩崎優と争っていけそうです。

 心配なのは湯浅京己です。試合形式で投げていた際、球速は154kmが出ていたのですが、ボールが垂れてしまっていた。今までの投球フォームは足を上げた時に1回止めていたのですが、それをやめましたよね。それと、テイクバックをコンパクトにしたのですが、足の動作を含めて2カ所変えている。投げる時のタイミングやバランスをうまくとれるようになるまで、時間がかかると思います。

――ゲラ投手はセットアッパーではなくクローザーでの起用になりそうですか?

星野 そうなる可能性は十分にあると思いますし、岩崎とのダブルクローザーも考えられます。昨年はクローザーの岩崎につなぐまでにいろいろなピッチャーをやりくりしていましたが、岡田監督のイメージだと、後ろの3イニングは軸となるピッチャーをきっちり決めたいんじゃないかなと。

 その候補のひとりだった湯浅がピリっとしないので、そこに岡留、桐敷が入ってくるのか。ほかにも岩貞祐太や島本浩也、石井大智ら何人か候補はいますね。オープン戦の内容を見て役割を決めていくと思いますが、やはり昨年との違いはゲラの存在。オープン戦でも期待通りの結果を残していますし、彼の存在はブルぺンにとって非常に大きいと思います。

【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。