ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――春のGIシリーズがいよいよスタート。そのトップを飾るのは、「春の短距離王決定戦」となるGI高松宮記念(3月24日/中京・芝1200m)です。

大西直宏(以下、大西)競馬ファンにとっては、待ちに待った春のGIシリーズ。ここから毎週、毎週、レース検討に追われて、寝不足の日々が続きそうですね。

 さて、今年最初のGIフェブラリーSが大波乱に終わったように、ここ最近の古馬GIはかなり難易度が高くなっています。それは、海外のレースとの兼ね合いもあって、トップクラスの馬がそちらに回ることが多くなっているからでしょう。

 そういう意味では、高松宮記念においても想定外の決着を視野に入れながら、柔軟な発想で検討していったほうがいいかもしれませんね。

――確かに、古馬トップクラスの面々は海外レースを含めて選択肢が増えています。この春も、国内一線級の馬たちがドバイや香港などのビッグレースに参戦予定です。おかげで、最近の国内GIでは「初の●●」という馬が結果を残すレースも目立ち、波乱を演出しています。フェブラリーSでも「初のマイル戦」「初のダート戦」という馬によるワンツー決着でした。

大西「初めて」がキーワードになる馬は、過去に例がないため、その馬がレースで対応できるかどうかは未知数です。それゆえ、ファンからも敬遠されやすくなりますが、逆に言えば、そこが馬券の盲点にもなります。

 短距離GIで言えば、主に1400m〜1600mの距離を使ってきた馬が"初めての1200m戦"という形で結果を出すことが多く見られます。そして今年も、"初めての1200m戦"という馬のほか、中京コース、左回りが"初めて"といった馬も何頭かいて、ひと筋縄ではいかないレースとなっています。

――もうひとつ気になるのが、当日の天気と馬場状態です。高松宮記念は過去4年連続で道悪競馬となっており、2021年を除いてすべて波乱の決着。今年も週末は雨予報となっていて、"荒れる"ムードが充満しています。

大西 個人的には、好天、良馬場での純粋なスピード勝負を見たいと思っていますが、天候はコントロールできません。

 ただ、馬場がレースの行方を左右する大きな要素となることは間違いないでしょう。現に、昨年も馬場の巧拙がはっきり問われる結果になりましたから。

 そうした状況にあって、晴雨兼用タイプであれば、何ら不安はありません。荒れ馬場を得意とする馬にとっては、開催最終週でもありますし、少しでも馬場が渋れば、アドバンテージになりそうです。

――メンバー比較以外にも考慮すべき材料が多く、本当に難解な一戦と思われますが、現時点でのレース展望を聞かせてください。

大西 一連のスプリント重賞を見てきて、現5歳世代がしっかりしている印象があります。というのも、昨年の高松宮記念以降に行なわれた芝1200mの重賞(2歳戦は除く)9鞍のうち、8鞍で現5歳世代が勝利を飾っているからです。

 唯一勝てなかったのは、今年のGIIIシルクロードS(1月28日/京都・芝1200m)。それでも勝ち馬以外、掲示板は5歳勢が独占しました。依然として、スプリント路線は5歳世代がけん引していることは間違いありません。

 その5歳世代は、今回もこの路線の中心的な存在であるナムラクレア(牝5歳)をはじめ、昨秋のGIスプリンターズS(中山・芝1200m)を制したママコチャ(牝5歳)、重賞2連勝で勢いに乗るウインマーベル(牡5歳)や、クリストフ・ルメール騎手を鞍上に配してきたトウシンマカオ(牡5歳)など、充実した顔ぶれ。

 やはり、これら5歳世代が中心になるのではないかと考えています。なかでも、晴雨兼用タイプであるナムラクレアの安定感には一日の長があると見ています。

――一方で、想定外の決着も視野に入れた場合、大西さんが気になっている馬はいますか。

大西 香港馬のビクターザウィナー(せん6歳)でしょうか。GIジャパンC(東京・芝2400m)に来日するような外国馬は「馬場適性の違い」を理由に軽視することもできますが、短距離戦ではそれが当てはまりません。

 しかも、香港のスプリント路線で活躍する馬は世界でもトップクラスの実力を誇ります。その舞台のGIウィナーとなれば、無条件に警戒すべきだと考えます。


高松宮記念での一発が期待されるビクターザウィナー。photo by Tsuchiya Masamitsu

 香港馬はホームの戦いのみならず、アウェーのレースでも多くの実績を出してきました。スプリンターズSでは過去、2頭の香港馬が優勝(2005年サイレントウィットネス、2010年ウルトラファンタジー)。高松宮記念でも、2015年にエアロヴェロシティが勝っています。

 ビクターザウィナーもそれらと共通して、出脚がとても速くてラクに好位を取れます。馬体重500kgほどと馬格があって、走法からもタフな馬場になっても対応できそうな感じです。厩舎サイドとしても、勝算があっての参戦でしょうから、軽視は禁物です。

 というわけで、ビクターザウィナーを今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。